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【第一章完結】虚空に宿りゆく六炎  作者: 雨波乃 碧天
第一章 貪る

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第七話 胸の奥で、何かが形になり始めた

「サガああああああ!!」



 感情が、爆発した。体が、力を、無理やり動かした。


 シューニャの足元で小爆発が起こった。その威力は体を押し出すのに十分、一瞬で加速したシューニャの体はトロールとサガの間に割って入った。



「!?」

「はああああッ!!」



 力は暴れているようで、完全に統制されていた。


 シューニャの手から、小さな炎が放たれた。燃えるものを求めるようにゆらめく、小さな炎。トロールの顔へ、真っ直ぐ、弱々しく飛んでいった。

 それがただの炎なら、誰でも容易く振り払えただろう。ただの炎だったなら。

 棍棒を振るった。炎は消えなかった。


 炎は、燃え移った。


 瞬き一つする間に、棍棒の炎が全身に広がった。

 さすがのトロールも、己の体が燃える苦痛には耐えられなかった。何とか炎を消そうと、暴れまわった。しかし勢いは増すばかり。


「サガ、巻き込まれる。離れよう」

「シューニャ……?」

「はやく。立って」


 シューニャは放心状態のサガの腕を両手で引っ張った。トロールから離れることだけを考えて走った。

 地面に擦られる痛みに、冷静さを取り戻したサガはシューニャを止めた。砂を落として立ち上がった。


「もう、大丈夫だ。助けてくれてありがとう、シューニャ。」

「ううん、勝手に体が動いただけだよ」


 サガの涙を見た瞬間、シューニャは自分の中に強い何かが生まれたのを感じた。サガを助けたいという、体をも突き動かす思いだ。

 胸の奥で何かが形になり始めたのを感じた。


 トロールは炎に貪り食われ続け、段々とその動きを弱めていた。

 そして大きな音を立てて倒れ伏した。炎の勢いが収まっていった。

 完全に炎が消えたと思った瞬間。炎が花開いた。色とりどりの炎が宙を舞い、空気に溶けて消えた。


 二人は顔を見合わせた。


「あれ、流石に死んだよな?」

「死んでなかったらおかしいよ」

「やっぱそうだよな……!」


 サガの鼻と目元がみるみる赤くなっていった。


「良がったあ……! 俺まだ助かっだああ!!」


 サガはシューニャをハグした。凄まじい泣き顔だった。


「ありがとう、シューニャ!!」


 シューニャは満ちたような感覚だった。空っぽだった胸の奥に、小さな熱が宿った気がした。


「どういたしまして」


 満面の笑みで、ハグ仕返した。



「それじゃぁみなさん、帰りますよ!」


 ゾーイの呼びかけに、休憩していた全員が体を伸ばした。ペトロはゾーイの肩を借りつつ、何とか立ち上がった。

 道中、シューニャは称賛の嵐を浴びていた。何回か巻き込んでしまったと謙遜しても、それでも倒したのはお前だと称賛された。そして、ペトロも称えてくれたことが、心の救いだった。


 シューニャは、笑いあって話す皆を見て気づいた。あの時の引っ掛かりの正体である。

 サガが死に怯えていたときの、泣き顔。それを見たとき、思い出した。魔物に襲われたクィエスタ村で、瓦礫に埋もれ、泣いていた自分を。あのとき、走馬灯の激流の中で確かに引っかかっていた、小さな熱を。


 そして、初めての依頼で、もらったもの。

 おじいさんがくれた、赤い木の実の酸味。

 重労働の後に飲んだ、冷たい塩水の味。

 そして、命を救ったときにサガがくれた、温かな笑顔とハグ。


 その後の日々でも誰かに必要とされ、感謝される度に、胸が熱くなった。

 これまでに得た全てが、繋がっていった。一つの点に、収束していった。


(私は人の求めに応えて、笑顔を見たかったんだ。)


 走馬灯で引っかかったのは、「欲」という感情だったのだ。

 シューニャは胸に手を添えて、その気づきを大事にしまった。

 街の方角の星が、一際瞬いて見えた。


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