第八話 また解剖できる
ギルドに戻ってくると、人はほとんどいなかった。
「みなさん、お疲れ様でした。最後に一難ありましたが、無事戻ることができましたし、興味深いものも見れました。調査記録も揃っています。本当に、ありがとうございました」
カトーは深々と頭を下げた。さて、とペンを懐から取り出すと、全員の依頼達成証明書にサインを書いていった。
四人が報酬を受け取った後、ゾーイが解散の音頭をとった。シューニャは重めの足取りで動き出した所、カトーに呼び止められた。
「なに?」
「シューニャさん、炎の力、すごかったですね」
「そう? ありがとう」
「いえいえ、とても貪欲で、美しい炎でした」
カトーはそう言い残し、ギルドを後にした。
シューニャはその意味が分からなかったが、「貪欲」という言葉だけが耳に響いた。
初めて話したのに親しさがあるという、奇妙さだけが残った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
満月が天頂に昇った頃。メンザルクシア中央学院にて。
「ペレナ学院長!」
カトーは学院長室に駆け込んだ。
部屋には、本棚が壁のように立ち並び、大量の書物が敷き詰められていた。中央には大きな机があり、紙が積み上がっていた。
机に向かう女性――ペレナは作業に没頭していた。卓上の蝋燭に照らされ、手元がゆらゆら揺れていた。怨霊のような雰囲気も相まって、部屋はとても不気味だった。
「調査がある程度まとまったので、報告に来ました。こちらがまとまった調査書です」
「ああ、そこに置いといてくれ」
ペレナは切りが良いところまで手を進めると、調査書をめくり始めた。
カトーはその様子を見て、軽く説明した。
「クィエスタ村は、何らかの魔力的現象によって消滅したと考えられます。地面がなにかに飲み込まれたように、えぐり取られていました」
「そうだな、私も同じ意見だ……」
ペレナは小さくこぼした。どこか、無念さを孕んでいるようだった。
「……本当に、何もなかったのか?」
「はい。草一つすら生えておりませんでした」
ペレナはそうか、と興味をなくし、調査書を側にどけた。カトーは姿勢を正し、再び口を開いた。
「ところでもう一つ報告があるんですが……新たな覚醒者が現れました」
ペレナの手が止まった。
「護衛として調査に同行したのですが、初めて聞く名前だったのでリストと照合してみた所、載っていませんでした」
「その覚醒者の、名前は?」
刹那、沈黙が降りた。
「シューニャ、と言っていました」
ペレナが机にペンを叩きつけ、バッと振り返った。カトーの心臓が跳ね上がるほど、突然の反応だった。
「ど、どうされましたか?」
「いやなんでもない。報告感謝する。下がって良い」
「承知しました。失礼しました」
カトーは振り返り、そっとドアを締めた。
「ああ、良かった……ここ最近は調子が落ちていたが……」
ペレナは腰に手を当て、机の周りを歩き始めた。
「私は、感情をまた解剖できるのだ……!」
恍惚とした表情で、椅子に倒れ込んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
クィエスタ村調査の後も、シューニャは引き続き依頼をこなして、金を稼いでいた。依頼主の表情を見ることで、大きな励みになっていた。
ある日、依頼が終わって証明書を提出すると、受付嬢に奥の部屋へ案内された。小綺麗な部屋の中には、ソファーが向かい合っていた。
片方のソファーには、見覚えのある人物――カトーが座っていた。
「こんにちはシューニャさん、久しぶりですね。やはり、新たに目覚めた方でしたか」
シューニャは少し首を傾げつつ軽く返した。カトーにソファーに座るように促された。
「どうしたの? 何か用?」
「はい、あなたが特別、というものではなく、覚醒した方全員にお伝えしていることですが……あっ、別に無理強いはしません」
カトーは背中を曲げ、手を組んで顎を乗せた。
「シューニャさん。ぜひ我が学舎、メンザルクシア中央学院に来てくれませんか?」
部誌掲載部分はここまでです。
また、書き溜めがないのでしばらく更新しません。完結扱いとします。
1ヶ月後には、更新再開できると思います。
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