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【第一章完結】虚空に宿りゆく六炎  作者: 雨波乃 碧天
第一章 貪る

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第六話 死ね、死ねエェ!!

 ゾーイも声を張り上げた。


「ペトロ! お前はいつも通りの連携で行くぞ! サガは俺が狙われそうになったら、ペトロの頭上を通るように矢を放ってくれ!」

「分かった!」

「シューニャは、トロールの体勢が崩れたところでデカいのをブッ放ってくれればいい」

「うん、わかった!」

「カトーさん達は、物陰を見つけるか作るかしてとにかく隠れてくれ!!」

「わかりました!」


 ペトロはゾーイの前に出て、トロールの攻撃を受けた。見事な大盾捌きでいなした。

 体勢を崩したトロールにすかさずゾーイが斬り込んだ。再び腕を斬り落とした。流れるように背後に入り、足を何度も斬りつけた。

 脚に傷を負えば、巨体を支えきれるはずもなく。トロールは仰向けに倒れ込み、地面が揺れた。


「離れて!」


 シューニャは指示通り、がら空きの腹に巨大な炎球を叩き込んだ。轟音とともに炸裂し、衝撃波が広がった。

 サガとゾーイは上手く避けられたが、ペトロは間に合わず、余波を受けてしまった。


「ごめんなさい、ペトロ!」

「……」


 ペトロは無言で盾を振った。

 退避に成功した二人組は、シューニャの魔法を傍観していた。


「にしても凄いな。魔法使いってあんなに強いのか」

「ゾーイ、そう言っているうちに、もう再生しちゃったぞ」

「だな。やっぱりトロールは手強い。楽には倒せないぜ」



 夕焼けも闇に染まり、月が出始めた頃。戦線は崩れ始めていた。

 ゾーイとペトロが、動きに精細さを欠くようになった。もっとも、シューニャの六度目の巨大攻撃のとき、再びペトロが巻き込まれてしまったのだ。当時のシューニャの表情には、疲労の色が出ていた。

 そこから、攻撃のテンポが瓦解しかけていた。

 全てシューニャが悪いのは明らかだったが、誰も責めなかった。そのことをシューニャ自身がわかっているからこそ、余計に辛かった。


「皆、奴の再生速度は確実に遅くなっている! このまま畳み掛けるぞ!」


 ゾーイが皆を鼓舞した。

 なりふり構わずトロールは突進してきた。ペトロは振り下ろされる棍棒に対し、大盾を構えた。



 ――トロールの視線が逸れた。



「ゾーイ!」

「ッ……!」


 視線はペトロに向けられていたのに。急にゾーイに移った。

 フェイントと判断したペトロは、盾を振りかぶってトロールのスネに打ち付けた。さすがのトロールも一瞬体勢を崩したが、ペトロが構え直す暇は与えてくれなかった。

 ペトロは、石ころのように蹴飛ばされた。しばらく転がり、やがて止まった。

 ペトロは、上体を起こすので精一杯のようだった。


 戦場にいる誰もが、悲観して沈黙した、その時だった。



「トロール! こっち向きやがれ!」


 沈黙を突き破ったのは、サガだった。

 限界まで引き絞った弓が矢を放った。風を切り、トロールの右目に深々と突き刺さった。




 ――サガにとって、これは決死の攻撃だった。自分が死んでも、あの二人だけは生かさないといけない。何としてでも、注意を二人からそらさなければならない。


 もし目を射ったら、自分が殺されると、分かっていた。


 それなのに。


「死ね、死ねエェ!!」


 一つ、また一つと、足音が大きくなっていく。


 もう、理性を保てなくなった。


 最後に放った矢は、あらぬ方向へと飛んでいった。

 サガの視界は、何も見えていなかった。

 トロールが、サガの目の前に立った。棍棒を上段に構えた。

 サガは目を瞑った。

 目尻から雫が流れ落ちた。




 ――シューニャはその雫を見逃さなかった。


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