第六話 死ね、死ねエェ!!
ゾーイも声を張り上げた。
「ペトロ! お前はいつも通りの連携で行くぞ! サガは俺が狙われそうになったら、ペトロの頭上を通るように矢を放ってくれ!」
「分かった!」
「シューニャは、トロールの体勢が崩れたところでデカいのをブッ放ってくれればいい」
「うん、わかった!」
「カトーさん達は、物陰を見つけるか作るかしてとにかく隠れてくれ!!」
「わかりました!」
ペトロはゾーイの前に出て、トロールの攻撃を受けた。見事な大盾捌きでいなした。
体勢を崩したトロールにすかさずゾーイが斬り込んだ。再び腕を斬り落とした。流れるように背後に入り、足を何度も斬りつけた。
脚に傷を負えば、巨体を支えきれるはずもなく。トロールは仰向けに倒れ込み、地面が揺れた。
「離れて!」
シューニャは指示通り、がら空きの腹に巨大な炎球を叩き込んだ。轟音とともに炸裂し、衝撃波が広がった。
サガとゾーイは上手く避けられたが、ペトロは間に合わず、余波を受けてしまった。
「ごめんなさい、ペトロ!」
「……」
ペトロは無言で盾を振った。
退避に成功した二人組は、シューニャの魔法を傍観していた。
「にしても凄いな。魔法使いってあんなに強いのか」
「ゾーイ、そう言っているうちに、もう再生しちゃったぞ」
「だな。やっぱりトロールは手強い。楽には倒せないぜ」
夕焼けも闇に染まり、月が出始めた頃。戦線は崩れ始めていた。
ゾーイとペトロが、動きに精細さを欠くようになった。もっとも、シューニャの六度目の巨大攻撃のとき、再びペトロが巻き込まれてしまったのだ。当時のシューニャの表情には、疲労の色が出ていた。
そこから、攻撃のテンポが瓦解しかけていた。
全てシューニャが悪いのは明らかだったが、誰も責めなかった。そのことをシューニャ自身がわかっているからこそ、余計に辛かった。
「皆、奴の再生速度は確実に遅くなっている! このまま畳み掛けるぞ!」
ゾーイが皆を鼓舞した。
なりふり構わずトロールは突進してきた。ペトロは振り下ろされる棍棒に対し、大盾を構えた。
――トロールの視線が逸れた。
「ゾーイ!」
「ッ……!」
視線はペトロに向けられていたのに。急にゾーイに移った。
フェイントと判断したペトロは、盾を振りかぶってトロールのスネに打ち付けた。さすがのトロールも一瞬体勢を崩したが、ペトロが構え直す暇は与えてくれなかった。
ペトロは、石ころのように蹴飛ばされた。しばらく転がり、やがて止まった。
ペトロは、上体を起こすので精一杯のようだった。
戦場にいる誰もが、悲観して沈黙した、その時だった。
「トロール! こっち向きやがれ!」
沈黙を突き破ったのは、サガだった。
限界まで引き絞った弓が矢を放った。風を切り、トロールの右目に深々と突き刺さった。
――サガにとって、これは決死の攻撃だった。自分が死んでも、あの二人だけは生かさないといけない。何としてでも、注意を二人からそらさなければならない。
もし目を射ったら、自分が殺されると、分かっていた。
それなのに。
「死ね、死ねエェ!!」
一つ、また一つと、足音が大きくなっていく。
もう、理性を保てなくなった。
最後に放った矢は、あらぬ方向へと飛んでいった。
サガの視界は、何も見えていなかった。
トロールが、サガの目の前に立った。棍棒を上段に構えた。
サガは目を瞑った。
目尻から雫が流れ落ちた。
――シューニャはその雫を見逃さなかった。




