第五話 見覚えのある場所
短め。
数十歩で到着した。カトーが指した指の先には、露出した地面が広がっていた。時々吹く風が、砂埃を上げていた。
シューニャにとって、そこは見覚えしか無かった。
(私が、起きた場所だ……)
シューニャの頭の中に、ある疑念が駆け巡った。もしかして、クィエスタ村が消滅したのは私のせいなのか。最後に見たあの強烈な光は、自分の炎の光と似ているような気がする……いや、私にそんな力はないはずだ。村を丸ごと消し飛ばすなんて力は。
最終的に理由をこじつけて否定した。頭を振って、わずかに残った疑念も振り払った。
一人で悩んでいる間に、調査員団は調査を始めていた。変な道具を使ったり、土を採取して袋にしまったり。シューニャたちにとっては不可解なものだったが、調査員団の表情は真剣そのものだった。一瞬、恍惚とした表情を浮かべたこともあったが。
空が鮮やかに焼けた頃、ついにクィエスタ村跡地の全範囲の調査が終わった。その間、サガとゾーイは走り込みをし、シューニャは石を蹴ったり炎で遊んだりして退屈を何とかしのいでいた。そんな三人に対して、ペトロは盾を構えたまま微動だにせず、調査員団の皆を見守っていた。
「みなさん、護衛ありがとうございました。お陰様で、安心して調査に取り組めました。本当にありがとうございました」
カトーの言葉に続き、片方の調査員は礼をした。
「ほら、お前も礼を……どうした、何かあったのか」
カトーが咎めようとした調査員は、遠くを見たまま固まっていた。
「ほら、なんか言ったらどうだ」
カトーから強い口調で声をかけられるも、遠くを見続けていた。
そんな彼の表情が突然変わった。見ていた方向へ駆け出していってしまった。
その先には、小さな林があった。クィエスタ村跡と比べると四分の一程度の範囲だが、様々な種類の木が生えていた。
彼は木々の肌を触り、根本の草をかき分けた。何かを確認している様子だった。
数分すると、シューニャたちの方へ振り向いた。その表情は、恐怖に歪んでいた。
「大変です! ここは魔物の縄張りかも知れません!」
彼はそう叫びながら、駆け戻ろうとした。しかしその背後には巨大な影があった。
巨大な手が、彼の頭に影を差した。彼は本能的に上を向いてしまった。
「ぎゃぁアアア!!」
巨大な手は調査員の頭を掴み、容易く持ち上げてしまった。手に力が込められようとした瞬間だった。
ゾーイが影の前を刹那の間に通り過ぎた。巨大な手がずり落ち、きれいな断面を晒した。襲われた研究員はゾーイに担がれ、無事にシューニャたちのもとに戻った。
「おい、大丈夫か!」
すかさずカトーが声をかけた。
「ゾーイさんのおかげで、大丈夫です……。失禁するところでしたが」
「何故、あんな行動を?」
「林の中に何かが存在していました。目があったのでわかりました。その存在は何かを食べている途中でした」
「その存在は、何だ?」
「おそらく、魔物です……」
調査員が、居住まいを正してから、言葉を続けた。
「私は調査の途中で、跡を消したような痕跡を見つけました。おそらくそれは魔物の跡でした」
「何故それをすぐ報告しなかった? 夜になれば、魔物が活動しだすことは知っているだろう!?」
「はい! 知っております! ですが林の中の存在と目が合うまで確信が得られなかったのです。この当たりにそのような知能の魔物は出現するとは思っておらず……」
「お前ッ!! あれほど、偏見を捨てて調査せよと教えただろうが!」
「す、すみません!」
カトーが顔を赤くしているその側で、ゾーイは深刻そうな顔をしていた。
その険しい目の先には大きな魔物がいた。ペトロはシューニャたちの中で最大であるが、その二倍ほどの高さだった。
切断したはずの腕は流血が止まっただけでなく、盛り上がっていた。
「巨大で、跡をかき消すほどの知能を持ち、厄介な再生能力を持つ……」
ゾーイの眉間の皺が、一層深くなった。
「厄介だな……トロールだ」
トロールが叫んだ。大地と空気がビリビリと震えた。




