第四話 理由を知りたい
シャワーから上がったシューニャは、ベッドの上で髪の毛の絡まりをほどいていた。髪は元の輝きを取り戻しつつあった。猫毛で絡まりやすいため、今はぐちゃぐちゃであるが。
指先で結び目をほぐしながら、今日の出来事を振り返った。
知らないところで目覚め、街までの道をただ歩いた朝。問屋に登録し、重労働をこなした昼。そして、サガといっしょに狩りをし、ともに死線をくぐり抜けた夜。
今日で一気に一週間を過ごしたような、濃密な一日だった。その濃密な出来事の中にも、シューニャにとってとても印象深いシーンがあった。
依頼人たちの表情である。おじいさんや豪快な男性、そして狩人のサガが見せた、依頼達成時の笑顔。なんとも嬉しそうで、自分まで心が暖まる気分だった。
ある程度ほどけ、片手が空いた。その片手で、あの炎の力を試した。炎を大きくしたり小さくしたり。丸く形づくってみたり手の上で回転させたり。遊ぶように炎を操っていると、段々と感覚を掴んできていた。
一瞬燃え移りそうだったが、瞬時に消した。燃やしたら大変だ、とシューニャは炎で遊ぶのをやめた。
絡まりが完全に解けた頃、シューニャは眠りについた。
それから一週間、シューニャは色んな仕事をうけ続けた。炎の力も使うこともあり、あっという間に名を馳せていった。
今日も依頼を受けに行こうと問屋ギルドへ向かった。建物に入ってすぐに受付嬢に呼び止められた。
「あの、シューニャちゃん、ちょっといい?」
この一週間で、受付嬢とかなり仲良くなった。呼び方が変わったり、友達口調で話しかけたりしてくれた。
「なに?」
「ちょっと一件、シューニャちゃん宛に依頼が届いてるんだけど、見てくれないかな」
「どれ?」
受付嬢は下の方から紙を取り出した。そこにはびっしりと文字が書かれていた。
「指名依頼?」
「そう。メンザルクシア中央学院っていうところの研究員の護衛だって。詳細はココに書いてあるよ」
シューニャは、受付嬢が指を指したところに目をやった。
「クィエスタ村消滅の調査に伴う護衛依頼? クィエスタ村って消滅したの?」
「そう。あなたの出身地が消滅したことを受けて調査員団が派遣されたらしくてね。その代表クィエスタ村出身かつ炎の魔法を使えるかつそれなりに実力があるというあなたを選んだの」
シューニャは動揺を隠すことができなかった。いくら無味乾燥な生活を送っていた村とはいえ、生きた故郷として大切に思うところはあるのだ。
問い詰める調子で、受付のカウンターに身を乗り出した。
「なんで消滅したの? 私知らない!」
「それを今から調べに行くのよ……でもそうね、あなたはクィエスタ村出身でも違うところから歩いてきたって言ってたわね」
受付嬢はシューニャを宥めた。
「で、どうする? 蹴ることもできるけど……」
「受ける。私も、理由を知りたい」
「わかった。調査員団の出発は二日後ね。問屋ギルド集合だよ」
「うん、わかった」
二日後、ギルドに護衛依頼を受けた人達があつまった。
「よ! また一緒になったな!」
サガはシューニャを見るなり声をかけた。
「うん、そうだね」
「またよろしくな」
「よろしく」
「サガ、お前炎使いさんと知り合いだったのか」
割り込んだ声の方を向くと、大男が二人いた。片方は腰に大きな剣を佩き、もう片方は重そうな鎧と大盾を装備していた。
話しかけてきたのは剣使いだろう。見ただけで朗らかそうな人だと分かった。一方、大盾使いの方は寡黙そうな人だと思った。なんとなく、話しかけづらそうだ。
サガは剣使いの方を向いた。
「あぁ。前一緒に狩りをやってな」
「へぇそうなのか」
剣使いは柔らかな表情で、シューニャを見据えた。
「シューニャ、といったか? 君のことはよく耳にするぜ。よろしくな」
「うん」
「俺は剣使いのゾーイ。サガとは結構仕事をすることが多くてな、仲がいいんだ。んで、こいつは大盾使いのペトロ。あんまり喋んない寡黙な奴だけど、信頼できるバディだ。怖がらないでやってくれ。」
「わかった。よろしく、ゾーイ、ペトロ」
「おう」
ペトロは小さく頷いた。
しばらく談笑していると、問屋ギルドの扉が開いた。高そうな服を着た人が三人入ってきた。
真ん中を歩く、メガネを掛けた男性がゾーイに話しかけた。
「こんにちは、ゾーイさん。私は調査員団代表のカトーです。本日はよろしくお願いします」
「あぁ、調査の邪魔は全て我々が排除します。安心して調査してください。ほら皆! 調査員の方々が来たぞ、自己紹介をしよう」
剣使い、大盾使い、狩人、炎の魔法使い、そして調査員団三名それぞれが、自分の名前と軽い挨拶を述べた。
「これは……心強いメンバーですね。調査に没頭できそうです」
カトーは目をシューニャに向けつつ言った。
シューニャは、さっきからなんで私を見てくるんだろうと思っていたが、気にしないようにした。
「我々は準備は万端です。みなさんも大丈夫であれば、早速向かいましょう」
護衛四人は頷いて、調査員のあとをついて行った。
事前に決められていたルートは最短距離ではなく少し回り込むような道だった。なんでも、最短距離の道には強力な魔物の出現報告が増えているのだ。念には念をということで安全策を選択した。
道中、シューニャとサガは雑談をした。最近の依頼の依頼人が面倒くさい人だったとか、この依頼は大変だよね、みたいな他愛もない話が続いた。
サガは自分の失敗談が終わると、下を向いた。
「どうしたの?」
「いや、こうして失敗談をしつつ振り返ってみると、もっと頑張らないとなぁって」
「そう? 十分頑張ってるんじゃないの?」
シューニャは小さく首を傾げた。
「つい最近まではそう思ってたんだけどな。シューニャと死線をくぐり抜けたあと、そしてその後のシューニャの活躍を聞いているとね、俺もまだまだだなぁって気づいたんだ」
「そうなんだ……」
シューニャは胸のあたりがくすぐったくなった。自分によって、サガが変わろうとしているんだと思うと、余計ソワソワした。ちょっと嬉しくて、熱くなった。
「おうサガ、お前そんな事思ってたのか!」
「ゲッ、聞いてたのかよ……」
「お前も若いなぁ、俺も二十くらいの頃はそんな素直さもあった気がするぜ」
「いや今そんくらいだよ俺」
「ああそうだったな!」
ガッハッハ、と二人は豪快に笑った。二人のやり取りを見ていると、シューニャも面白くなって吹き出した。ペトロの鎧もカタカタ鳴っていた。
「みなさん、楽しそうに笑ってますけど、もうすぐ着きますよ……いや、もう目の前ですよ!」




