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【第一章完結】虚空に宿りゆく六炎  作者: 雨波乃 碧天
第一章 貪る

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第三話 死なないでくれてよかった

 限界一杯まで開かれた手のひらの先に、何かが生じた。

 小さい炎だった。猛々しく、強い光を放つ炎。一瞬のうちに轟々と膨れ上がり、炎球を形成した。


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」

「グルッ?」


 獣の如き咆哮とともに、炎球が圧縮され、打ち出された。

 狼に直撃。勢いそのままに、木々をへし折りながら吹っ飛んだ。

 大木に激突すると、炎球が炸裂した。森全体が昼のように輝き出した。


「シューニャ!!」


 手を握ったり開いたりしていると、シューニャの視界が横転した。

 サガは心配そうな表情で駆け寄った。


「あれ……?」

「お前、さっきの、大丈夫か!?」

「うん……なんだか力が抜けただけ」

「そうか。なら、良かったよ」


 サガはシューニャの隣で大の字になった。


「いやあれは、本当に、死ぬかと思った!」

「うん、私もそう思った」

「ほんとびっくりだぜ、お前がまさか能力持ちだとはな」

「うん、私も初めて知った」


 サガはぐりんと、顔をシューニャに向けた。


「本当に、助かった。 ありがとな!!」


 満面の笑みだった。シューニャは、胸のあたりが熱を持つのを感じた。


「私も、死なないでくれてよかった」


 精一杯の笑顔で返すと、サガは照れたようにそっぽを向いた。シューニャの表情は一瞬で疑問のものに変わった。




「さて、狼の死体を持ってこよう。あれは毛皮が高く売れるんだぜ。シューニャ、もう立てるか?」

「うん、大丈夫そう」


 狼の死体には大きな外傷はなかった。一部分だけ炭化していたが、口周りと胸元の血、そして全体の土よごれさえ落とせば、きれいな毛皮が採れるような状態だった。


 二人で担ぎ上げ、来た道を歩いて帰った。道中一度だけ角の生えた兎と遭遇したが、シューニャが火炎を放って倒した。感覚を思い出しつつ放ったので、消し炭になったが。

 あのときも今も、暴発するような感覚だった。どうしても制御が難しかった。


 森を出ると、草原が月に照らされていた。入った頃は西に湧いていた雲も、完全に東の方へ流れていた。


「三、四匹狩るとは言ったけど、結局コイツしか狩れなかったな」

「うん。すごく疲れた」

「とはいえ、二人で金を分けても十分多いくらいこいつは高いんだぜ。多分、いつもの収入よりも多くなりそうだ」


 シューニャは、帰りは退屈ではなかった。死線をくぐり抜けたからか、それとも一緒に同じ荷物を持っているからか。二人の仲は少しばかり深まっていた。お互いに色々なことを聞きあった。


「サガはいつから狩人やってるの?」

「そうだな、二年位だ。子供の頃から弓を習ってたし、一番うまいって言われてたから、問屋で狩人やってみようって思ったんだ」

「ふぅん、結構身のこなしとか弓とか凄いのに、思ったよりも長くない」

「あぁ、日に焼けてたり顔に傷はあったりするが、まだ十九歳だからな俺。弓は十二年近く続けてるけど」

「思ったよりも若い」

「よく言われるよ」


 サガは喉仏の少し上を掻いた。


「シューニャはどこから来たんだ?」

「出身はクィエスタ村。だけど気づいたら知らない場所にいて、見つけた道を辿ってたらこの街についた」

「そうなのか……。今日問屋に入ったばかりなのか?」

「うん」

「どうりで。シューニャの服新しいなぁって思ってたんだよ。炎の力は? 初めてって言ってたけど」

「うん、初めて見た。自分の手のひらから炎が出てきたのなんて」

「あは、俺もだ。人の手からあんなのが出るなんて、顎が外れるところだった。問屋のなかでも、魔法使いは珍しいものでな!」


 サガは豪快に笑った。その豪快さは、しょっぱい冷水を出してくれた依頼人を彷彿とさせるものだった。



 二人の会話は街につくまで続いた。


「依頼の達成処理、どうやるかわかってるか?」

「いまいち」

「じゃぁこの狼買い取ってもらうついでについていくよ」

「うん、ありがとう」


 街に入ろうとすると、衛兵に呼び止められた。というのも不審に感じたからではなく、単なる好奇心だった。

 衛兵たちはさらに好奇心を高ぶらせ、仕留める時の話を求めた。サガはシューニャの能力について伏せて話した。シューニャに視線を向け、穏やかな表情をしてみせた。


 夜の大通りも人の数は変わっていなかった。シューニャは、人々の視線が頭上に集まっているのを感じた。香ばしい揚げ物が空腹を思い出させたので、すぐ気にならなくなったが。


 一人密かに格闘していると、問屋に着いた。

 サガが体で扉を押し開けた。気づけば、間に野次馬が寄ってきた。押し合ってはサガに話しかける人々を見て、思わずシューニャは笑った。

 受付までの道が、いつもの何倍も長かった。


「こんにちは、ご要件は……明らかですね」

「あぁ。こいつの解体と買取を頼む」

「承知しました、あちらへ運んでおいてください」

「おう」


 二人は解体所の台の上に、そっと下ろした。サガが背中をそらして気持ちよさそうにしていたので、シューニャも真似た。なんとも言えない音が連続し、背骨全体に快感が広がった。


「よし、じゃぁ依頼達成のやつ書くよ」

「忘れてた。お願い」


 サガはササッとサインしてシューニャに返した。すぐ受付に三枚証明書を提出し、達成報酬を受け取った。


 数分後解体と査定が終わり、お金が引き渡された。拳ほどの範囲だけ炭化していたものの、大部分の毛皮は状態が良好だったので色がついた。中身は使い物にならないそうで、その分は買取額に加算されなかった。魔物の心臓と並んで最重要部である魔石はギリギリ砕けておらず、正規の価格で買い取られた。

 二人は五対五で分け合った。


「な、高かっただろう?」

「うん、これでどのくらい宿、泊まれる?」


 シューニャの見せた麻袋のお金の量を見て、サガは顎に手を当てた。


「そうだなぁ……それなりに高い宿なら二週間近くはいけるんじゃないか?」

「えっ、そんな凄いの?」

「おう、だいぶ多いぜ。ちなみに飯も美味くてベッドも高級宿に匹敵するレベルなのに、そのお金で三週間は絶対泊まれる宿知ってるけど?」


 サガが鼻を高くして言った。そうなんだ、と軽く返すと、伸びた鼻が縮んだようだった。

「もうちょっとノッてくれてもいいじゃないか」、とぼやきつつも、サガは普通に宿を教えた。道を教えるついでに、シューニャを送っていった。


「ここだ。道、覚えたか?」

「うん。ありがとう。あと依頼もありがとう」

「いいやこちらこそだそれは。命も助けてもらったわけだしな」


 サガはじゃあな、と言って来た道を戻っていった。シューニャがさようなら、と手を振ると、振り返って振った。


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