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三華の覇道 ~辺境の姉妹は、王国の黄昏に理想郷を刻む~  作者: ねこあし


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第27話 鋼の楔、あるいは王道の再生

 黄金の皇太子アリスが去った後の王都には、硝煙と魔力の残滓、そして何よりも「静寂」が残されていた。


 空を覆っていた絶望的な巨大要塞が撤退したことで、民衆は救われた。しかし、ルナの冷徹な計算によれば、王都のインフラ被害は甚大であり、何よりも「裏切り」という心の傷が、この街の生産性を著しく低下させていた。


「フィオナ、復旧作業の進捗は?」


「ボロボロだよ。でも、アイゼンの職人たちと元帝国兵が、喧嘩しながらも一緒に橋を直してる。……皮肉なもんだね、共通の敵が現れた途端、あんなに仲が悪かった連中が手を取り合ってるんだから」


 フィオナは泥に汚れた顔で笑い、折れた魔鋼の支柱を軽々と持ち上げた。


 一方で、ルナが直面していたのは物理的な破壊よりも厄介な「ゴミ」の処理だった。


 地下牢に繋がれた、帝国と内通していた旧貴族たちである。


「……処刑しろという声が街中に溢れているわ。けれど、それは『サンクコスト(埋没費用)』を増やすだけの愚策よ」


 ルナは、震えるヴァルモン伯爵をはじめとする貴族たちの前に、一枚の契約書を突きつけた。


「貴方たちの命に価値はありません。けれど、貴方たちが持つ『土地の権利』『隠し財産』、そして『統治のノウハウ』には、まだ利用価値があるわ。……今日から、貴方たちは貴族ではありません。アイゼン商会の『無給の再建コンサルタント』として、死ぬまで働いてもらいます」


「再教育」という名の強制労働。


 ルナは彼らを殺すのではなく、自分たちが蔑んでいた「労働」の現場へと放り込んだ。かつて贅沢を極めた指で石を運び、かつて平民を罵った口で復興の計画を説明させる。それは、物理的な死よりも残酷な「身分の解体」であった。


「……ミリア、街の様子はどう?」


 ルナが問いかけると、ミリアは少しだけ悲しげな瞳で、再建された広場を見つめた。


「みんな、ルナ姉のやり方に驚いてる。でも、貴族たちが泥にまみれて働いてるのを見て、少しずつ『恨み』が『期待』に変わっていくのが分かるよ。……でも、ルナ姉。あんなに厳しくして、彼らがまた裏切ることはないの?」


「裏切る余裕を与えないほど、過酷な納期(デッドライン)を設定しているわ。……それに、ミリア。彼らの中にも、この国の腐敗に絶望していた者が数人はいた。……その『不満』を『改善』へのエネルギーに変換させるのが、管理者の仕事よ」


 ルナが打ち込んだ「鋼の楔」とは、単なる法律ではない。


「結果を出した者が報われ、怠惰な特権は許されない」という、アイゼンの鉄則を王都の土壌に深く刻み込むことだった。


 数日後。王都の各所に、アイゼンの技術を用いた「魔鋼製インフラ」が次々と完成していった。


 夜になれば魔石の街灯が灯り、水道からは浄化された水が流れる。


 旧貴族たちが泣きながら作成した効率的な物流網により、食料価格は戦前よりも安定した。


 民衆は気づき始めていた。


 アイゼンの三姉妹がもたらしたのは「支配」ではなく、圧倒的な「利便性」と「予測可能な未来」であることを。


「……さて。国内の掃除はこれで一段落ね」


 ルナは、修理が終わったばかりの「鋼の玉座」に腰を下ろし、地図のさらに外側を見据えた。


「次は、あのアリス皇太子が言っていた『帝国の真の目的』……大陸全土の魔力枯渇問題について、こちらから攻勢をかけるわよ」


 三姉妹は傷ついた王国を、最新のシステムと冷徹な実力主義で「再生」させた。


 しかし、その安定こそが、さらなる巨大な勢力――帝国の背後に潜む「神話の影」を誘い出すことになる。

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