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三華の覇道 ~辺境の姉妹は、王国の黄昏に理想郷を刻む~  作者: ねこあし


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第21話 帝国の蹄、鋼鉄の進撃

 王都の北西、国境沿いにそびえる「アイゼン・ウォール(鉄敷の壁)」と呼ばれる砦。かつては王国の堅牢な盾として機能していたその石造りの要塞に、聞いたこともないような不気味な「重低音」が響き渡った。


 シュン、シュン……ガシャン、ガシャン……。


 蒸気と魔力が混じり合った白煙の向こう側から現れたのは、全高五メートルを超える鋼鉄の巨躯。ガリア帝国が誇る魔導機甲(マギテック・アーマー)鉄騎(テッキ)」の第一陣である。


 それは、フィオナが相手にしてきた「意思なきゴーレム」とは根本的に異なっていた。熟練の操縦士が乗り込み、戦術的に統制された「鋼の獣」である。


「……あれが、帝国の『機甲軍団』」


 砦の物見櫓(ものみやぐら)に立つのは、アイゼン騎士団の若き分隊長。だが、彼の背後にある石壁は、鉄騎が放つ魔導キャノンの直撃によって、まるで乾いたビスケットのように粉々に砕け散った。


 王都の作戦会議室。


 ルナは、伝書鳩とミリアの報告によってもたらされた「帝国の進軍速度」に驚きを隠せなかった。


「……予想を三日は上回っているわね。彼らは街道を整備しながら進んでいるのではなく、機甲の出力で森や岩山を『破壊』しながら直線距離で進軍しているのだわ」


 ルナは地図の上に、帝国軍の予測進路を引く。それは王都へ向かう最短ルートであると同時に、王国最大の穀倉地帯を真っ向から踏みにじるコースでもあった。


「ルナ姉、私の騎士団を出して! 正面からぶつかれば、魔鋼の硬さで押し返せるはずだよ!」


 フィオナが叫ぶが、ルナは静かに首を振った。


「ダメよ、フィオナ。相手の狙いはそこにあるわ。私たちの『魔鋼』の特性を把握するために、まずは消耗戦を仕掛けてくるはず。……それに、今の私たちには守らなければならない『民の生活』があるの」


 ルナはミリアに向き直った。


「ミリア、国境付近の村々の避難状況は?」


「……よくないよ。みんな、家を捨てるのを嫌がってる。それに、帝国の宣撫官(せんぶかん)が『私たちはアイゼンの横暴から貴方たちを解放しに来た』なんてデマを流して、一部の村人は帝国軍を歓迎する準備までしてるみたい」


 三姉妹は、初めて「物理的な力」だけでは解決できない事態に直面していた。


 帝国はただ攻めてくるのではない。王国の内政の乱れを突き、民衆を分断し、「正義の軍」という仮面を被って進軍してきているのだ。


 翌日。帝国軍の先鋒を率いるヴォルフラム将軍から、王都へ向けて広域魔導放送が流された。


「王都の民よ、そしてルナ・カーヴィルよ。我々帝国は、正統なる王政を否定した反逆者を排除し、この地に真の秩序をもたらす。抵抗を止め、魔鋼の製法を差し出すならば、占領地の安全を保障しよう。……さもなくば、帝国の蹄が貴様らの『砂の城』を平らにならすまでだ」


 王都の広場に集まった民衆たちの間に、動揺が走る。


 彼らは三姉妹を支持しているが、同時に帝国の「鉄の軍団」への恐怖もまた本物だった。


「……ルナ姉、どうするの?」


 ミリアが不安げに尋ねる。


 ルナは、窓から見えるアイゼン騎士団の整列を見つめ、不敵に口角を上げた。


「帝国は、戦争を『武力と名分』のぶつかり合いだと思っているようね。けれど、私は違う。……これは『経営資源の奪い合い』よ。フィオナ、ミリア。……戦わずに、帝国軍を『倒産』させる準備をしましょう」


 ルナが打ち出したのは、正面衝突ではない。


 帝国軍の進軍ルート上にあるすべての「補給拠点」を逆利用し、彼らの魔導機甲が消費する膨大なエネルギーそのものを枯渇させる「魔力枯渇(ドライ・アウト)戦術」だった。


「アイゼンの魔鋼は、魔力を吸い取るのよね? ならば、街道そのものを『魔鋼の砂』でコーティングしてあげましょう。彼らが一歩進むたびに、自慢の鉄騎から魔力が吸い取られていく……そんな魔法の絨毯を用意してあげるわ」


 それは、圧倒的な武力差を「理の力」で覆そうとする、ルナの壮大なカウンターの幕開けであった。

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