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三華の覇道 ~辺境の姉妹は、王国の黄昏に理想郷を刻む~  作者: ねこあし


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第19話 鋼の軍靴、大陸の火種

 王都の夜明けは、これまでとは違う色をしていた。


 かつての黄金の装飾は剥ぎ取られ、玉座の間にはアイゼンから運び込まれた鈍い銀光を放つ「魔鋼の玉座」が据えられた。それは華美さを排し、実力と理性を象徴する、新たな時代の椅子であった。


「……事務仕事が、魔物との戦闘より過酷だなんて聞いていないわよ」


 ルナは眉間を押さえ、山積みになった羊皮紙の束を睨みつけた。


 王都を制圧した翌日から、彼女を待っていたのは熱狂的な歓待ではなく、破綻寸前の国家財政、腐敗した官僚組織の再編、そして食料不足に喘ぐ市民への配給計画という、終わりのない「現実」だった。


「ルナ姉、そんなに根を詰めないでよ。ほら、ミリアが街のパン屋さんと協力して作った特製のスープ、持ってきたよ」


 フィオナが、湯気の立つ木碗を机に置いた。彼女はすでに王都近衛騎士団を解体し、アイゼンの精鋭を中核とした「新制・鋼鉄騎士団」の訓練に明け暮れていた。


「ミリアは? また地下へ行っているの?」


「うん。ザックさんたち反乱軍の面々と、スラムの再開発計画を練ってるみたい。あの子、すっかり街の人たちのアイドルだよ」


 三姉妹がそれぞれ「政治」「軍事」「民生」の再建に奔走する中、不穏な影は王国の外側から忍び寄っていた。


「失礼いたします。北の『ガリア帝国』より、親書を携えた特使が到着いたしました」


 新しく秘書官に任命されたアイゼンの若者が、緊張した面持ちで告げる。


 ガリア帝国。王国の三倍の領土を持ち、大陸最強の魔導機甲軍団を擁する軍事大国だ。


 謁見の間に現れたのは、真っ赤な軍服に身を包み、傲慢な笑みを浮かべた男だった。


「……これは失礼。王都が落ちたと聞いて駆けつけてみれば、玉座に座っているのは、おままごとがお好きな村娘ではないか」


 特使のバロンは、ルナを侮蔑の眼差しで見下ろした。


「挨拶はそれくらいで結構ですわ。帝国の用件は何かしら?」


 ルナは視線すら上げず、書類にペンを走らせる。


「単刀直入に言おう。我が皇帝陛下は、この地に起きた『無秩序な政変』を深く憂慮しておいでだ。……つきましては、王国の治安維持を帝国が引き受ける。代償として、アイゼンの魔鋼技術の全譲渡、および王都の北側領土の割譲を要求する」


 部屋の空気が一瞬で凍りついた。フィオナが剣の柄に手をかける。


 だが、ルナは小さく溜息をつき、ようやく顔を上げた。


「『憂慮』ですって? 随分と便利な言葉ね。要するに、弱った隣人の家に土足で上がり込んで、財産を奪いたいと言っているだけではないかしら」


「口を慎め! 帝国の機甲軍団が動けば、貴様らの作った砂上の楼閣など、一日で瓦礫に変わるのだぞ!」


「……やってみればいいわ」


 ルナの瞳が、絶対零度の輝きを放った。


「貴方たちが誇る魔導機甲。その動力源である『高純度魔石』の流通経路、私たちはすでに半分以上を掌握しています。アイゼン貨による決済を拒否すれば、貴方たちの軍団は、ただの重たい鉄屑に変わる……そうではありませんか?」


 バロンの顔から血の気が引いた。


 ルナがリヴェリア商会と結んだ「アイゼン貨の導入」と「物流網の整備」は、すでに帝国をも締め上げる「経済の鎖」へと成長していたのだ。


「交渉は決裂よ。帰って皇帝に伝えなさい。……アイゼンは奪うものではない、膝を屈して乞うものだと」


 特使が追い払われた後、ルナは窓から広大な王都の街並みを見つめた。


「……ルナ姉、これ、本当に戦争になるね」


 いつの間にか戻っていたミリアが、不安げに呟く。


「ええ。でも、これはただの領土争いじゃない。古い『力による支配』と、私たちが作る『価値による支配』の激突よ」


 ルナは机の上の地図に、新たな印を書き加えた。


 それは、王国内の不満分子である「反アイゼン派の旧貴族」たちが、帝国の介入を機に不穏な動きを見せている拠点だった。


「内憂外患、ね。……上等だわ。全部まとめて、アイゼンの炎で焼き直してあげる」


 三姉妹の覇道は、一国の内乱を超え、大陸全土を揺るがす巨大な動乱へと発展しようとしていた。


 それは、新たな敵の出現と共に、三姉妹が「真の統治者」としての試練に直面する、激動のプロローグであった。

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