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三華の覇道 ~辺境の姉妹は、王国の黄昏に理想郷を刻む~  作者: ねこあし


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第18話 再会の誓いと審判の獣

「王都迷宮」の構造が、内側から激しく軋み始めた。


 地下の魔力パイプが切断され、各層の防衛機構がルナによってハッキングされたことで、空間を隔てていた壁が、まるで見せかけの舞台装置のように剥がれ落ちていく。


「――そこね、システムの中心核(コア)!」


 ルナが氷の礫を放ち、空間の「継ぎ目」を破壊した瞬間、目の前の景色が乱反射し、見慣れた二人の影が飛び込んできた。


「ルナ姉!」


「やっと会えた! この迷宮、もうめちゃくちゃだよ!」


 巨大なゴーレムの頭部を引きずりながら現れたフィオナと、地下反乱軍の戦士たちを率いて現れたミリア。三姉妹は、王城の最深部――「至天の間」の入り口で、ついに再会を果たした。


「二人とも、無事でよかったわ。……ミリア、後ろの方たちは?」


「王都の『本当の主役』だよ。みんな、エグバート大公に奪われたものを取り返しに来たんだ」


 ミリアが誇らしげに胸を張る。ザックら地下反乱軍の面々は、ルナの放つ圧倒的な威圧感に一瞬気圧されたが、彼女がミリアの姉であると知り、覚悟を決めたように武器を構えた。


「……再会を祝す時間はなさそうね。来るわよ」


 ルナが視線を向けた先。玉座の背後にある「真実の門」が開き、そこからエグバート大公が、血の気が引いた顔で現れた。その手には、王家の始祖が神話時代に契約したとされる黒い宝珠――「審判の心臓」が握られていた。


「思い上がるなよ、辺境の種子(タネ)どもが……。この国は、数千年の血と犠牲の上に成り立っている。貴様らのような『新参者』に、その重みが耐えられるはずがない!」


 エグバートが宝珠を床に叩きつけると、城全体が悲鳴を上げるような震動に包まれた。


 床から溢れ出したのは、黒い泥のような魔力。それが絡み合い、巨大な獣の形を成していく。


 それは、王国の負の遺産が形となった守護獣「カラミティ・キメラ」。


 三つの頭を持ち、それぞれが「過去(呪い)」「現在(支配)」「未来(絶望)」を司る、神話級の魔獣であった。


「……あれが、この国の正体ってわけ?」


 フィオナが冷や汗を拭い、大剣を構え直す。


「皮肉なものね。王家の守護神が、王都の民を喰らって肥大化したバケモノだなんて」


 ルナの瞳に、冷徹な殺意が宿る。


「みんな、下がって! ――ルナ姉、フィオナ姉、行くよ!」


 ミリアの号令と共に、三姉妹の「最終連携」が始まった。


 まず動いたのはルナ。彼女はアイゼンの魔鋼粉末を空中に散布し、魔獣が吐き出す「呪いの霧」を物理的に凍結・中和していく。


「フィオナ、左の頭(過去)を潰しなさい! 過去に縛られている限り、この国に明日は来ないわ!」


「了解! ――そんな重苦しい歴史、私が全部叩き切ってあげる!」


 フィオナが黄金の魔力を纏い、音速を超えて跳躍した。魔鋼の大剣が魔獣の首を深々と断ち切る。


 逆上した魔獣が、中央の頭(現在)から「支配の波動」を放とうとする。だが、それを射抜いたのはミリアの光の矢だった。


「今の王都は、もうあんたの言うことなんて聞かない! ――見て、みんなの意志を!」


 ミリアの背後で、地下反乱軍の戦士たちが一斉に(とき)の声を上げる。その「民衆の意思」が、ミリアの矢に純白の輝きを与え、魔獣の核を正確に貫いた。


 崩れ落ちる魔獣。エグバートは、信じられないものを見るかのように腰を抜かした。


「ば……バカな……神話の獣が、たかが人間の、それも女子供の手に……!」


「エグバート大公。貴方が信じていたのは、過去の遺産という名の『幻想』に過ぎません」


 ルナが静かに歩み寄り、エグバートの喉元に氷の剣先を突きつけた。


「私たちがアイゼンで学んだのは、システムは常に更新されなければならないということ。……貴方は、管理を怠った。だから、この国は私たちに『上書き』されるのよ」


 その時。魔獣が消滅した跡地に、一つの「地図」が浮かび上がった。


 それは王国だけではない。大陸全土に広がる、巨大な魔力ラインのネットワーク。


 そして、北の帝国、東の海洋都市からも、王都の異変を察知した強大な魔力の反応が、こちらを伺うように光り始めた。


「……ルナ姉、これ……」


「ええ。どうやら、この国を落とすのは、壮大なチェスの最初の一手(ファースト・ムーヴ)に過ぎなかったようね」


 王城の窓から、朝の光が差し込む。


 長かった「王都迷宮」の夜が明け、アイゼンの三姉妹は、ついにこの国の全権をその手に掌握した。


 しかし、彼女たちの前に広がる景色は、もはや一つの王国に留まるものではなかった。


 世界そのものが、彼女たちの「覇道」に挑もうとしていた。

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