第15話 虚飾の玉座と偽りの王
アキレウスの城門を粉砕し、アイゼン騎士団と共に王城へと足を踏み入れた三姉妹。
だが、白亜の石床が続く城内は、不気味なほどに静まり返っていた。近衛兵の姿はなく、ただ豪華なシャンデリアが放つ魔導光だけが、彼女たちの足音を虚しく響かせている。
「……おかしいよ。さっきまでの喧騒が嘘みたい。まるで、街全体が息を潜めて、私たちを飲み込むのを待ってるみたいだ」
ミリアが弓を構え、周囲の気配を鋭く探る。彼女の感覚は、城の壁の向こう側に「無数の冷たい意志」を感じ取っていた。
「罠があるのは百も承知だよ。ルナ姉、このまま玉座まで突っ切る?」
フィオナが大剣を握り直し、姉の判断を仰ぐ。
「ええ、進むわ。けれど、これは単なる『城』ではないわね。……床に刻まれた魔導回路が、アイゼンのものよりずっと古く、そしてどす黒い」
ルナは足元のタイルに刻まれた微細な模様を見逃さなかった。それはかつて父カミーユが「決して触れてはならない」と警告した、古代王国の自己防衛機構の断片だった。
三姉妹は、ついに最深部である「黄金の玉座の間」へと到達した。
重厚な扉をフィオナが蹴破ると、そこには豪華な正装を纏い、力なく玉座に腰掛けるアルフレッド王の姿があった。
「……来たか。辺境の分をわきまえぬ小娘ども」
王の声は掠れ、その瞳には王者の覇気はなく、ただ執着だけが濁って淀んでいる。
「陛下。貴方の時代は終わりました。アイゼンの民、そしてこの国の全ての虐げられた人々の名において、退位を要求します」
ルナが宣告する。だが、アルフレッドは狂ったように笑い出した。
「退位? 時代が終わる? ……くくく、何も分かっておらぬな。この玉座に座る者が王なのではない。この城、この王都という名の『巨大な供物台』を維持する柱こそが、私なのだ!」
その瞬間、玉座の後方の空間が歪み、巨大な影が現れた。
それは人間ではない。全身を機械的な魔導具で補強した、異形の守護者。そして、王の影から一人の男が静かに歩み出た。魔導院の長、ゼウスをさらに冷酷にしたような風貌の老人――王国の真の支配者、大公エグバートである。
「ルナ・カーヴィル。貴女たちの技術は実に素晴らしかった。おかげで、この城に眠る『真の守護神』を目覚めさせるための魔力がようやく溜まった」
「……どういうこと?」
ルナの背筋に、かつてない悪寒が走る。
アルフレッド王の身体が、玉座から伸びる無数の触手のような魔導回路に飲み込まれていく。彼は王ではなく、城という巨大な魔導装置を動かすための「生きた部品」に過ぎなかったのだ。
「――起動せよ、王都迷宮。不遜な侵入者に、永遠の彷徨を与えよ」
エグバートが指を鳴らすと、玉座の間の空間がガラスのように砕け散った。
フィオナとミリアがルナに向かって手を伸ばすが、視界が急速に反転する。
数秒後、ルナが目を開けた時、そこにはフィオナもミリアも、そしてアイゼン騎士団の姿もなかった。
目の前に広がるのは、上下左右の概念が消失し、どこまでも続く無機質な回廊。
壁には歴代の王たちの肖像画が飾られ、それらが一斉に、ルナを見下ろして嘲笑っていた。
「……空間移転。それも、城そのものが意思を持つ迷宮に変わったというの?」
ルナは唇を噛み、状況を整理する。
王都を制圧したと思っていたのは、自分たちの慢心だった。王都は単なる都市ではなく、「侵入者を捕らえ、その魔力を吸い尽くす巨大な捕食植物」そのものだったのである。
「フィオナ! ミリア! ……返事はないわね」
孤立。そして、背後から迫る重い足音。
迷宮の影から現れたのは、かつて王国の英雄と呼ばれ、今は王家の「人形」と化したアンデッドの騎士たちだった。
ルナは氷の刃を形成し、冷徹に前を見据えた。
「……いいわ。真っ向勝負で落ちないというなら、内側からこの城の構造を解析して、心臓部ごと凍らせてあげる」
一方、城の地下深くに飛ばされたミリアは、そこで意外な人物たちと遭遇していた。
ボロボロの服を纏い、しかしその眼に強い意志を宿した集団。
「……あんた、アイゼンの『光の矢』かい? 私たちは、王都の地下でこの時を待っていた反乱軍だ」
王都攻略は、終わったのではない。
「城内迷宮」という真の戦場へと舞台を移し、三姉妹は離れ離れになりながら、それぞれの戦いを強いられることになる。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




