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三華の覇道 ~辺境の姉妹は、王国の黄昏に理想郷を刻む~  作者: ねこあし


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第11話 鉄の咆哮、そして王都の落日への序曲

 アイゼンの西側に広がる「忘却の荒野」に、地響きのような軍靴の音が鳴り響いた。


 地平線を埋め尽くすのは、王都直属の精鋭部隊「黄金獅子騎士団」を中心とした三千の軍勢。陽光を浴びて輝く金色の甲冑、風にたなびく王家の旗印――それは、この辺境の地に下される「王の審判」そのものであった。


「……随分と派手なお出ましね。たかだか辺境の街一つを潰すのに、王都の主力を持ってくるとは」


 新築されたアイゼンの城壁の上。ルナは望遠鏡を畳み、冷ややかな笑みを浮かべた。


 彼女の隣には、魔鋼の重装鎧を隙なく纏ったフィオナと、特製の長弓を構えたミリアが静かに控えている。


「ルナ姉、相手の数はこっちの六倍以上だよ。……でも、怖くない。この街の『音』が、私に勝てるって言ってる」


 ミリアの瞳は、黄金獅子騎士団の背後に控える魔導師団の詠唱準備を、すでに捉えていた。


「当然だよ。あんな重たいだけの金ピカ鎧、私たちの魔鋼の敵じゃない。……ねえルナ姉、合図はまだ?」

 フィオナが愛剣の柄を握り、闘志を漲らせる。


 王都軍の先頭に立つのは、初老の将軍・ヴァレリウス。数々の戦功を立てた「王国の双璧」の一人だ。彼は馬を前に進め、アイゼンの城門に向けて朗々と声を張り上げた。


「アイゼンの統治者を名乗るルナ・カーヴィルよ! 貴様は王国の法を無視し、魔導院の権利を侵害し、さらには隣国と私的な通商を結んだ。これは明白なる反逆である! 直ちに開門し、罪に服せ。さもなくば、この街を瓦礫の山に還すのみだ!」


 静寂が戦場を支配した。


 その沈黙を破ったのは、城壁から響くルナの澄んだ、しかし傲慢なまでの声だった。


「ヴァレリウス将軍。貴方が守っているのは『王国』ですか? それとも、腐り切った『既得権益』ですか? 私たちがこの街を救っていた十年間、貴方たちは何をしていました? ……答えは不要ですわ。言葉よりも雄弁な『回答』を、今から差し上げます」


 ルナが右手を高く掲げ、そして振り下ろした。


「――アイゼン砲、放て!」


 ドォォォォォン!!


 空気を震わせる凄まじい轟音と共に、城壁の各所に隠されていた巨大な筒から、白銀の閃光が放たれた。


 それは、魔鋼の粉末を爆縮させ、純粋な魔力エネルギーとして放つアイゼン独自の長距離攻城兵器。


 閃光は王都軍の先頭を正確に薙ぎ払い、強固な防衛魔法を展開していた魔導師たちの結界を一瞬で粉砕した。


「なっ……何だ、今の光は!? 魔法ではないのか!?」


 ヴァレリウスが驚愕に目を見開く。物理的な破壊力と、魔力的な浸透力。その両方を兼ね備えたアイゼンの「技術」が、王都の常識を根底から打ち砕いた。


「次弾装填! フィオナ、遊撃隊を率いて出撃しなさい。ミリアは指揮官狙撃!」


「了解ッ! アイゼン騎士団、私に続け! この鋼の味、王都の連中に教えてやろうよ!」


 城門が開き、フィオナを先頭にした五十名の魔鋼騎士たちが、弾丸のような速さで飛び出した。


 彼らの動きは、重装歩兵のそれとは思えないほど軽やかだった。魔鋼の特性である「魔力伝導率」を利用し、全身に身体強化の魔法を常に循環させているのだ。


 黄金獅子騎士団の槍が、フィオナたちの鎧に触れる。しかし、並の鋼であれば容易に貫くその一撃は、魔鋼の表面を滑るだけで傷一つつけることができない。


「はあああぁっ!」


 フィオナの大剣が横一文字に振るわれる。


 一振りで数名の騎兵が馬ごと吹き飛び、王都軍の陣形はまたたく間に瓦解していった。


 一方、後方ではミリアが静かに呼吸を整えていた。


 彼女が放つ矢は、空中で幾度も軌道を変え、盾の隙間や兜の継ぎ目を正確に縫っていく。


「……見つけた。将軍の隣、指示を出してる副官」


 放たれた一矢は、魔導師団の指揮系統を司っていた副官の杖を粉砕し、王都軍の連携を完全に麻痺させた。


 戦況は、もはや一方的な蹂躙へと変わりつつあった。


 三千の軍勢が、わずか数百の「新しい力」の前に翻弄されている。


 ヴァレリウス将軍は、目の前で繰り広げられる「未知の戦争」に、ただ震えるしかなかった。


「……これが、辺境の娘の力だというのか……。我々が守ってきた『剣と魔法』の時代は、もう終わったというのか……!」


 夕刻、戦場には王都軍の捨て去った武器と、沈黙した黄金の旗だけが残されていた。


 ルナは城壁を降り、広場に戻ったフィオナとミリアを出迎えた。


 二人とも傷一つなく、ただ心地よい疲労感に瞳を輝かせている。


「お疲れ様。……これで、王都もようやく理解したはずよ」


 ルナは、遠く沈みゆく太陽を見つめた。その光は、王都の方向へと消えていく。


「アイゼンは、もはや王国の属領ではない。私たちが創り出す『新しい秩序』の心臓部。……さあ、ヴァレリウス将軍には生きて帰ってもらいましょう。彼が王都に語る絶望こそが、私たちの次の武器になるわ」


 三姉妹の「覇道」は、ついに王国との全面対決へと突入した。


 アイゼンの咆哮は、眠っていた大陸の覇者たちをも呼び覚ます、巨大な波紋となって広がっていく。

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