急遽、大臣のベッドを運ぶ事になった。
翌朝。
いつものように僕は目覚める。
部屋には既に人が入っていて、いつもの大臣ではない。
(ん、この人は)
良く見ると、城下町に居る占い師であった。
占い師とは言っても、服装は前世で見る格好で、
白のチュニックに薄緑のガウチョパンツと言う
(この人、本当に占い師だろうか)
これでも、客のボディメンテをしたり、
簡易的な診察も出来るのだから不思議である。
彼女がどうして、この場に居るのか考えていると
「大臣ちゃん。結構顔色悪かったから、温泉に転移させたよ」
本屋の店主も簡単に思い物を転移させたり、
彼女の場合は人を簡単に転移させたり、
城下町の女性達は一体何者だろう。何だか怖くなってきた。
そんな不安をよそに
「これ、焼き鳥の屋台出してる子から。
他の人達はまた、別の物が届いてるんじゃないかな」
渡されたのはソースのかかった蒸し鶏とバナナジュース。
水と、それに何だか錠剤まであるのだが
「え、何ですかこれは?」
明らかな異物でしかない。錠剤は食べ物ではない。
彼女は
「それは私から。魔力を増強する薬だから、
飲むタイミングは先でもいいし、後からでもいいよ」
要件を伝えて満足したのか
「じゃあ、私はこれで。食べ終わったら、
コップや皿はテーブルの上に置いてくれればいいから」
次の瞬間、本屋の店主と同じく、姿を消した。
その光景に僕は
(城下町の人って、転移を使える事が当たり前なのか?)
朝から良く分からないまま、朝食を終え、工場へと行く。
工場の作業場に着くと、
トイレにこもってから全員復帰した時に話しかけた彼が
「昨日の夜、大臣が倒れていたみたいだぞ。
それにしても、何で『大臣ちゃん』なんだ?」
簡単な報告と、大臣の呼び方で違和感について聞かれた。
確かに気になるところではあるのだが
「大臣の呼び方については今はいいから、
今日は、昨日作ったベッドの一つに効果を付与して、
大臣に使ってもらう事にしたいけど、いいかな?」
僕は提案をすると、道上は数秒だけ考えて
「いいだろう。今日はその流れでいい。
となると、今日は見切と多越が活躍する事になるな」
接頭語生成器を持つ彼と、先ほど話しかけてきた彼だ。
改めて、彼の名前は多越祐々貴。
道上は作業開始の合図をし、それぞれの役割に就いた。
僕は今日のメインではないので、周辺の整理と、
後はベッドの色決めくらいだろう。
仕事の様子を見てみると、見切が完成形のベッドに
「状態異常解除」
と宣言する。当然のように見た目に変化は無い。
僕はベッドの配色を決め
(緑と青のチェック柄がいいだろう)
配色パターンを決めたので、多越に内容を伝えた。
ふとここでやる事が増え、道上に
「シーツと枕を作らないといけないんじゃないか?」
道上はあっ、と思わず声に出て
「そうだったな、これを材料に金型を作ってくれ」
手渡したのは、複数の綿花である。
僕は早速、シーツと枕を成形するが
(これ、どう考えても金型で作る物じゃないんだが)
このツッコミは胸にしまっておこう。
今度こそ、予定していたであろうベッドが完成した。
しかしまた、前と同様の問題に気付き
「これ、どうやって運ぶんだろうか」
一部を除いたみんなは、またかと気落ちしていたが、
道上は首を横に振り
「いや、今回は運搬の練習として百渡に頑張ってもらうぞ。
後は菊野の力も借りるが、いつものように見切も頼む」
見切は発言の意図に気付いて
「菊野さん、ベッドの下に昇降機を出してくれないかな」
今、指示された彼の名前は菊野連悟。
ギフトは『昇降機』で、使い所は限定されると思う。
見た目は恰幅の良い体で、背丈は僕と同じくらいである。
菊野は訳が分からないまま昇降機を出現させると、
見切が「どこでも昇降機」と宣言して、何もない地面から
昇降機の形をした何かが1mの高さまでベッドを持ち上げた。
これを見た道上は
「よし、これで運べるな。
次は百渡がベルトコンベアーで、大臣の部屋まで運ぶんだ」
この言葉に彼は憮然とした様子で
「もしかしなくても、
『どこでもベルトコンベアー』とか言って、
あの距離を運び続ける流れか?」
道上は首を縦に振り
「そうだ。魔力を使い続ける練習の為に今回は敢えてやる。
だが心配無用だ。朝、占い師からこれを50錠貰ったからな」
そう言って、右手に持った瓶を確認すると、
『魔力回復薬』と瓶の真ん中にラベルが張られていた。
道上はさらに
「これは魔力を完全に回復する物だから、魔力が切れる。
錠剤を飲む。魔力が切れるを繰り返して、
結果的に魔力を増強しようとする公算だ」
百渡はげんなりとして、道上の指示通りに運ぶ事にした。
道中、疲労の色を見せながら、ベッドを運んでいる彼は、
百渡千磨と言う。
何だか、削ったり磨いたりが得意そうな名前だが、
当人はその手の作業は苦手だと言う事である。
城下町の人達に見守られながら、
大臣の部屋に着いた頃には夕方になっていた。
道上は感心して
「なかなかやるな。
回復薬が全て切れるぐらいを目安したいたのだが、
13錠も残ったな。赤津の魔力量なら全て使っていた」
どうやら僕の魔力量を参考にして、錠剤を確保していたらしい。
大臣の部屋の前まで運ばれたベッド。
これをどうするかだが、いつの間にかドアの前に
先日の本屋の店主が立っていた。
「また、やってきたよー。ここまで頑張れば上出来だね」
何も言わない辺り、当初の予定として扱っていたようだ。
彼女は早速、ドアに向けて
「大臣ちゃん、例のベッド持ってきたから鍵を開けてくれない?」
すると、ドアの向こうから
「人前でちゃん付けはやってもらいたくはないのだが」
若干、苦しげな声で答えが返ってくる。
数秒後、ドアの鍵が音も無く開いた。
後は部屋の中を見られたくないのは想像出来た為、
持ち運びなどは彼女に全て任せた。
ほんの2、3分で設置を終え、大臣の部屋から出てきた。
「後は精がつく食べ物を、転移を使って渡しておいたから、
大臣ちゃんが食べて寝て、静養させれば終わりだね。
じゃあ、私は戻るからねー」
例のごとく、彼女は忽然と姿を消した。
(毎回、この去り方は慣れないな)
僕だけじゃないと思う。
最初に転移と宣言してスキルを使うように見せたのは
説明の為だけだったのだと、推測するしかない。
今日は現地解散となり、一同は各部屋へと戻るのあった。
部屋に戻り、食事をして、ベッドに横になった時
(あ……量産について、何も解決していないんだが)
今日の仕事と言うのはほとんどが、
大臣一人分のベッドを運搬しただけだったのだ。
(明日の仕事はどうするんだろうか)
一人分でこの大変さなのだから、量産となると、
疲労ぶりを考えると、いや考えたくない。
量産体制を一日でも早く出来る為にも、無心で眠る事にした。




