手始めに身の回りの改善をしたのだが……
翌朝。
目が覚めて、テーブルを見てみると
「カツカレーが出てきた」
いきなりのがっつりとした食べ物に思わず、声に出てしまった。
(まあ、今日からしっかり仕事しろと言う事か)
僕にとってはたまのガッツリ飯ではある為、ありがたく頂く事にした。
食事を終え、昨夜確認した作業着に着替えて、例の工場に行くと、
何人かはトイレに引きこもっていたようだ。
(カツカレーに耐え切れないのが普通だな)
予想出来ていた事態である。
他の人達も皆、朝にカツカレーを用意されたのだろう。
トイレで苦しんでいる人達を憐れみながら、
受付から左側に歩いて行ける作業場へ移動した。
そこには何も無い緑の床だけが広がっていた。
「仕事始めの生き残りは赤津だけ……
いや、星村も居たか、意外だな」
黒い作業着を着た道上が話かけたかと思うと、
左奥に立っていた人に目を遣った。
こちらに気付いて、
手を振る彼の名前は星村充広。
見た目は体の弱そうなやせ型。
こちらはブルーの作業着を着ていた。
確か、ギフトは『工具』で、
材料さえあれば、何でも工具に変える事が出来るとの事。
現在は僕を含めて三人しか居ない為、計画も立てられない状況である。
30分後。
ようやく、トイレの引きこもり状態から抜け出した他の人達もこの場に来た。
その内の一人が
「すまない、待たせてしまって。
それにしても、三人はあの重い食事をして、何で無事なんだ?」
開口一番に謝った彼は道上ほどではないが、
筋肉質で若干迫力を感じるが、やはり道上ほどではない。
「特にお前だ、星村。良くカツカレー相手にお腹が無事だったな」
見た目が貧弱そうな人を見ると、
この人も胃腸は弱いのだろうと言う偏見である。
彼の表情を見ると、
不自然な笑顔になっていたので、語らずとも分かりやすいのである。
名前は……今はその時ではないので、例のごとく割愛する。
「揃ったな。
それでは仕事を始めたいと思うが、何か案はあるか?」
道上が当たり前のようにリーダー然として聞いてきたので、僕は手を挙げ
「昨日の夜、部屋に戻ったらハンガーラックが設置されていたんだが、
普段着と作業着が掛かっていたので、この両者に仕切りを設けたいと思う」
他の人達は別の案が無いか考えているが、道上は
「そうだな。まずは俺達の周辺環境を改善するのは効率的だな」
当たり前のように受け答えし、さらに
「しかし、作業着と分けるだけだとすると、11人分しか無いが……
とりあえずは作ってみるか、必要なのは金型と、工具は要らないか」
手始めにと言う事で、簡単な手順が説明された。
道上はそこで気付いた事があり
「そう言えば、赤津は知らなかったな。『金型』の特性は、
星村の『工具』と同じで、材料さえ確保出来れば、
魔力を込めるだけで使用した材料として、成型してくれる事を」
僕は偽女神に必死に使ったギフトについて、補足をされ
「どうして、人のギフトの内容を知っているんだろうか」
道上に質問を返す。道上は何事も無く
「俺の『鷹の目』を使って、ここに転移させた神と、
必要に応じて会話をしているんだ。
そうじゃないと、正確な情報は言えないからな」
僕との会話を終え、他の人達にも提案を促す。
すると、もう一人が
「それなら、ベッドを作る。と言うのはどうだろうか。作ると言っても
何か特別な効果があるような……例えば、体力や気力が全回復したり、
状態異常を解除出来る物があると便利かなと」
後から提案した彼の名前は見切瑛矛。
その名からして、ただ者では無さそうだが、戦闘スキルは特に無い。
見た目はやせ型で弱そうな感じで
(ん?ここの人達って、貧弱な人が多くないか)
周りを見ようとしたが、
勘付かれると失礼に当たるので、胸にしまっておく事にしよう。
仕事始めにする内容としては、
部屋の仕切り板とベッドを作る事の二つになった。
僕は早速、自室の間取りを基準に金型を作ろうとするのだが
「道上。材料は何を使えばいいと思う?」
良く考えていないまま始めようとしていた。
道上は特に馬鹿にするような様子もなく、
おもむろに前を見つめ、誰も居ない何者かに話をし始める。
「大臣。今から各人の部屋のハンガーラックに普段着と作業着の間に
仕切りする板を作ろうと思うんだが、材料は何が適切か教えてくれないか」
話している相手はどうやら、テンプレ姿な大臣であった。
「仕切りか、不透明な物は却下だな。
となると、ガラスは安全性に乏しいな。
アクリルを使ってもらう事になるがそれで構わぬか?」
相手も何も気にせずに、話している様子である。道上は続けて
「分かった。それじゃあ、アクリル樹脂は用意出来るか?」
普通に考えたら、自然の鉱石類ではないので作れる訳が無いのだが
「こちらでは用意出来ぬ。城下町の者に頼んで、確保してもらうようにしよう」
10分後。
どうやって確保したのか全く不明なアクリル樹脂が、
こぶし大の立方体で二つ、ここに届けられた。
僕は改めて、アクリル樹脂製の金型を出現させ、
魔力を込めて、仕切り板を成形する。
出来たアクリル板は高さ2.5m×幅1m×厚み2cmの代物であった。
早速、完成品を力のありそうな者が持ち上げようとするが
「重い。これ、どうやって城まで運ぶんだ?」
即、泣き言が出てきた。
後に調べると、この大きさのアクリル板は60kg弱あったようだ。
話は戻り、道上も持ち上げてみるが、うんともすんとも言わない。
「しょうがない、国王に聞いてみるか」
道上はもう一度、先ほどと同じように前を見つめ、今度は国王と話し始めた。
「すまない。作った物が重すぎて持ち運び出来る物じゃないんだが、
誰か運んでくれる人はいないか?」
国王に対しても変わらず、敬語無し。怖い物知らずである。
一同のそんな心配はよそに国王は
「それなら城下町の本屋の店主に任せるとしよう」
国王から強制的に鷹の目を遮断され、次の瞬間。一人の女性が姿を現した。
「こんにちはー、王様から頼まれてやって来たよー」
随分と砕けた口調の第一声である。
彼女が依頼を受けた本屋の店主のはずだが、
見た目は一言で言えば、探検家。
帽子は被っていない為、赤髪のポニーテールが見える。
服は上下ともブラウン基調の長袖長ズボン。
眼鏡も相まって本屋には見えない様相である。
彼女の外見に一同は驚きが隠せないが、僕は
「すみません。こちらが仕切り板になります」
臆する事なく、
持ち上げられなかった仕切り板を指を揃え、手の平を彼女に指し示す。
「ああ、これですね。少し持ってみますね」
彼女は一枚のアクリル板を持ち上げる。
道上でも持てなかった物が軽々と持ち上がり
「確かに重いですね。要件は王様に聞いてるので、今から移動と設置をします。
道上さん、でしたね。
念の為に『鷹の目』で設置するので様子を見てください」
道上は慌てて、鷹の目を発動して、視点を赤津の部屋に切り替える。
確認した彼女は
「転移」
そう言うと、11枚のアクリル板が忽然と姿を消した。
次の瞬間、道上の目にはその内の1枚だけが赤津の部屋に現れたのである。
おそらくは各部屋1枚ずつに分けて移動したのだろう。
彼女はもう一度
「転移」
そうすると、今度は彼女が姿を消し、赤津の部屋へと現れる。
部屋に移動した彼女は改めてアクリル板を持ち上げて、こちらに
「これをハンガーラックの真ん中ぐらいに縦に取り付ければいい?」
鷹の目越しに道上に聞いてくる。
「それでいいが、一本棒となっているハンガーポールはどうするんだろうか」
彼女は意に介さず
「それなら、『部分透過』」
ポールに繋がる板の通り道だけ切り取られたように変わり、板が壁まで通過すると
「そして『復元』」
穴が塞がり、ただのアクリル板に戻る。
しかし、鉄のポールが貫通している状態な為、
実質はポールと板で固定されている状態に変わった。
彼女は一息吐き、板に手を付いてから
「最後に、ココとココを」
板の壁と天井の接合部分を地面から天井、
天井から板の終わり部分の順に指でなぞり
「接着」
すると、アクリル板の天井と壁部分が分厚い透明の接着材が出現。
一気に固まり、あっという間に透明な仕切りが完成した。
「これを全ての部屋に施すから、少しだけ待ってちょうだいね」
道上の鷹の目を強制的に遮断する。
あと10人分の時間。それは20分後の事だった。
転移で戻ってきた彼女は
「これで全員分、終わったから部屋に戻ったら確認お願いね」
そう言って去ろうとしたので、道上は
「ありがとう、助かった」
手短に礼を言うと、彼女はさらに
「でも、量産品が出来たら、なるべく自分達だけでどうにかするんだよー」
ごもっともである。
現に困って、国王に頼った始末なので、今後は運搬も考えないといけない。
彼女は神妙な面持ちの一同に笑顔で
「じゃ、後は頑張るんだよー」
そう言って、今度は『転移』の言葉を発さずに姿を消した。
その様子に僕は
(何者だったんだ、あの本屋の店主は)
ギフトは最大でも2、3個と思っていた為、彼女の存在が異様に見えた。
こんにちは、初めまして。
各エピソードを投稿する際は、予め書き込んだ物をプレビューと睨めっこして
見苦しくないようにレイアウトしています。
それでも、後からこのように一部変更したりと見苦しい所もあるので、
そこは容赦していただけると幸いです。(2026/5/4 10:47追記)




