河川敷から国王との謁見まで
それからずっと河川敷を歩き続けている。
10kmほどで王国に行けるとの事なので、順調に行けば2時間半で到着するはずだ。
違和感が沸いたのは、歩き続けている河川敷の景色が何一つ変わらない事である。
まるで立体映像でも映しているかのように何も変わらない。
(ひょっとして、人工的に作られた物か)
普通、歩けば景色が変わるのだが、それが一切無いのは不気味である。
しかし、今更引き返すのも何だか怖いので、
そのまま景色が変わる所まで、歩く事にした。
せめて、手元に時計の類があれば不安は解消するのだが
仕方ないので、体内時計を頼りにひたすら歩く事にした。
気を紛らわせる為に違う事を意識する為だったが、
余計に疲れただけとなり、今度は無意識で歩く事にした。
すると、ようやく明らかな行き止まりが見えた。
そこには流れている川さえも無く、
河川敷全体に木の板が唐突に建てられていて
『×ここで河川敷は終わり×』
流石に風情も何も無く、自然と顔が引きつってしまう。
しかし、考えるとやはり立体映像の類ではないかと、
結論付けてしまって問題無いと結論付けた。
それはともかく、行き止まり前の右側を見る。
今度は階段を上るような傾斜は一切無く、
不自然に四角い穴の開いた出口らしき物が確認出来た。
「変な場所だったな」
違った意味での違和感に思わず、声に出てしまった。
そして、河川敷とは違う世界の入り口に僕は顔を引き締め直す。
いよいよ異世界の始まりを期待し、改めて河川敷の出口へと入る。
境界線を過ぎ、目の前に広がっていたのは、
取って付けたかのような中世ヨーロッパの景色であった。
しかし、ここにも違和感が。
すぐ左手に箱型の窓口らしき物が建っていた。
そこには『平和王国への入り口及び案内窓口』と看板に書かれていた。
河川敷の階段横にも似たような現代人工物があったり、
ここでは王国の景色に異物を混入したような、
明らかに前世の簡易建物らしき物があるのは、
心情としては台無しだと思ってしまうのである。
僕は異世界感を少しでも味わいたく、もう一度王国の景色に視線を戻すと、
意外にも鎧や剣の類を身に着けている者が皆無であった。
どういう事なのだろう。
普通はこんな中世然とした場所なら、戦争の防衛に重点を置くはずなのに。
やはり、この王国が何かが特殊な国なのだと言う事は推測出来てしまう。
ここに佇んでいても何も変わらないので、王国の城下町へと歩いて行く。
城壁を過ぎ、城下町に入ると露店で食べ物を売っていたり、
さらに足を進めると服が売っていたり……
(やはり鎧や剣などの類は売っていないみたいだな)
この国の事は事前情報が何もない為、一概に言えないのだが、
普通は防衛の為、武具ぐらいは売っているはずと違和感を覚えた。
しかし、行き交う人達を見ても、
特に入国者を騙そうとしているには到底見えなく、
人達はただ、生活をしているようにしか見えない。
さらにまっすぐ足を進めると、前方に大きな城がある。
(どこかで見た事あるような、中世の城だな)
良くある剣と魔法の何とかと言う、
ゲームの舞台で見る城にそっくりであった。
城の入り口には衛兵が2人居るので、その一人に
「こんにちは、私は河川敷の『交通AI道案内所』
からの提案で、ここまで歩いて来た者です」
違和感のある窓口を強調しつつ尋ねてみる。
聞かれた衛兵は笑顔になって
「ああ、あの河川敷から来たのですか。
と言う事は地球の日本から来た人ですね」
やはり、あのAI窓口を作ったのは王国と言う事で確定した。
しかも、AIと言う違和感のある単語を聞いても
特段の反応を見せなかったので、他の人達もそういう流れで来るのだろう。
衛兵に促されて、前方にある城へと入り、王座の間で早速謁見となった。
(え、何も準備してないんだが)
まるで最初から分かっていたかのようである。
王らしき人物から左後方から現れて、王座へと腰を掛ける。
そして、早速その者は
「よく来たの。わしはこの国を治めている者だ」
開口一番で違和感。
国王なのに名前を名乗っていない。これくらいは聞いていいだろう。
「国王様の名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
すると、国王は茶目っ気のある表情で
「名前はまだない。いや、
あるのだが誰にも教えていない。勿論、大臣や側近にもだ」
意味不明である。
普通、国王の部下には名前を教えると思うのだが、どうにも分からない。
少し考えて、本来聞きたい事を口にする。
「どうして私がここに呼ばれたのでしょうか?」
仕切り直して、普通の質問をするように心がける。
すると、国王は顔を引き締めて
「おお、名乗らないのはひとまず置くのだな。
そうだな、要件だけを簡潔に伝えよう。
ここに呼んだ理由は一つ、お主のギフトを使って、
皆で民の生活を良くする為の物を工場で量産してほしい」
王様のお願いは、さらに意味不明だった。
(ここは普通、異世界から来た者よ。
勇者と共に魔王を退治してくれぬか?ではないのだろうか)
珍妙なやり取りが続く未来しか見えず、顔が引きつっていると
「魔王、この世界にはおらぬな。
後、他国同士で戦争ばかりやっておるが、
攻撃してくれば全て、わしが退治すればいい話じゃ」
どう考えても、国王が僕の心の声を読み取られているが、
(何この国王、かっこいい)
『平和王国』と自称しているだけはある。
何とも頼もしい宣言に思わず、いつの間にか意識を失っていると
「お主、気を失っておるぞ」
国王が教えてくれた。本当に気を失っていたようだ。
息を一度吐いて
「どうして、工場で生産する事になるのですか。
後、工場自体がとても異世界のやる事には思えませんが?」
色々とおかしな点があるが、
まずは国王の発言について、疑問に思った事を素直に聞いてみる。
国王は白い顎鬚を何度か触って
「工場がある事自体は特におかしくはないぞ。
それと、その工場に関してだがの。
お主の他にもここに来た者が何人か居ての。
その者達と力を合わせて、
平和な日常が送れるような物を日々生産してほしいのじゃ」
やはり、異世界のテンプレとは大きくかけ離れた事を言っている。
ただ、戦争をさせない。
その意志が強く感じられる発言については共感出来るところもある。
僕は気になった点があり聞いてみることにした。
「先ほど皆でと言っていましたが、
衛兵の話からすると、他にも日本人が居ると言う事でしょうか」
普通は、とある異世界と言うだけなら地球。
と言うはずだが、どうも限定的すぎる。
すると、国王は笑みを浮かべながら
「日本の職人は勤勉で素直に云う事を聞いてくれるでの。
どうしても、限定した国になってしまうのじゃ」
国王は若干の不安を浮かべている僕を見ると、真面目な顔になり
「なに、心配はいらぬ。ここに送ってきたのは全て、
お互いに認識の無い者同士になるよう、細心の注意を払っておる」
この下りは何回も繰り返しているのだろう。
今の言葉に顔色一つ変えずに説明していた。
「明日、その工場に皆を集めるからお互いに挨拶するがよい。
わしもその場におるから、心配は無用じゃ」
これで国王の話が終わり、玉座を立って左後方へと戻って行く。
いつの間にか居た大臣が
「謁見はこれで終わりだ。
お主の寝泊まりする部屋に案内するから付いて参れ」
大臣の案内に僕は付いていく。
道中、大臣の顔を見たら、
やはりこの人もどこかで見たようなテンプレ顔である。
わざとやっているのだろうか、どうしても気になるが、
今はその時では無い為、聞ける機会があれば、その時に聞いてみよう。
割り振られた部屋に着き、ベッドに座ると
「はぁ……今日は大変だった」
大きく溜息を吐いた。
当然である。
金型に潰されて死んだであろう瞬間。
何も無い空間に来たと思えば性格の最悪な女神と言う名の悪魔。
ギフトをいきなり使っての女神の封殺。
何者か不明だが助け船を出してくれた謎の初老の声。
気が付けば不自然な河川敷。王国に着いてからも色々あったが、
国王が最も風変りであったのが印象的であった。
細かく語ろうと思えば語れるのだが、
疲れたので何もせずにベッドに仰向けになって、そのまま床に就いた。




