二人が名前を教えてくれるようです。
「……て、……きて……起きて」
(ん?夢、か?)
意識がぼんやりとしている僕は、再び意識を手放そうとすると
「轍、起きて。もう朝だよ」
彼女が両手で僕の体を揺さぶっていたのである。
時間を見ると、午前八時。
「あれ、仕事が始まっている時間なんだが」
完全に寝坊した。
無理も無い。
昨日、あれだけの事が起きたのだから、と考えていると、
「今、感傷に浸っている時じゃないから」
僕が着ている服を転移で裸にし、作業服を転移で着せて、
僕を直立不動の体勢にする。
「これ、朝食だから」
干し肉を1cmずつに魔法で切り、
僕の胃袋の中へと魔法で送り込む。
(やってる事が滅茶苦茶だな)
昨日の件で、彼女が人ならざる言動を隠さなくなった。
「行って来ます」
僕は眠気に襲われながらも、彼女に見送られ、外へ出る。
昨日、かなりの異変があったのだが、
外の景色は何一つ変わっていなかった。
この国に季節と言う概念が無い。
春夏秋冬、全ての要素がここにはある。
場所を変えずとも、未認識の空間を広げて、
新しい環境を作れば、いくらでも季節は作れるのである。
なぜ、そんな事を考えてるのかと言うと、
昨夜、眠っている間に国王が、
僕の夢に入って来て話をしてくれたからである。
■■■
昨日と同じ真っ白な空間であった。
違いと言えば、目前にぽつんと玉座だけが存在し、
国王が座っていたのである。
明らかに城内では無いと思える空間で、
何かしらの異変が起きたと思うのが自然である。
そんな僕に国王は
「すまぬが、お主の夢に入らせてもらった。
どうしても、話しておきたい事があるからの」
顎髭を何度か触ってから、話を続ける。
「お主も薄々気付いているだろうが、
この世界はわしの創造した世界じゃ。
このわしと大臣については、姿形を設定して、皆、
同じ容姿になるようにしておるのだ。なぜだか分かるかの?」
僕には全く理由が分からないので、黙って首を横に振る。
「そうか、なら簡単に説明する。わしがこの格好をするのは、
誰にでも西洋の国の主だと分からせる為じゃ。
大臣も同じようにすれば、ここが城と言う事が分かるからの。
俗に言う、テンプレと言う物になる」
(テンプレと言う概念、知っているのか)
ここは国王が意図して、作り上げた世界と言うのは理解出来た。
何も言わないが、僕が理解したと見なした国王が話を続ける。
「これからの話だがの、お主を近い内に、
スカディと『契約結婚』させようと思っておっての」
僕は彼女の家に来る直前の朝の話を思い出した。
話は続き
「この契約結婚と言うのは、
女神と正式に契約を交わす事を意味しておる。
つまり、お主はこれから天寿を全うするまでの間、
特定の者としか、共同生活は出来なくなる。
と言っても、今の同棲生活とほとんど変わらぬがの」
ここまでの話で、気になったのは『ほとんど変わらぬ』と言う箇所である。
「わずかな違いとはどこでしょうか?」
言い方を変え、僕は聞いてみた。
国王は笑顔になりながら、答えて
「要はの。それ以降はあの店で一生、スカディと一緒に店を手伝って、
寝食を共にしろ。と言う事じゃ。そして……
明日、お主の工場で働くのが最後と言う事であるから、
心して働くように。おお、忘れておった」
まだ、話は終わりでは無かったようだ。
「スカディや各店の店主は何らかの女神であっての。
今のところ、本屋とピザ屋の店主が、
自らの名前を教えていいと言っていた。
ただ、ごく一部のそうじゃの。靴屋の店主などの一部の町民や、
大臣は地球の日本からの転移者、つまりは一般人じゃ。
くれぐれも詮索する事がないようにの。今度こそ、話は終わりじゃ」
そう言うと真っ白な空間では無くなり、目の前にはスカディの寝顔があった。
おそらく、国王の作った仮想空間なのであろう。
ここでまた、僕は眠くなり、再び目を閉じた。
■■■
以上が夢の中の空間で、話のあった内容である。
工場までの道は特に問題無く、無事に到着した。
作業場に入ると、いつものようにみんなが居て
「よし、今日は赤津が最後の日だから、
心して仕事に取り掛かるように。今日は国王からの依頼で、
クロス王子に献上物を作る事になった。流れとしては……」
いつものように作業が始まり、一同が創意工夫を凝らし、
道上が改めて、仕事の流れを説明し、ギフトを使って、物を作って行く。
しばらくは依頼先への運搬具を転移装置とつなげて、
試すの繰り返しだが、ここから一ヵ月後には、
各店や場所に自動転移運搬具の設置も終わった為、
製品完成すれば依頼先に、自動で送付する流れが確立されていた。
いつの間にか終業となり、
僕の工場での仕事も、今日で終わりとなる。
前世では送迎会なる物を開催するのだが、ここでは特には無し。
なぜなら、明日からもみんなとは普通に会えるし、
他の人達もいずれは誰かと『契約結婚』をして、工場をやめる事になる。
そうなると、送迎会などを開催しなくても、
みんなの都合の良い日程で、適当な店に入り、会話をすれば良い。
同棲相手となる女神達にも、スキルで常に監視されているので、
浮気や不倫と言った事も出来ない。いや、やろうとしない。
なぜなら、この頃には転移者である人間にとってはもう、
彼女無しには生きられない体になっているからである。
と、話は大きく逸れたが、僕は仕事が終わり、
工場を出てから本屋に来ていた。
店主からある事を話したいから来てくれと言う事であった。
本屋から店主が出て来る。
「やあ、赤津君。今日で工場の仕事も終わりだね。
これから私とピザ屋の店主で話をしようと思ってね。
あ、そうだ。この格好じゃ目立つかもねー」
そう言って、彼女は僕に手をかざし、次の瞬間。
僕の格好が作業着から私服へと早変わりした。
「あ、作業着は家に送ったから今頃、スカディが洗濯を始めたと思う」
(やっぱり、この人達は只者ではないんだな)
普通の人間に、着ている服の転移などは出来ない。
と、改めて驚きを隠せないでいると
「じゃあ、今からピザ屋の店内に行くからねー」
彼女は「転移」と言って、僕も一緒にピザ屋の店内へ移動した。
ピザ屋の店内へ移動した僕達に、ピザ屋の店主が声をかける。
「いらっしゃい、待ってたよ。今、外に看板立ててくるから」
そう言って、店主は外に出る。
すると、なぜか地面に強い衝撃が四回走る。
「相変わらず、雑だねー。営業時間以外だと」
本屋の店主は「鷹の目」と言って、
僕にも彼女が何の看板を立てていたかを見せる。
ピザ屋の店を囲むように四方に隙間無く、四つの板を立てていた。
そこには『これより貸し切り、侵入したら即殺す』
「……物騒だな」
思わず本音を漏らすと「でしょ?」と本屋の店主も相槌を打つ。
彼女が外から戻って来て、
店の奥で作り置きしていたピザと飲み物を近くのテーブルに出した。
直径20cm程のピザとコーラであった。
(ここは本当に、日本だと錯覚する事があるんだが)
でも、異世界だと言う事は、彼女達の転移する姿を見れば分かる。
「今日はこれを食べながら話をしましょう」
僕達はピザの置かれたテーブルの席に座り、話を始める。
「今回、ここに来たのは私達の名前を教える為だよ。
私が未来を見た限り、
私とこの子が関わる事が多そうだったからねー」
本屋の店主がドライブスルー感覚で、未来予知をしていたらしい。
(お手軽にやれるのは、改めて普通じゃないな)
僕が心で思っていると
「まあ、それもこれから慣れてくれると嬉しいな」
当然のように、心を読んでから答えを返す。
ピザ屋の店主は大きく溜息を吐く。
改めて、本屋の店主から話し始め
「それでは、改めまして。私の名前はアテナ。
基本的に何でも出来るから、色々と国の雑用をやってるの。
後は良く、国王の傍で色々見て、諸々の処理をしてるから、
他の子達からは『宰相』と思われてるみたい。
まあ、気軽に構えてくれればいいから、これまで通りよろしくねー」
漸く、アテナの話が終わる。
次はピザ屋の店主が話し始める。
「私は今まであなたとは認識が無いから、初めましてだね。
私の名前はヘスティア。主に王国全体の生活改善の為に、
食料の確保や道の整理をしてるの。
城下町の整備員の子は私から見たら部下みたいな物だから、
城下町の道などで問題が起きたら、私に聞いたほうが早いと思う。
後は城内の異常についても私に聞いたほうがいい」
ヘスティアからの自己紹介が終わる。
ここで僕は
(役割の内容まで言うのはどうしてだろうか)
僕は何となく思っていたら
「あー、それはね。赤津君にもその内、
私達の今やってる事を手伝ってほしいからだよー。
これでも、やる事が多いから結構大変なんだよね。
魔力を多く消費する事になるから、
今も私は擬態を使って、本屋の店番をしてるからね。
勿論、擬態の数が増える程、魔力を多く使うから意外と大変だよ」
アテナがこれから、僕にやってほしい事を説明した。
「本当はスカディも同席してほしいんだけど、
少し時間借りただけで、これだから」
ヘスティアが言うと、アテナは無言でスカディの様子を見せてくれた。
(あっ、ムスッとしてる)
なるほど、これではこの面子でピザ屋で話すのも仕方が無い。
僕はピザを食べ終わってから、二人にお礼を言い、
ピザ屋から歩いて帰ったのだった。
家に着き、店からの裏手入り口のドアを開けると、
スカディが不機嫌そうに立っていた。
「随分と仲が良さそうだったね」
本当には怒ってないようだったが、嫌みを言われてしまった。
僕はこんな事で嫌われたく無かったので
「今度は予定通り、僕とスカディでピザ屋に行って、改めて話をしよう」
本来の約束事を改めて、言葉にした。
「分かった。
今度は色々と持って行くつもりだから、その時に色々と話そうね」
少しだけ、彼女の当たりが弱くなり、僕はその場で日課を受ける。
食事は既に摂っているので、二人でベッドに寝る事にした。




