冒頭のあの光景が蘇る。
翌朝。
目覚めると、スカディは相変わらず、横で眠っている。
それにしても最近、記憶が無くなる事が多いのだが、
記憶の無い間、どうなっているのか不明である。
体は特に不調を感じる事も無いし、精神状態はむしろ良くなった。
(あれ、記憶がある時のほうが、何か起きているんだが)
昨日に関しては鯖折りのような状態が続き、
寝る時間から翌朝まで続いた。
大臣についても
(あ、大臣。
最近は姿を見る事は無くなったが、元気にしてるのだろうか?)
ふと、城内の一室で生活していた日を思い出す。
今ではスカディの家に同棲する事になった。
(そう言えば、彼女とはまだ、
数日しか生活してないが、非常に充実した日常なんだが)
数えて見るとまだ、今日で五日目の朝だった。
なぜだか遠い昔のように、思いを馳せた。
今日も二人で朝食を摂り、彼女から見送られる。
工場に着き、作業場へ入る。
「今日は占い師からの依頼で、水晶型の爆弾。何に使うんだ?
まあいい、流れを説明する。実は先程、
魔力を込められた水晶玉が送られてきた。
やる事は二つ。峰渕が密着梱包をして、
見切が『指定対象接触型』を付与する。
要はスイッチは敵自身と言う事だ。使い道は分からない」
道上がいつも通り説明するが、
実用的な兵器の製造に疑問を持ちながらである。
(占いの人は何をやろうとしているんだろうか)
僕も疑問を持ちつつも、河川敷への転移前を思い出す。
(もしかすると、あの偽女神が来るのかも)
自身へ危害が加わる可能性に、思わず顔を引き締める。
とにかく、今日も始まるが、
今日は僕の能力が役に立たない為、
周辺整理が主となる。
作業はと言うと、実は水晶玉の数が二千個あり、
最終的に水晶玉を取り扱っていた二人は、
膨大な魔力を消費していた。
途中、作業場内に突如出現した容量無制限の鞄。
僕達は少しずつ、水晶玉を入れていった。
時間も八時間経ち、全てを付与する頃には、
日が沈みそうになっていた。
この後、道上が鷹の目で占い師に伝え、
途中から出現した鞄を転移で回収した。
これで今日は終業となり、僕も家へと帰った。
アイスクリーム屋の正面入り口を開けた瞬間。
外から黒い光がこちらに向かってきた。
カウンターに待機していたスカディが、
魔法で対処し、事態を回避する事が出来た。
しかし、それよりも彼女の放った黒い光がヤバく
(え、壁に押し付けられる)
スカディの無詠唱で放った魔法は近くを通っただけで、
反発力が絶大な物であった。
今回は僕を守る為と言うのもあり、最大限に加減したのだろう。
(それにしても、顔への圧力が凄かった)
僕の顔には何かに押し付けられたような痕が出来る。
「ごめんね、今治すから」
カウンターに立ったままのスカディは今度は白い光を放つ。
すると、顔の痕と圧力感が無くなっていた。
今の出来事に、先ほどまでやっていた依頼品、
水晶玉の事を思い浮かべる。
(ひょっとして、この状況を分かっていたのか)
住民の中に予知系の魔法を使える者が居たとしても不思議では無い。
今後はより気を付けよう。
(何を?黒い光に反応すら出来なかったのに)
僕がたった今、起きた事に不安を募らせる。
彼女がいつの間にか傍に来て、顔を覗き込んでいた。
「その精神状態だと不安だから、アレを食べようね」
笑顔で夕食を摂るように促す。
僕は『アレ』が何なのか不明だが、
彼女との食事の間、一時的に安息を取り戻したようである。
早速、僕はテーブルに座り、彼女を待つと、
彼女の手には、昨日の朝に食べた野菜のような棒状の物があった。
どうやらアレとは、
野菜のような棒状の物を指すようだが、少し色が違う。
良く見ると、緑の中にバナナとナッツが入っていた。
スカディは器を用意し、お湯をかけてから野菜棒を混ぜていった。
数分で、スープ状になるが
「これ、冷たいほうがいいと思うけど」
バナナとナッツと野菜を組み合わせた温かいそれに、
不安を感じずには居られなかったが、
彼女は珍しく
「ダメ、これを食べないと寝れないと思うから、絶対に食べてね」
初めて、味の保証が出来ない物を食べさせようとしていた。
僕は観念して、野菜棒を溶かしたスープを飲んだ。
(あれ、意外と美味しい)
緑の部分の味はかなり抑えられていて、
ナッツとバナナを温かいスープで食べるような感覚であった。
食事の影響か、
寝る頃には少しずつ落ち着いてきた。
今日はスカディを抱き枕のように扱い、眠りに就いた。
僕は無意識の内に体が震えていて、
その度に、彼女が僕の頭を撫でてくれた。
何だか全身の力が抜け、自然と目を閉じていた。




