やっと、日本からの転移者の登場です。
翌朝。
僕は目覚めるが、眠る前と状態は変わっていない。
体を起こそうにも、スカディの抱き枕から解放されていないからだ。
彼女の寝顔は笑顔のままで、とても抱き着くの解く気にはなれない。
僕は彼女が目覚めるまで、目を閉じる事にした。
数分後、スカディが目を覚まし、
僕を抱き枕代わりにしていた事に気付く。
「轍、ごめんなさい。い、痛かったよね」
鯖折りのような締め付けから解放されると、漸く体が自由になった。
しかし、それまでの痛みと疲労は取れていないままで、
体を起こす事は出来なかった。
スカディは寝室を出て、少し時間が経つと戻って来た。
右手には野菜のような棒状の何かを持っていた。
彼女は横向けになったまま、
起きれない僕の前に座り、野菜の棒状を口に入れる。
左手は僕の胸に当て、何かの魔法を使っていた。
僕は身動きせず、様子を見た。
「今使ってる魔法は強い回復効果があるから、
5分もすれば体が良くなるからね」
口に入っている物はおそらく食べ物なので、食べ続けるとして、
回復魔法はと言うと、体が癒されるのが実感出来るほどである。
彼女の予告通り、5分で自由に体が動き、
二人で寝室を出てから、追加で朝食を食べる。
テーブルに乗っていたのは黒いパンだった。変わった色に僕は
「このパンは?」
彼女は笑顔で
「食べれば分かるよ」
何か特殊な効果があるようだ。
僕は躊躇する姿を見せないように、なるべく自然に口にする。
「固い、それに酸味をある。でも、結構固いな」
先程の野菜棒は柔らかく、栄養補充が目的だったのだろう。
このパンは食べ応えがあり、お腹を満たす事が目的だと思う。
食べ終わると僕は満足し、作業服に着替え、
スカディに見送られる中、家を出た。
工場に着き、作業場に入る。
みんなは作業をする様子も無く、嶋堀の話を聞いていた。
「彼女の部屋に入ってから色々あったよ。
呼ばれて彼女に近づいたら、
実験体と比べるようにお腹を触られたり、頬を抓られたり。
色々と触り終わったら、今度は実験体に薬剤を一体につき、
一つずつ投与して行って、副作用の強い個体は苦しそうにもがいて、
しばらくすると、全く動かなくなったよ」
一同はそこまで聞くと、恐怖に顔を歪ませる。
特に顕著なのが道上である。
既に泡を吹いて、白目を剥いたまま、意識を失っている。
数分後、意識を取り戻したかと思うと、
意味不明な言葉を繰り返し、また意識を手放す。
これを10回ほど続けていた。
(道上の前世に何があったんだろうか)
まず、10回も意識を失うのは尋常ではない。
いくつものトラウマを持っていなければ、到底やれる事ではない。
それか死の瞬間に強い何かがあったかも、
と考えるのが普通である。
40分後。
道上が意識を失い取り戻す、と言う繰り返しが終わった。
その頃には彼は、壁に寄り掛かったまま、
無言で僕達を呆然と見ているだけの状態となっていた。
現状、道上に言葉を掛けるのはやめた方が良さそうである。
今は仕方無いので、僕が仕事の流れを説明を始める。
「今日は星村が依頼を受けた品となるんだが、
靴屋から小型移動式台車と言う事だ。
これは城下町を右回りか左回りで移動させる物だろうか」
僕の説明に百渡が疑問を投げかける。
「地上の道を回るとなると、ベルトコンベアでは無理だ。
第一、移動中は野晒しになって製品が汚れる。
ここはもう一度、店主に聞いたほうがいいんじゃないのか?」
百渡が懸念してるのは、靴屋と服屋の位置関係にある。
靴屋の店の位置は城の北側で、左側に店を構えている。
今回、依頼された運搬機器の移動の目的は、
服屋と材料の受け渡しをする事にある。転移でやればいいのでは?
城下町の彼女達は当たり前のように、転移で物を瞬間移動させている。
以上の事からも、運搬機器をわざわざ作る必要も無い。
「まあ、行ってみればいいんじゃないのか。服屋に」
多越が徒歩で店に向かうように促す。そこで僕は疑問が湧き
「服屋?どうしてそこなのか、靴屋でいいと思うんだが」
他のみんなも、僕と同じ意見のようだ。しかし、多越は
「この国の事を気軽に教えてくれるのは服屋の彼女なんだよ」
なぜか、彼からの信頼が厚い服屋の店主。
理由が気になりつつも、僕達はその提案に乗る事にした。
道上を作業場で休ませてから、
工場を出て、服屋へと足を運んだ。
城門付近へと行くと、服屋の前で店主が待機していた。
今日の服装は上はブラウン系のカットソー、
下は黒のデニムパンツ、靴も黒のハイヒールではないパンプス。
狼の着ぐるみを着ていた時と違い、仕事モードである。
「お、来たな。多越から聞いてるからこっちに来てくれ」
僕達は彼女の案内に従い、服屋へと向かう。
と思ったら、城門右側に居る衛兵に話しかけた。
「彼らに説明したいから、少しだけ左に避けてくれないか?」
衛兵は中央道の左に避け、二人が城門の左側に固まる形となる。
次に彼女は右側の衛兵が居た場の地面を思い切り掌底で叩き込む。
すると、人工的な正四角柱の穴が開く。
「ここから地下5mの深さにある底から靴屋にまでに運搬路がある。
君達にはこの運搬路を走る運搬機器を作ってほしい」
彼女の説明は終わる。再度、疑問に思った内の一人が
「でもよ、こんな事しなくても別にいいんじゃないのか?」
多越だった。当たり障りのように彼が代表して聞いてくれた。
彼女も別に気にする事は無く
「それなら、今から『転移』で必要な物をやり取りする。
見ていればその内に理由が分かると思うよ」
まずは彼女が転移して、靴屋に材料を送る。
そして、相手から別の材料が送られる。
このやり取りを三回行い、彼女から材料を送った後。
いつまで経っても、変化が起こらなかった。
「これがその理由。
相手は数回しか転移を使えない。
事情は靴屋の店主に聞いてみな」
答えを聞いた僕達は、相手を普通の人間だと想像する。
三回使った時点で、神業の域とは思うが。
店主は『修復』と宣言し、四角の穴を完全に閉じた。
左側に避けていた衛兵も立ち位置を戻し、元の体制に戻る。
「一般人な靴屋の彼女の為に、今回の依頼をした。
性能がいい物を作ってくれるのを期待してるよ」
店主は話を切り上げ、僕達を工場に戻るように促す。
要件と理由も分かった為、作業場に戻り、
早速、流れを考えるが、ここで道上が意識を取り戻して
「あー、んー……すまない。
今から流れを言うから聞いてくれ」
僕達に彼を見るように伝える。
道上に体を向けると、道上を頬を両手で叩いて、気を入れ直す。
「もう、大丈夫だ。それよりも今回の流れだ。
俺は意識を朦朧としながら、
国王からそれとなく聞いたから説明は不要だ。
まずは地下運搬路を使う理由だが、
国王が運んでいる物を都度、確認したいと言う事だ」
僕は説明を聞いたが
(転移装置じゃダメなのか?)
僕達の疑問に道上は構わず
「経緯は不明だが、地下運搬路で流れて来る物を確認し、
物流と言う物を見ておきたいと言う事だった。
おそらく、国王が自身で管理したいんだろう」
さらに話は続き
「さて、製作手順だが、始めに赤津が箱型の運搬用の箱を作る。
次は百渡のベルトコンベアーを箱に乗るサイズで生成する。
最後は赤津が車輪を作り、見切が高速移動型を付与する。
ここまでやって完成だ。後で必要な部分は俺が組み立てる」
今回は少し細かい手順で、僕達は少し驚いた。
道上はそんな様子に目もくれず、手の平から出てきた物は、
合金鋼であった。いわゆるステンレスと呼ばれる物である。
相変わらず、どこから確保したのか不明だが、
気にしても仕方無い為、一同は早速、仕事に取りかかる。
僕の成形から道上の最終組み立てまで、スムーズに完了した。
これは、道上がいつもよりも細かく指示してくれたおかげである。
本人も今回は自信があったようで、完成の瞬間、首を縦に振っていた。
どうやら、会心の出来なのだろう。
一同は早速、服屋へと歩いて行った。
転移装置を使用しなかったのは、靴屋の店主に配慮する為である。
服屋の店主に完成の旨を伝えると
「うん、これならどうにかなりそうだ。
早速使いたいが、赤津と星村は靴屋まで行ってくれ。
着いてから靴屋の店主に伝えれば、ここにも連絡が行く仕組みだ」
僕と星村に伝え、二人で靴屋まで歩いて行く。
服屋の店主は
「二人が行くまでの間は、空き時間になるから、
近くの店で食事を取ってもいい。着いたら、
私が教えるから、安心して休憩を取ってくれ」
道上達は思い思いに休憩を取った。
その頃、僕と星村は靴屋まで足を進めていた。
道中、何事も無く、と思ったが、また、銭湯の店主の姿を確認した。
彼女の左手には薄い黄色のふさふさとした靴があったが、
僕達には目もくれずに左側を通り過ぎて行った。
(何だったんだろうか)
良く分からなかった。
ただ、服屋の来ていた狼の着ぐるみの質感と似ていた為、
彼女の着ぐるみ用に持って行っているのかもしれない。
今は大して気にする事でもないので、
靴屋へ歩き続けたのであった。
王城の北、左側に位置する靴屋に着くのに一時間半掛かった。
服屋から城門沿いに行くのであれば、30分程で行ける距離だ。
(銭湯の店主が通り過ぎたのに関係が?)
関係性は見出せない。
もしかすると、あの場所で空間が歪んでいたのかしれない。
異世界の中でも、この国は特殊な部類だろう。
とにかく、二人は靴屋の店内へと入った。
店内は前世と同じような、靴専門店。
店舗の大きさはそれほどなく、色々な靴が種類によって、
ビッシリと詰まっている。
(あれ、前世にこれと同じ配置の店を見た事があるんだが)
そう、店内のレイアウトが前世と全く同じなのである。
(店主に話を聞いてみよう)
「すみません、誰か居ないですか?」
店の奥のドアが開き、人が出て来る。
その人の服装は、ベージュの襟付きシャツに黒のスラックス、
そして、黒のローヒールパンプス。
(前世の靴屋の服装と全く同じなんだが)
今までの城下町の店主は少しばかり、前世とは違う点があったが、
ここに関しては全く同じである。二人が考え込んでいると
「着いたみたいだな。時間は……色々あったと言う顔だな。」
前面に大きく、服屋の店主の顔が映し出す。
(どう言う仕掛けだろうか)
言いたい事はあったが、靴屋の店主の格好が気になっていた。
映像越しに、彼女は僕達の疑問に気付き
「運搬機器を使ってから言おうと思ったが、
靴屋の店主はあんた達と同じ、日本からの転移者だよ」
驚きの答えだった。ほとんどが人間じゃないと言う事だった為、
みんなが人間じゃない何かだろうと勝手に早とちりしていた。
稀に靴屋の店主みたいな、日本からの転移者も居ると言う事で、
ほとんどがと言う意味を、漸く理解したのである。
と同時に、普通の人間が転移を無尽蔵に使えないのは必然である。
何らかの映像越しに話す彼女と、それを見ている僕達に向け、
改めて、靴屋の店主が挨拶して来た。
「初めまして、名前は言えませんが、
この店の店主をやっております。
彼女からの伝達からかなり遅れていましたので、
おそらくは銭湯の彼女が空間を歪めたのでしょう」
ここまでに歩く時間が異常に遅かった原因も判明した。
だが、無意味に遅くなった為、僕は彼女に聞いてみる。
「わざわざ、時空を歪めたのはどう言う事でしょうか?」
すると、作り笑顔で
「銭湯の彼女の話では、靴を馴染ませる為。と言っていました。
普通は30分から一時間程、靴を履く物なのですが、
その意図自体は私にも分かりません。」
靴屋にも分からない事を、銭湯の店主はやっていたらしい。
様子を見ていた、映像越しの服屋の店主が
「ああ、あの子が何をやっているかは分かってるから、
心配する必要は無いよ。まあ、原理は分からないけどな」
彼女自身が納得出来る行動は取っているらしい。
意図は分からない事を除いては。
すっかり、銭湯の店主の謎に話が逸れてしまったが、
本題をやる事を思い出し、早速実行へ移す。
靴屋側の運搬路から服屋側の運搬路へと品を移動させる為、
正四角柱の穴まで行く。
靴屋側の人工的な穴は北側城門の近くの西側にあった。
彼女の場合は、地面に手をかざし、何らかの魔法で例の穴を開ける。
彼女が店に戻って運搬する品を右手に持ち、戻って来る。
手に持っていたのは靴屋に向かう際に銭湯の店主が持っていた物と同じ、
薄い黄色のふさふさとした靴であった。
僕は気になり、聞こうとすると
「先程の銭湯の彼女の持っている物と、こちらの未使用品の比較をする為、
服屋の店主に渡して、確認してもらうつもりなんですよ」
やはり、正規の靴の馴染ませ方では無い為、念の為にと言う事なのだろう。
僕達は工場から運搬機器を持参し、彼女の持っていた靴を乗せ、
転移で地下5mの運搬路まで移動する。
ここで問題。高速移動する為のスイッチを運搬機器の上面に付けているが、
どうやって押すのかを考えていなかった。
しかし、靴屋の店主は
『遠隔押下』
と宣言し、次の瞬間。運搬機器が高速で移動した。ような気がする。
僕達が分かるのは高速移動しているであろう音が、
響いているだけであったからだ。
ほんの一分程で服屋に着き、相手から連絡をもらった。
その後、服屋でも説明があったのか、15分経ってから、
送った運搬機器が転移で靴屋のカウンター近くに出現した。
この後は両店の後片付けをして、僕達は工場に戻る。
服屋に居た人達も工場に戻り、作業場の後片付けをして、
今日は終業となった。
僕が帰る道中、
店から出たスカディは薬局の店主の首根っこを掴み、ピザ屋に連れて行った。
(見なかった事にしよう)
思い当たりがある為、気にしないように家へと帰る。
家に帰ってから、日が落ちると同時にスカディが帰って来た。
「ただいま、今日も大変だったね」
笑顔を僕に送る。こちらも笑顔になる、そして……
(あれ、あの後何をやったんだろうか)
ここから明日、目が覚めるまでの記憶が完全に飛んでいたのであった。
どうしても、テンプレの効かない箇所を補おうとすると、
文字数が多くなってしまいました。
その結果、二話以上の文字数になりました。




