傍から見ると、人体実験されている構図である。
翌日。
目が覚めると、彼女も目覚め、
お互いに目が合ってしまった。
二人は顔を赤くしながら「おはよう」と、同時に挨拶した。
さらに恥ずかしくなり、先にスカディが起きて、寝室を出た。
僕も体を起こして、寝室を出る。
同時に目覚めた為、料理は出来ていない。
スカディは冷蔵庫を開け、
取り出した物は『恵方巻』である。
太さは直径4cm程で、長さは20cm。
一昨日の干し肉よりかは細いし、短い。
しかし、問題はそこではなく
(あれ、このパターンは一昨日と同じような)
そう思った瞬間。やはり、僕の視界は急転する。
またもスカディに膝枕をされたまま、
次に恵方巻きを僕の口に入れる。彼女は
「これは細かく嚙み砕いてね、喉に詰まると大変だから」
何だか優しかった。これも彼女の計算だろうと思うが、
嬉しさが勝っていて、嫌な気分には全くならなかったのである。
何より、僕を慈しむ目で僕は見続けている。ただ
(もしかしなくても、彼女に生活を管理されている気がする)
心に思っただけなのに、彼女は微笑んで左手で僕の頭を撫でる。
彼女の行動をよくよく観察すると、僕への行動は、
非常に計算高い物が多かったのだ。しかし……
(僕に尽くす為だけに癒してくれるから、むしろ嬉しい)
この考えを持つ事自体が、彼女の計算にも入っているだろうが、
その計算高さにすら愛しさを覚えずにはいられないのである。
僕は恵方巻きを食べ切ると、
一昨日と同じように、僕を膝枕から解放する。
(幸せに次々と襲われて、彼女しか考えられない)
近い将来、スカディに人として駄目にされそうである。
が、僕はそうなって欲しいとも思ってしまう。
(まだ早いな。しばらくは頑張らないと)
日に日に、仕事で出る際に彼女と離れるのが寂しくて、
たまらない気持ちになる。
だが一日でも多く、健全な時間を過ごす為、
邪念を振り切りながら工場へ行くのであった。
今日は既に、みんなが作業場に来ていた為、
挨拶もそこそこに仕事の流れを説明する。
「今日は、嶋堀か。薬局からの依頼……薬局?」
一旦、説明を中断し、考える。そして
「この国の薬局がどう言う物かは不明だが、
依頼と言うのは人型実験体の製造。まあいい、
流れは見切が嶋堀に『呼吸器確保』を生成し、
次に赤津が金型を、人ってなんだ……
材料は嶋堀が、前世で亡くなった瞬間の遺体の一部を使う」
とんでもない発言をした道上も顔を蒼白にしていた。
「あの薬局の店主、何を考えているんだろうか」
どうやら、依頼者の指示に従って、
メモを読み上げていたみたいだ。手元に無いのだが。
道上は補足をする。
「材料は薬局の店主が、予め用意してくれた。
嶋堀は気持ち悪いだろうが、我慢して成形を手伝ってくれ」
当然である。自分の遺体だと思うと普通は恐怖しかない。
しかし、彼の顔を見たら
「恥ずかしいなあ。つまり、私をベースに作った体が色んな場所で、
晒し上げられると言う事だろう?それは恥ずかしいよ。
でも、彼女が喜ぶなら喜んでやらせて頂く」
どうやら僕と同じように、
彼女の事しか考えられない体になってしまっているのだろう。
締りの無い表情の彼に、道上は顔を引きつらせつつも
「とにかくだ。人体実験は可哀そうと言う事で、
人体錬成をしたいとの事だった。
製作中にグロテスクな時もあるだろうが、そこは頑張ってくれ」
発言を終えながらも、道上も顔色が悪くなっている。
嶋堀を除く一同は終始、顔色を悪くしながらも、
遺体の一部を材料に金型を創造し、嶋堀を金型で挟んで型を取る。
その後彼が、壁際に避けてから人型を成形する。
完成した物は嶋堀の体その物となった。
触覚以外の目・鼻などの部位を除いて。
僕達は無意識の内に歯を噛みしめていた。
この人型を後100体成形し、作業場の場所を取る人型。
道上は鷹の目で使い、薬局の店主に完成の旨を伝え、
工場に来訪するよう促し、店主の到着を待つ。
時間としては30分後、店主は工場へ歩いて入って来る。
姿を見せた彼女の外見は、
白のブラウスに襟元には大きなリボンが主張している。
下はスーツに合わせるタイプのパンツ、
丈はくるぶしが見える程度である。
それはまるで
(受付か?)
僕達は一斉に正面受付の方向に顔を向ける。
彼女は外見からすると、
とても薬局の関係者には見えないのである。
そんな事はお構い無しに
「こんにちは。今回、実験体を依頼した者です。
本来は人間の体を使用する目的になる為、
人型の実験体がどうしても欲しかったのです。
それでは、完成品を全て頂きます」
彼女は転移で、人型実験体を目の前から消した。
おそらく、薬局の店内へと移したのだろう。
「それでは響ちゃ……響ノ助さんの形をした物へ頂きました。
今日はこれを、報酬として受け取ってください」
彼女は転移である物を右手に掴んだ形で出してくる。
右手に持っていた物は『恐怖緩和剤』とラベルの張った瓶である。
瓶の中には白と青のカプセル剤が多く入っていて
「これを各人で10錠服用してください。
開発中、とても気持ち悪かったと思います。
この薬は簡易的な薬剤なので、効かない方には効きません。
正式な報酬は後日、改めて送付させていただきます」
彼女の帰りは、転移を使ってだ。忽然と姿を消す。
後日、送付された物は寝るタイプのマッサージ器だったが、
どうして、前世のような機械が作れたのは一切の謎である。
話は戻る。
彼女が姿を消した後、一体も残す事なく消えたリアルマネキンに
「わざわざ嶋堀の形をした実験体を使って何をやろうとしたんだ?」
道上が冷や汗を流しながらつぶやく。
人間をあらゆる方法で、
解剖すると言う戦慄の光景を想像した僕達に嶋堀が
「ああ、これは多分。私に見せて、色々と説明する為じゃないかな。
勿論、真面目に人体へ悪影響が無いかも調べるけど、
その時の彼女、泣きながら実験してたからね。
他の人では悪いから、響ちゃんでいい?と言って、
涙ながらにお願いされたから、断れる訳がないよ」
一同は意味不明である。道上は顔色の冴えないまま
(どういう感情だろうか、全く訳が分からない)
彼女の泣いていた話からすると、嶋堀とは仲の良い関係が推測出来るが、
実験体にしたい。と言う事にはならないのが普通である。
これで今日は終業となり、嶋堀を除く者達は様々な反応を見せながら、
工場を出て行った。彼はみんなが片付け忘れていた作業場の掃除をして、
薬局へと帰って行った。しかし、この時点でそれを知る者は居ない。
嶋堀が帰るまでに、薬局の店主との『契約同棲』が許可されていた。
僕達が気付くのは、明日、工場に来てからの話である。
僕はスカディの家へと帰り、彼女が店の外で出迎える。
数分前に店を閉めたらしい。
早速、二人で食事をするが、
今日のメニューは
『マッシュポテトのトマトソースがけ』と、
『エビとイカのパエリア』である。
普段、冷蔵庫には入っていない種類の料理が並び、
気になった僕は不思議に思い、聞いてみた。
「材料はどこから取って来たの?」
冷蔵庫には山菜が多く入っており、
今日のようなメニューは出せないはずだ。
何気無い疑問に彼女は笑顔で
「ピザ屋から貰ったの。
反対に私からは山で取れる物をひと通り渡してるから」
僕はまだ、ピザ屋の店主に会った事は無いが、
おそらくは仲の良い者同士なのだろう。
彼女は話を続けて
「そう言えば彼女、轍に会いたがっていたよ。
同棲したなら、私と一緒にピザを食べに来てほしいって」
どうやら今度、ピザ屋に行く事が決まったらしい。
いつものように二人を食事を終え、日課の後、
ベッドで寝る事にするが……
(強く締め付けられているんだが)
僕が目を閉じてから一時間後、目を開く。
正確には寝れてはいない。なぜなら、
(轍、わだちー……)
彼女は寝言と同時に、僕の体を抱き枕代わりにしてるから。
力強さから言って、鯖折りされているような物である。
この状態から30分後、僕は眠るに就くのだが、
それは眠気による物ではなく、鯖折りの痛みと疲労の為であった。




