突如訪れる新生活
翌朝。
目覚めると、昨日と同じように彼女が立っていた。
その顔を不自然な程の明るい笑顔である。
(やっぱり、鰻の頭はわざとか)
意味が分かり、改めて謝罪する。
「初対面の時はごめんなさい。つい、名前が知りたくなって、
鎌を掛けてしまいました。本当にごめんなさい」
二度も謝ると、彼女は微笑んだ表情に変わり
「これに懲りたら、もうやったら駄目だからね」
子供扱いしたような言葉で僕を諭す。
彼女は改まって話を始め
「今日はこれを食べてもらうんだけど、
それを食べながら話を聞いてくれないかな?」
僕は特に断る理由も無い為、首を縦に振る。しかし
(どうして、朝食がナッツ類ばかりなんだろうか)
今日の朝食は大皿に一杯乗ったナッツ類であるからだ。
テーブルの席に座り、予定通りにナッツを口に含んでいると
「今日はこれから数日後に、
私の家に同棲してもらう件についてだよ」
いきなりの発言である。僕は思わずむせてしまった。
彼女は慌てて、僕の背中を摩る。
僕が落ち着いたのを確認すると、彼女は話を続ける。
「それで国王にはもう、許可を取っていて、
後は私の好きなタイミングで移っていいって言ってたよ」
先程からずっと驚きの発言である。国王に許可を頂くと言う事は
(彼女はひょっとして、この国では偉い人なのか?)
全くの誤解である。
この平和王国の規則に現国王が制定したからだ。
彼女の場合、制定当時から見て、
圧倒的に適用される機会が少ない為、
国王と本屋の店主が自分事のように喜んで、手続きを進めたからである。
そんな事など知る由も無い僕は話を聞いて、顔を赤くして俯いた。
話は構う事無く続いて
「私の店への移住が決まったら、『契約同棲』は成立するの」
今聞いた言葉の中の『契約』、
と言う単語を耳にした僕は思わず、落胆した。
彼女はまたまた慌てて
「ああああ、ごめん!そう言う意味じゃないから。
契約同棲は正式に一緒に住んでいいと言う許可だから」
僕が彼女の顔へ向き直し、さらに
「これから一定の日にちを一緒に過ごしたら『契約結婚』になるの。
契約結婚は轍君が死ぬまで、
私がずっと面倒を見ると言う許可だから心配しないで」
契約結婚に反応する事が目に見えていた僕に先回りし、彼女が言葉にし終える。
一通り、説明を聞いた僕は
(え?それって、生涯を共にしてくれると言う意味だが)
異世界に来てから、全く想像していなかった事に顔を赤くして気絶した。
「えっ、轍君。だ、大丈夫!?」
大慌てで彼女が、僕の体を揺すっていたが、意識も無い為分からない。
■■■
次に目覚めたのは城の一室では無かった。
目覚めた場所はアイスグリーンの壁に、
床にはハート型のクッションや白い机と椅子など、
いかにも女の子の部屋と言った感じである。
誰かにこの部屋へと運ばれたのだろう。
僕の体を覆う物を確認すると、桜色でモコモコと質感の物である。
(気を失って、ここに運ばれたと思うが、ここはどこだ?)
思い当たりが無い。でも、何だかいい匂いがする。
僕は心地良い空間に、再び目を閉じようとすると
「起きた?いきなり気を失ったから心配したよ」
女の子と思わしき、声が聞こえた。
目の前に居たのは女の子だが、
見た目は明るい灰味の青の髪と眉。目はつぶらで髪と同じ色である。
服装は上下共に薄い赤色でモコモコとしていて、
上はハーフトップ、下はショートパンツを着ていて、薄着である。
僕が呆けた顔で彼女を見ていると
「朝に話してた私だよ」
続けてぼんやり見つめようとして、ハッとなり
「え、アイスクリーム屋の店主?」
今の姿に全く予想外の答えが返ってきた。
彼女は両腕で、包み込むように僕の右腕を掴み
「スカディ。私の名前はスカディだよ。
名前、知りたがっていたよね」
ス、何とかさんの名前が明らかになった。
彼女が名前を明かした瞬間。僕は自然と嬉しくなった。
(ん、でも。名前、聞いても問題ないのか?)
僕が少しだけ考え込むと、彼女はすかさず
「もう『契約同棲』が決まったから大丈夫だよ。
これが決まった時点で、私は轍君に名前を教えていい事になってるの。
でも同時に、他の子達への浮気は絶対に駄目だから諦めてね」
この国ではそのような規則になっているらしい。でも
(こんなにかわいい子と死ぬまで一緒に暮らせる……最高だ)
そう、前世ではこのような子は大体、どこかで不倫していたりするので、
終身の同棲契約が法的に決まったような物である。
独占欲の高い人なら涙を流しながら昇天する事だろう。
僕は改めて、スカディの顔をまじまじと見る。
彼女はそんな僕を見て、顔を赤くし
「そんなに見つめなくても、
これから何十年かは見れるんだし、気楽にやって行こう?」
彼女もまた、照れていた。
僕は朝のやり取りでふと思い出した事があり
「そう言えば、朝に話していたのは数日後だと言っていたが、
もしかして、何日も気を失っていたのか?」
外は暗くなっていて、夜になっている事が分かるが、
それが果たして今日の話か否かは不明なのである。
彼女はまだ、顔を赤くしながら
「ううん、まだあれから一日も経っていないよ。
轍君が気を失ったから国王に話をしたらね。
『ふむ、これでは今後が不安じゃの。それなら、
今から契約同棲を認める事にしよう』と言って、前倒ししてくれたの」
どうやら、僕の為に予定の変更をしてくれたらしい。
この後は彼女と他愛の無い話を続けるのだが、
明日の朝、起きるまでの記憶が消えていた。
ただ最近、記憶が無くなっていたのはどうやら、
スカディとの時間が楽しく、あっと言う間に過ぎた結果。
そう言う事だろうと今では思う。
当作品の発案当初、主人公の赤津は城の一室で、物語を終了する予定でした。
意図せず、彼が生活拠点を変えたので、
関連する設定を追加する羽目になりました。




