廃棄品を別製品として再成形し……
翌朝。
いつも通り朝食を摂り、作業場へと行く。
昨夜、気付いた事をみんなに伝えた。
すると道上は
「リサイクルする事しか考えなかったから、単純な事に気が付かなかった」
これには一同も、渋い顔をするしか無かったのである。
道上は気を取り直して
「そうだな。昨日、粉砕した残りもあるから、
それで銭湯の入浴用椅子を成形してもらおうと思う。
一つ作って、銭湯に転移させるからそこからは感想を待つ事になる」
昨日みたいに悩む様子も無く、仕事の流れを言い終える。
そこからは色落ちしたオパールで椅子を成形し、銭湯に転移させる。
一時間後に先頭の店主から感想が返ってきて、上場だと言う事だった。
良く考えると、色落ちしたと言っても、オパールに変わりは無く、
高級感と言う意味なら十分に用を為しているからである。
昨日の時点で、この事に気付いていればもっと使い道があったのかもしれないが、
次にリサイクルをする機会があれば、考えておこう。
ここまで終わり、示す時間は10時半。
昼食を摂るのも早いし、まとまった仕事が出来る時間でも無い。
一同は次の製品の案を考える時間に費やした。
そこで道上が思い付いたのは
「そう言えば城下町の店主達が、
食品用で手軽に使えるスライサーが欲しいと言ってたな。そうだな……
今日はこれで終業して、午後は店主達から要望を聞く時間にしないか?」
特に案の無かった一同は、道上の提案に賛成し、午前での仕事上がりとなった。
みんなはそれぞれ、思い思いの店へと行き、店主からの要望を聞きに行った。
僕はと言うと、アイスクリーム屋に行っていた。
場所は城下町への入り口から反対方向となり、近くには城壁がある。
店の裏手には主に、氷が保管されている。
店内に入ると、どこか懐かしい感じがする。
(前世はこう言った店で良くアイスを買って食べてたな)
僕にとっては、金型の落下事故の日まで食べていた物だ。と同時に
(あれ、まだ一週間くらいしか経ってないないような)
今日までに色々あって、思わず懐かしいと思っただけである。
それはさて置き、店内には一人、カウンターの向こうに立っていた。
彼女は上下を厚手の防寒具で身を包み、これから登山でもしそうな格好である。
(城下町の人は、意外に変な人が多いな)
昨日の銭湯の店主も水着を着ていたし、服装だけ見ても変である。
僕は好奇の目で見ながら、店主に尋ねてみる。
「初めまして、私は工場で働いている者ですが、何か困った事はありますか?」
なるべく、失礼にならないような口調で聞き出す。
すると、彼女も
「こんにちは、初めまして。梶野沙と申します」
自己紹介込みで挨拶したが、同時に一瞬、目を逸らした。
(あ、この人。一般の日本人のような偽名を使っている。
よし、ここは揺さぶりを掛けてみよう)
「あの、ス……」
最初の一文字を言った瞬間、彼女は明らかにビクッと反応した。
(多分、この人の本当の名前はス、何とかさんなんだろう)
他の人達も名前はあるみたいだが、事情があって言わないんだろう。
しかし、彼女に悪い事をした。次来る時は喜ぶ事をしてあげよう。
僕はつい楽しくなってしまった事を自省して、聞き直す。
「ごめんなさい、今日は工場で作る物をみんなで情報を集めていまして」
彼女は少しむくれた表情で
「個人情報を聞くのはやめてくれるとありがたいです」
拗ねていた。しかし、すぐに表情を戻し
「まあいいです。実はアイスクリームだけだと飽きるから、
アイスが生かしたお菓子が作りたいんですが、いい方法はありますか?」
何とか聞けたが、少しだけ拗ねている事には変わり無かった。
僕は尾を引くのは不味いと思い
「あ、今度もし休みが出来たら、その日はあなたの言う事何でも聞きますから」
機嫌を取ろうとしたら、思わず口に出てしまった。しかし、彼女は
「それなら許してあげる。一日中下働きさせてあげるから」
笑顔になった。同時に『一日服従券』も握らせてしまった事に後悔した。
我ながら下らない理由で、手綱を握らせた物だ。
だが、それで彼女が笑顔になれば問題か。
僕は嬉しい感情が起き、目を細めていると
「嬉しくなっているところ悪いけど、工場の製作案はどうするの?」
彼女は何だか、先程より口数が多い気がする。
それはそうと、失念していた。
本来、工場の成形物の候補を探す為の訪問だった事を。
僕は顔を引き締めてから
「今日、工場で案が出たのはスライサーで、
本来は肉を薄切りにする調理器具ですが、
これを色々応用出来ないかと言う話になり、僕の場合はここに来ました」
彼女は初対面とは違う、砕けた話し方で
「そうなんだ、それよりも仕事ばかりだと大変でしょう?
店の中にあるアイスクリームを一通り試食させてあげるから」
と、二人は何だか楽しく会話をしているようであった。
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その様子を、玉座から左奥にある人間には入れない執務室で見ていた国王は
「赤津は神の候補から外れたの」
どこか寂しそうにつぶやいた。
「まあ良い。本来、前世で悔いの残った者達を、
幸せにする為に作った空間が、この王国じゃからの」
この言葉の意味をほとんどの転移者は知る由も無い。
そして、その様子を横で見ていた者がもう一人。
本屋の店主である。彼女は厭らしい顔で
「赤津君は候補になると思ったんだけどねー、残念。
でもそっか、スカディちゃんかー。こう言う子が好みだったのかー」
新しい玩具を見つけたみたいに喜んでいた。
この人達がどう言う存在なのか、この平和王国が何なのか後の話となるが、
現時点で、理解出来る転移者が居るとすれば、道上だけだろう。
今回、『仕事』と言うテーマで当作品を書き進めていますが、
主人公がこの翌日から、仕事のする目的が変わって行きます。
当初の結末としては『俺たた』なるぬ『俺しご』の展開で進めていましたが、
主人公が勝手に動き出したので、物語が、私の予想しない方向に変わりました。




