王子からの依頼
翌朝。
運搬と言う一つの問題を解決した事もあって、
いつもより数分ほど遅く目覚めた。
特に問題の出るほどの時間では無い為、
食事をいつもより早く摂って、工場に行く事にした。
工場の正面受付には、見慣れない姿があった。
格好は青緑を基調とした上は腰ほどの長さまで、
下はくるぶしが隠れるくらいで……
(あれ、舞台を鑑賞した時に見た覚えがあるんだが)
これは別の意味でテンプレで、
前世のミュージカルで着るような王族風の衣装に酷似していた。
(国王はどうして、こうもテンプレをやりたがるのか)
この世界が全体的にやっている事ではなく、
国王の個人的な意図でやっているのだろう。
話を戻して、
背丈はまだ低く、子供だと言う事が推測出来る。
(衣装を見た限り、国王の子供だと思うが)
今まで子供の話はしていなかったが、居ても不思議ではない。
僕が色々と思考を巡らせていると
「こんにちは、私はこの国で王子と呼ばれている
クロス・フォルセ・エイコーンと申します。」
僕のほうへ向き、フルネームで紹介された。
王子を横目で見ていた道上は、
王子の方向へ向き直して礼をしてから、
ある事を念の為に質問する。
「王子と言うのをひとまず信用して聞きたいんだが、
フォルセ・エイコーンはどこから来てるのか知っているか?」
相変わらず、怖いもの知らずである。国王と同様に礼を欠いた言動だ。
クロスはそんな道上にも笑顔で
「フォルセ・エイコーンは父上が勝手気ままに決めたそうです」
僕は答えを聞き、妙に納得してしまった。
「名前はまだない。なんて言うほどですから、
適当に決めてもおかしく無いですね」
僕とクロスはお互いに失笑してしまう。だが、クロスはすかさず
「これでも私の事を実の子として扱ってくれていまして、
正式な王位後継者として認めてくれています」
国王の評判に傷が付かないように取り繕った。
王子の横で見ていた道上は、大きな溜息を吐き
「まあ、いいか。それより、
王子様がこんな所に来たのは、何か用事があるからだろうか?」
改めて確認する。
クロスは再び笑顔で
「ええ。実は、父上に誕生日プレゼント替わりに何か作ってもらえ、
と言われましたので、ここに来ました。
私としては、赤津さんから逸品物の金型を頂きたいと思いまして」
僕に直接、注文をしてきたのである。
特に断る理由も無く、注文を引き受けると、
クロスは一礼して、この場を去った。
歩いて姿が見えなくなるのを確認し、作業場に移ると
「今まで試作品ばかりだったから、やってみるのもいいかもしれないな」
道上はいつも通りの仕事をする顔になっていた。
金型を創造しようとするが、そもそも、
金型の材質を何にするのか。
成形する形はどのような物にするのか。
カラーリングはどうするのか。
献上の仕方はどうするのか。
など、逸品物としての献上となると、
細心の注意を払いながらの製造となる。
おそらく、鑑賞用の側面もある為、
金型自体の外見も整えたほうがいいのだろう。
一同は色々と、アイデアを出すが、
特に進む事も無く、昼休憩に入ってしまった。
食堂にて。
今日は別の人と一緒に食事をしていた。
彼は背丈も低く、やはり体の弱そうな……
本当にこの下りはいいので紹介する。
名前は峰渕庵。
ギフトは『密着梱包』。
どうして、彼なのかと言うと、
「今回の金型はオパールにしようと思う。
勿論、見切の力も必要だけど、オパールの特性上、
熱と乾燥、水分にも弱いから梱包はお願い」
やっと出番が来た峰渕は笑顔で
「良かったよ。足手まといかと思ったからほっとした」
どうやら、自身を不要ではと日頃、思っていたらしい。
その後も細かい説明をして、
昼食の時間は終わり、一同は作業場へと戻る。
道上はいつものように
「クロス王子に献上する品は、オパールの高台皿に決まった。
手順はまず、これを使って金型で皿を成形してくれ」
毎度の事ながら、どこから持参したのか気になったが、
今は構っている場合では無い為、
オパールを手に取り、金型を創造する。
形状を一般的な高台皿にして、一気に50個ほど成形する。
鉱石内で反射する水分類も忠実に再現された皿が完成した。
問題はこの後にあり
「次は峰渕の『密着梱包』が重要になってくる。
熱に弱い、水に弱い、乾燥にも弱いと言う弱い物尽くしだ。
まずは一つだけに使ってみてくれ」
道上が指示すると、峰渕が手をかざして、心で念じ、
突如出てきたラップのような物で、瞬時に密封梱包された。
僕は出来を確認する為、梱包された高台皿を手に取る。
「大丈夫、問題ない」
道上に渡して、改めて確認してもらい
「試作品はクロス王子に見てもらう。
今回の目的は金型を渡す事だから、
着き次第、王子には金型に魔力を込めてもらう。
同様の物が出来れば、献上品としては終了だ」
良く考えれば、オパールの保存について考慮する必要は低かった。
金型からオパール製の皿が出来れば、依頼は終わりだった。
一同は昨日、作成した『指定商品専用運搬具』を複製し、
クロスの部屋へと配置する。
後は、高台皿と金型を転送して、
製品の出来と魔力を込めてもらって、
同様の品が出来るかを確認した。
結果は成功。
クロスは10個ほど金型で成形して満足したのか、
「高台皿を放置したら、煌びやかな外見が損なったよ」との事だった。
どうしたら、その日の内に色落ちするのか、全くもって謎である。
道上は、見るも無残な姿となった高台皿を見て
「何をしたらこうなった」
唖然としていた。無理もない。
普通は数年、直射日光が当たる場所に晒さなければ、こうはならない。
多越に至っては
「時空を超えて使っていたんじゃないのか?」
非現実的な事を言う始末である。
とにかく、気を取り直して振り返ろう。
オパールと言う宝石は、保存さえ考慮しなければ綺麗だと思うが、
色落ちした製品を大量に引き取り、使い道は今後考える必要が出てきた。
今日は現地解散となり、いつものように夕食がテーブルに置かれているが
(あれ、いつもより豪華な気がする)
今日のメニューは、
チョコレートパイ、サーモンパイ、マッシュルームリゾット、
チーズドリア、アサイードリンク。それに取って付けたコップの水。
さらにテーブルの椅子にはメモがあった。
『クロス様からのお礼代わり』
どうやら逸品物の金型に喜んでくれているようだ。
いつもと違い、体に考慮しないのも含まれているが
(コップの水だけ大臣が用意したな)
唯一の違和感である。
気にしたら負けなので、普通に食事を摂った。
風呂に入って、今日も寝る事にした。




