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やっと、森へ薬草採取に行けると思ったのに、そうはいかなかった。
途中で放置していた初心者ダンジョンを、先に攻略するらしい。
まだ小鬼も豚鬼も見ていない。人型に対処できて、ようやく銅級。森に出ていいのはそれから、とのことだ。
ちなみに、鉄級には鉄級しかなかったが、銅級より上は、上中下があり、レオンは正確には銀の上級だとか。
金級にならないのは、昇格試験が『メンドクセー』かららしい。
……とはいえ、ダンジョン内にも薬草はある。問題は鮮度だ。日帰りできない以上、普通は持ち帰るころには質が落ちる。普通は、だが。
(わたしにはインベントリがある)
ただし、それは見せない前提。レオンが言うには、ギルドでの取り出しは禁止になった。
代わりに、ダンジョンで採った薬草は、自分用に加工していいらしい。
なら、やることは決まっている。
「鉱物はありますか」
「……あるにはあるが?」
レオンが怪訝そうに眉をひそめる。
「木は生えていますか」
「生えてるが……って、おい」
「採れます?」
「採るつもりか!?」
今度は、わたしが首を傾げる番だった。
「もちろんです」
「なぜ!?」
「薬剤の道具を作ります」
「買えばいい!!」
即答だった。思わず、ため息が出る。
「この先、店がない場所で調薬することになったら?」
「それは……」
「そのたびに町へ戻るんですか」
レオンは口をつぐむ。
「それに、インベントリのこともあります。道具を都度出していたら、不自然です」
「……ああ、そういうことか」
ようやく一つ、納得したらしい。けれど、話はまだ終わらない。
「道具を作るには、材料がいります」
「まあ、それはそうだな」
「すり潰すなら石。持ち手には木」
「……うん?」
「金属もいります」
「待て」
レオンが手を上げた。
「話が増えてないか?」
「増えてます」
レオンに答える。わたしは指折り数える。
「石は『石工』。木は『伐採』と『大工』。金属は『採掘』と『鍛冶』」
「……は?」
「最終的に全部まとめて『細工』です」
「ちょっと待て」
完全に理解が追いついていない顔だった。
「アキ、それ全部やる気か?」
「やります」
迷いはない。
「買うより安いですし」
「そこか!?」
「あと、応用が利きます」
指を一本立てる。
「鍛冶があれば、レオンの剣も防具も研げます。金床があれば作れるかも」
「……おお?」
少し食いついた。
「大工があれば、拠点も整えられます。家具も、スプーンやフォークだって、木製ですが作れるかも」
「ほう……」
「余れば売れます」
「…………」
沈黙。そして、ぽつりと。
「金になるのか」
「なります」
今度はわたしが即答した。素材のままより、加工してある品の方が高い。
需要は確実にある。消耗品も、道具も、武具も。薬剤師など、職人の道具は代々引き継がれて使うもの。需要が少なければ、また新たな供給も少ない。
なら、なおさらだ。
スキルポイントは34。生産系は一つ1ポイント。十分すぎる。
(戦闘に振るのが普通でしょうけど)
作れるものは、全部自分で作る。その方が早くて、安くて、そして確実に金になる。
結局、レオンは許可をくれた。
薬草用の『採取』、『伐採』『採掘』。
『大工』『鍛冶』『石工』『細工』。
生産スキルを取って、残り27ポイント。
わたしが内心ウキウキしてたのは、内緒だ。
ダンジョンの中では、もう一度軽くスライム、角兎と角ネズミのドロップの違いを教わる。
手元に来ると言うのは便利だが、角が出ている人と毛皮が出ている人など、ランダムだ。
なので、肉が出たときは、鮮度の高いうちにその場で消費してしまうらしい。
焼いただけの肉になってしまうそうだが。
それに、狩る獲物によって、出る頻度の少ない、いわゆるレアとかがあると、パーティー内での揉め事になる。
最終的に全部あとで集めて売って、売った金額を分けることになるとか。
宝箱で、一番揉めるのは使用頻度の多い『片手剣』が出たら、剣所持を言い出すヤツとか、出没する可能性の低い『両手剣』『槍』『斧』『槌』『杖』『弓』など、パーティーメンバー全員に分けられないもの。
今は、一旦ギルドが買い取って、必要なアイテムを使う人が買い取る形式にしているとか。
「冒険者も大変ねえ……」
しみじみとため息をつく。レオンは苦笑している。
「だから、アイテムボックスって、値段が高いのね。全員には分けられないものね」
インベントリ持ちのわたしには分からない。
「俺も、一応は持ってるぞ」
レオンが見せてくれたのは、指輪型の鈍い銀色のアクセサリーだ。彼のトレードマークだとばかり思っていた。
通りで『インベントリに対しての悪党』にならないはずだ。
このアクセサリーは、容量がお屋敷分くらいあり、時間は停止ではなくとも、かなりゆっくりだとか。持ち物の重量はない。それと、使用者権限がすでにレオンで固定されている。
他人が奪っても使えない、ただのおもちゃの指輪に見える。価値はない。
目眩ましに、ダンジョン遠征用リュックも持っていたり、手荷物は多い。けれど、魔導具など、高価なものはアイテムボックスだそう。
肉や生野菜、卵なんかの生鮮食品も、アイテムボックスに入れていたとか。
まあ、今ならインベントリに入れちゃいますが。
初めての3階に降りると、ここは小鬼ゾーン。初心者ダンジョンと言うだけあって、最終層が10階までしかないらしい。
マップを見ながら、赤い三角を探す。ついでに察知型のスキルも使う。
自分に気配隠蔽と消音をかける。ちなみに気配隠蔽は、自分の姿を視認している人には効かない。
つまり、後ろを歩いているレオンには丸見えだ。敵からはレオンのソロに見えているらしいけれど。
「あ、北曲がり角20歩先、小鬼3体です」
「よしよし。ちょっと待ってろ」
レオンが駆け出す。すぐに討伐して戻って来る。小鬼にドロップ品は期待できないらしい。
落とすのが、腰布だとか棍棒だとか、誰が得するのか分からない。このダンジョンでは、壁脇に置いておくとか。
森で討伐するなら、遺骸は遺るので、耳を切り落とすらしい。web小説の通りだ。
通路を、出現数の多いパターンとかとも対戦してみる。武器持ちや役職持ちが、魔法使いや弓小鬼が出てくるのは、5階かららしい。
この階は、『初めての人型』に対処する階だと言う。
次の階が、豚鬼。
こいつのお肉は豚と同義なので、肉を集める冒険者も多い。
解体せずとも肉は肉として出現するので、グロさもない。
マップで人の少ない方へ行く。この階から、鉱物が採れだす。
レオンが豚鬼狩りをしている間、買ってきたツルハシで鉱物を採る。
採りながら、辺りを鑑定をする。
冒険者ギルドの資料室では、見なかった種類の草もあった。匂いを嗅いだ。
「と言うか、これ……」
前の世界で、ローズマリー、タイム、セージ、オレガノと類するハーブだ。名称は、どれもこちらではただの雑草。固有名はない。
草の形は覚えていた。主に調味料のパッケージで。
豚鬼肉と、相性が良いかもしれない。
あまりに草をしげしげ見ていたせいか、レオンが討伐の間、心配そうに近寄ってきた。
「その草がどうかしたか?」
「あ、レオン。豚鬼肉をちょっとください」
塩、コショウと、ハーブ、油でいいか。
目の前で、出してもらった肉を薄く切り、ハーブを生活魔法で乾燥させて、バラバラにする。塩・コショウとハーブのミンチと油に数分漬け込んだ肉を、コンロのフライパンで焼く。
いい匂いが漂ってきた。
「っうんま!」
味見したレオンは、豚鬼肉はもっと硬いと言っていた。パンといっしょに食い尽くさんばかりに食べている。
やっぱりハーブだ。お料理にも使えそう。乾燥させて、みじん切り。他にも作れそう。
考え込んでいたら、レオンがこの草をもっと摘もう、とやる気になっていた。
この世界独自の、ハーブの需要が生まれた瞬間だった。




