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最初は、魔法の使い方。
武器を使うつもりがないなら、戦わないとしても必要なのが魔法。
基本中の基本だ。魔法を戦闘で使わない人でも、多少の魔力はある。
町中の、何気なく歩いてる人でも。
だけど、感じられるかって言うと、それは別だ。血液が全身を巡っているのは『知って』ても、『流れている』ことは検知できない。
魔力の流れを知る、感じる、と言うことは、魔力は空気より、血液より大きなモノかも知れない。
って理屈をこねながら、レオンに手をつながれて、魔力を流してもらって。
魔力が流れ込んできたとき、ちょっと異物感がした。自分の魔力じゃないなって。
でも、魔力の流れは、あ、これかな? これかも? これじゃない!? ってくらいには分かるようになってきた。
丹田ね。web小説にはお役立ちの小説しかないんじゃない? スキルのお陰かもしれない。
森で拾われて、三カ月が経っていた。
利き腕の右手に魔力を集める。最初は危なくないように、ストッパーの効いた『生活魔法』を使ってみた。
宿の厨房で、マッチみたいな【着火】を使わせてもらったり、井戸前で【飲水】を出してみたり。
掃除に役立ちそうな【送風】や、お風呂のあとで、髪の毛を乾かす【温風】。ほこりを消したり、着替えの汚れを消す【浄化】。夜に灯りを灯す【灯火】や畑を耕す【土耕】なども、少ない魔力で少ない範囲に効果を及ぼせた。
なるほど、魔法でできること+道具でできることのコラボレーションね。
もうちょっと、発想が豊かな『生活魔法』も編み出せそうだ。今は忙しくて無理!
『生活魔法』が使えるようになって、『水魔法』『光魔法』『土魔法』も練度は良くないが使えるようになった。
なぜ『火魔法』と『風魔法』『闇魔法』がないかと言えば、火は延焼が怖いし、風は加減が難しそうだったから。闇は単純に思いつかなかっただけだ。
他の『複合魔法』は、レオンに止められた。
アキの子ども時代のRPGゲームでは、属性に関わらず何でも魔法は使えて、ル◯ラやリ◯ミトみたいな転移系も序盤から使えた。
属性に縛られるって、変ね。
その代わり、復活の、暗号のような呪文には苦労したけど。
魔法が使えるようになったあとは、薬草採取で使える “魔法とスキル” の使い方だ。
これは実際に、鉄級の依頼で、町中の便利屋系依頼を受けた。
屋根の掃除で、水魔法(水圧洗浄)とか、ちょっとした研究所ぽいところで書類整理(前世知識+生活魔法)とか、側溝のゴミ掃除(土魔法+水魔法)とか。
地下水路の坑道掃除なんか、夜目や身体強化を工夫して使ってみたり、出てくるネズミやスケルトンぽいやつを気配察知で見つけて、光魔法で目潰ししたらレオンが殲滅してた。なんて銀級。無慈悲。
でも結構、スキル鍛錬にもなっているみたい。熟練度が上がっていた。
で、やっと薬草採取かと思ったら、近所の初心者ダンジョンに行くと言う。
そんな、近所の公園みたいなノリで言わないでいただきたい。
けれど、レオンが言うには、
「ダンジョンの敵は、町の近辺に出てくる敵と似たようなものだ。冒険者の初心者は、腕慣らしでよく潜る。ダンジョンの敵は遺骸を遺さない。ドロップは直接手元に来る」
「便利すぎて、ちょっと怖い〜」
「しかも初心者ダンジョンでは、死んでも、と言うか、生命力が最低値の状態で、経験値だけが失われ、敵の出ない1階の出入り口に戻される。これを利用した帰り方もあるくらいだ」
「遊戯っぽい〜」
「ダンジョンの構造物は壊れない。だが、魔物も、見つかる鉱石も、薬草も、ダンジョン特有の水場も、宝箱さえ復元する。これはまあ、ダンジョンごとに違うこともあるが」
「そうやってダンジョンに慣れさせるのね。ドロップに依存させてるっぽいけど」
「中・上級のダンジョンには、復元力もあれば、ないものもある。上級の深層で見つかる宝箱狙いで発見された、アイテムボックスが沸いた瞬間、争奪戦になることもある」
「……インベントリ持ってて、良かった、のかな?」
「バレなければな」
ダンジョンに潜る。最初はスライムだ。
形は、おなじみのゲームっぽいしずく型。色はブルーグレーか。ノンアクティブだ。戦うときは、朱色になる。一目で戦闘中・非戦闘中が分かるのだ。
朱色にしてしまった人は、責任を持って倒しておかねばならない。放置は禁止事項だ。
最弱って言われているけれど、物理は核にしか効かない。酸も出すし、下手をすると分裂もする。
冒険者は、武器や剣を溶かされないように、上手に立ち回らなければならない。
いっぺん、水魔法が効かないことを忘れて、増やしてしまったことがあって、失敗した。
ノンアクティブで、町中のトイレなどにも、汚物処理で利用されているせいか、子どもたちの良い稼ぎになるらしい。1階の人の流れは混雑気味だ。
ここで、魔物との戦い方を学んでいる人もいる。町の人は、自分たちで対処できることは自分たちでやる。できないのが、冒険者の区分になるのだ。
一通り、スライムとのやり取りを終えると、2階の角兎と角ネズミだ。
ヤツらは突進して、頭の角さえ突き刺さらなければ避けるのは余裕だそう。コイツラの餌が、歩みの鈍いスライムだ。
角ネズミは、兎より少し大きくて、間合いの取り方が多少変わる。
「よっ、ほっ」
角兎と角ネズミを倒しながら、レオンは感心した風に言う。
「凄いな。避けることはもう教えなくてもいいくらいだ。倒してはいないが」
「わたしはっ、はっ、冒険者の! よっと、心得を習っている、でっ、ので! レオンは、師匠ですっ」
「……身を守るための戦いも学んでほしいがなあ」
角兎を討伐したあと、休憩所の水場でわたしが言う。
「前から言っている通り、前の世界では平凡な主婦でしたので、殺傷は避けたいです。薬草さえあれば、外に出て魔物と対峙することもありません。最低限の知識を積んでる途中です」
「否応にも戦闘になったら?」
「死ぬだけです」
「だからっ! それが!」
レオンは、わたしの覚悟の決まり具合に歯噛みする。
「逃げるやりようはあります。スライムには効きませんが、水魔法で閉じ込めて逃れてから解除するとか。移動手段だけを土魔法で固めておくとか。執拗に匂いを追ってこられると、困りますけど。主に町の人が」
非殺傷を貫きたいわたしに、レオンは無言になる。『わたしが』非殺傷なだけで、『他の人』が倒すのは悪くはないとは思ってる。
押し付けちゃうのは悪いと思うけど。
「例えばレオン。ここに赤ちゃんがいます。育てろ、そう言われて、あなたはどうしますか」
「え、そりゃあ、子育てのプロに任せる、かな」
唐突なわたしの問いに、レオンの顔色が変になってる。
「そうしたら、あなたは一生、子育てを下手くそなまま亡くなりますね。冒険者のプロなのに」
ムッとしたように口を引き結ぶレオン。
「育てる、としたら?」
「そうしたら、あなたはやがて知るでしょう。赤ちゃんの可能性。愛らしさ。何が苦手で、何が好きか。赤ちゃんはしゃべれません。何も制御できません。感情の全てが泣くか笑うか」
「……」
「段々と育っていきます。生まれたときは、まっさらです。とても死にやすい生き物です。死なせないように、世話をしなければなりません。人間としての知識は、教えるあなたに掛かっています」
レオンは、真剣な眼差しを崩さない。
「歩くようにもなります。行動範囲が拡がります。外の危険を教えます。走るようになります。転んでケガをするかもしれません。けれど同時に、あなたも成長していきます。赤ちゃんが『何も知らないんだ』、と言うことを知っていきます」
「……」
「そうして大事に育った子は、たいていが親知らずなままです。親の苦労を知りません。でも、やがてまたその子は、子を育てることになるんです。ずっと、これが続きます。世代を超えて、ずっと」
レオンの眼差しが、ひた、とわたしに留まる。
わたしは断言する。
「わたしは冒険者の『赤ちゃん』です」
「うん」
「これから育って、もしかしたら非殺傷じゃなくなるかもしれません。でも、最初のうちは非殺傷でいたいと思います。レオンか、レオンでない人が殺傷を引き受けてくれるなら」
「分かった。俺がその役を引き受けよう」
「レオンは、今でも充分に強いです。けれど、もっと伸びしろがあるはずです。非殺傷の冒険者を守れるくらいに」
ちょっと苦笑した。
「最初に出会ったのが、レオンで良かったと思います」
レオンは無言でそっぽを向いた。耳の端が、ちょっと赤くなっていた。




