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 食べながら、レオンに問いかける。周囲に客は誰もいない。食事時間を外したようだ。

 給仕してくれた宿屋の女の人も、笑顔をくれたあとまた奥に引っ込んでいった。

「わたし、いくつに見えますか」

 カップの水を飲んでいたレオンは、不思議そうに答える。

「二十代……いや、成人直後……十代後半くらいか?」

「七十八歳です」

「エッ!?」

 レオンは絶句した。自分の声の感じからそうだろうな、とは思ってた。やっぱり若返ってたか。レオンの動揺を放置して、さっさと説明を続ける。


「さっきの『アレ』の説明は自分でも分からないのでできませんが、これまでの来歴なら分かります」

「……どう言うことなんだ?」

 レオンは座り直した。お、持ち直したか。剣が椅子に当たり、ガチャと言う音を立てる。

「信じるか信じないかはレオンにお任せしますが、『神さま』に連れて来られました。前の世界から」

「っ……!」

 どうせ信じないだろうけども。

「こう言った事象は、前の世界ではよく知られていて、スキルなんかもあらかじめ『神さま』から授けられたりします」

 小説や漫画とかで広まっていたよね。実際のことかは知らないけど。それから、あの人は、自己紹介しなかった。『神さま』かどうかも。


 少し沈黙が流れる。隠す意味もないのでこのまま全部言ってしまおう。死ぬ前提ならどうでもいいことだし。

「わたしが『神さま』から授かったのは、『インベントリ』『鑑定』『言語理解』です。戦闘に関しては、一切の能力がありません。なので、『アレ』のことは説明できません」

「……『鑑定』は分かるが、『インベントリ』ってのは?」

 レオンの顔色は少し悪くて、真剣味を帯びています。


「アイテムボックスって知っていますか?」

「ああ、迷宮ダンジョンの奥深くで見つかる、冒険者、どころじゃねぇな。誰もが欲しがる伝説級のアイテムだ。袋型や鞄型、アクセサリー型が見つかっているな」

「それを、人の身の『中』に持っているタイプです。まだ中身は見たことはありませんけど。『言語理解』は、ここと前の世界の言語が違うからでしょうね。多分、この世界のどの文字も理解できます」

 インベントリ、どうやって使うんだろ。

 ゲームでは普通に開いてたしなあ。


 と思ったら、普通に開いた。『インベントリを開く』って意思が必要だったらしい。

 インベントリの中には、何もないと思っていたけれど、いくつかあった。

 まずお金。向こうでの預金額・手持ちのお金・実家の資産の家や車や土地の売却額っぽい。

 めっちゃお金持ち。左上に、日本の『円』とこちらの『ゴールド』が相互に換金できるようだ。今は日本の『円』に九桁ちょっとのお金が入っている。


 それと、家で使っていた着替えや生活必需品など。フォルダ分けで減って見えているが、『食材』のタブにめちゃくちゃ入っている。

『調味料』の中には、ストックしていた段ボールごと入っている。

 コメは米俵ごとだ。

『着替え』タブには、洋装も和装も、男性用も女性用も子ども用も。むかしからしまい込んでいた全てが。

「うわあ」

 わたしが感嘆の声をあげると、インベントリの操作を黙って見つめていたレオンがピクリと反応する。

「何があった?」


「子どものころの衣装がありまして」

 まだ走れた時代の。

 レオンは、『子どものころの衣装』というワードで一瞬だけ戸惑った。

「なあ。……こんなことを言うのは無粋だが、この『インベントリ』ってヤツ、人に知られるとヤバいぞ」

「分かってます」

「分かってて、よく知りもしない他人に開示してるのか!? もし俺が悪党だったら……」

「レオンが悪党でも、悪党でなくても、どっちでも構いません」


 レオンが、しばらく何も言わずにこちらを見ていた。さっきまでの警戒とは違う、測るような視線。

「……本気で言ってるのか」

「はい」

 即答した。レオンは眉間を押さえて、深く息を吐いた。

「お前な……自分がどれだけヤバいこと言ってるか分かってるのか」

「分かってますよ」

「分かってねぇだろ」

 ぴしゃりと言い切られる。


 でも、少しだけ声の調子が変わっていた。さっきよりも低くて、苛立ちというより──困っているような。

「『インベントリ持ち』なんて。アイテムボックスでさえそれこそ王族か、大商人か、あるいは……使い倒されて終わるかだ」

「でしょうね」

「だったら──」

「でも、隠す意味もあまりないんです」

 レオンの言葉を遮るように、淡々と続けた。自分でも驚くくらい、声は静かだった。

「この身ごと奪われたら、それまでですし。わたしにとっての敵は、“死” よりも、ただの “理不尽” でしかないですね」

 日用品でも、結構加減を間違えたり、『混ぜるなキケン』があったりするのよ? 死ぬのは簡単かも。

「……は?」


「わたし、長く生きるつもり、あまりないので」

 言ってから、水を一口飲む。喉を通る感覚がやけに鮮明だった。

 レオンは、今度こそ言葉を失った。

「……どういう意味だ」

「言葉通りの意味です」

 視線をテーブルに落とす。木目が妙にくっきり見えた。

「前の世界で、もうだいたい終わってたので」

 ぽつり、とこぼす。

 説明する気はなかったけど、言葉は勝手に出てきた。


「走れなくなって、できることも減って、最後はベッドの上でした」

 空気が少し重くなる。

「だから、こうやって動けるだけで、もう十分なんです」

 顔を上げると、レオンと目が合った。

「何かを守るとか、失うとか、そういうの……あまり実感がなくて」

 少しだけ考えて、言葉を選ぶ。

「だから、レオンが悪党でも、そうじゃなくても、あまり変わらないんです」

 いつでも死んでもいいんですよ、と言う沈黙。


 さっきとは違う、重たい沈黙だった。

 レオンはしばらくこちらを見ていたが、やがて大きく息を吐いて、椅子の背にもたれた。

「……めんどくせぇな、お前」

「よく言われます」

「言われてねぇだろ」

「はい」

 素直に頷く。レオンは頭をがしがしと掻いた。

「……あー、クソ。放っとけるかよ、そんな状態のやつ」

「放っておいてくれて大丈夫ですよ」

「無理だな」

 即答だった。戦闘のときと同じツッコミ。思わず瞬きをする。


「俺が悪党じゃなかったの、運が良かったな」

「そうですね」

「……そこで頷くなよ」

 レオンは呆れたように笑った。

 さっきまでの張り詰めた空気が、少しだけ緩む。

「とりあえずだ」

 レオンは指を一本立てる。

「その『インベントリ』のことは、絶対に他言するな。俺にも、できればあんまり見せるな」

「分かりました」


「あと──」

 一瞬だけ言い淀む。

「しばらく、俺の目の届くとこにいろ」

「監視ですか?」

「保護だ」

 間髪入れずに返ってきた。少しだけ考える。正直、どちらでもよかった。

 これが合縁奇縁だろうか? 一期一会? 自慢の四字熟語メーカーが、上手く作動してくれない。

「……じゃあ、お言葉に甘えます。あ、海に行きたいです」

 そう言うと、レオンは小さく鼻で笑った。

『なんで海なんだ?』と聞きかけて、言葉に詰まる。この言葉に意味があるのか分からない。

「甘える気なさそうな顔してるけどな」

「そうですか?」

「ああ」

 断言される。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。


「アキです」

「え?」

「名前。アキにしました。“バグ” じゃダメなんでしょ?」

「ああ」

 初めて、朗らかにほほ笑んだ。

アキさんのインベントリ内のもそれ以外も、持ちもの全ては前の世界での遺産のコピーです。

前の世界ではきちんと全部、相続されました。

田舎だったので古い家屋でした。

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