表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/18

偽銀貨事件(3)

【side:イシドロ・マルニオ】


 ワシらは坑口から少し離れた雑木林の陰に身を潜めていた。夕刻。影は深く、こちらは容易には見つからないだろう。

 坑口には見るからに怪しい男が二人立っていた。鉱夫のような出で立ちだが、肌に土埃などが付いている様子はない。腰の剣帯は古び、革鎧の留め具も片方だけ色が違う。だが、鞘の口だけはよく擦れていて、手はだらりと垂れているくせに、いつでも柄に届く位置にあった。

 今から居眠りでもするんじゃないかというくらい怠そうにしているくせに、目だけは忙しなく動いている。脱力しているのに、気だけは立っていた。

「まあ、山賊か、雇われじゃろうな」

 低くそう言うと、皆小さく頷く。

 断崖の脇に空いた穴の様子は間抜けだった。欠伸をする野良猫の口のようで、それを支える木枠は湿気にやられて黒く朽ちている。坑口から伸びた排水溝には赤茶けた水が流れていて、半分浸かった何かの車輪は、錆びて触れれば崩れそうだ。

「この銀鉱が閉山したのは十年以上前と聞いています。疑いはかなり強いです」

「しかし、なんでこんな場所で銀貨作りなんぞを……」

「鉛が出るのでしょう。銀鉱としては枯れましたが、奴らにとっては好都合というわけです」

 足元には屑石が散らばっていた。かつてここが銀鉱として活発だった時に出た物の名残だろう。

「んで、どうするよ?」

 カナタはフィンに尋ねる。実際、筋を通す話はフィンに任せるのが良いだろう。

「王都に戻り、警邏騎士に報告で良いと思います」

「誰か残って見張っておくとかは必要なんじゃろうか?」

「ここで銀貨の鋳造までしているなら、証拠を運び出すにもそれなりに時間がかかると思います。ですよね? ダン君」

「一昼夜できれいさっぱり、ってわけにはいかねぇだろうな」

「んじゃ、戻るか」

 カナタがそう言いかけた時だった。

 坑口から、二人。背負子にくくりつけた木箱を担いで出てきた。

 立ち上がりかけたカナタの手をダンが引く。全員が身を低くした。木箱からジャラジャラと金属音を鳴らしながら歩く。

 荷運びか。

 運の悪いことにこちらへ近づいてくる。獣道さえない雑木林を選んで身を潜めたが、向こうとて馬鹿ではない。向こうも人目につかない道を選んでいたのだろう。

 荷運び二人が近づいてくる。その時。

 ――ジャリ。

 カナタが屑石を踏み、音を鳴らした。

 荷運び二人の耳がピクリと動く。

 それを見た瞬間、ワシはシミターを抜き放ち飛び出した。

 体勢は低いまま。まだ構えてすらいない、荷運び一人の向こう脛を峰で打ち払う。そして、落とした木箱から真新しい銀貨が散らばる。響くのは、低い音。

「偽銀貨! 当たりじゃ!」

 疑惑が確信に変わって、大声でそう叫ぶ。呼応したダンが飛び出して、もう一人の荷運びを組み伏せる。

 脛を打たれて呻きながら転がる荷運びにも最早遠慮はいらない。

「イシドロ君! 殺してはいけません! 証人が要ります!」

 なるほど。ワシは峰で頭を叩いた。鈍い嫌な音が響く。昏倒した荷運びはしばらく起きないだろう。

 それから、坑口にいた見張り二人が剣を抜くのを見た。一人はこちらへ、もう一人はカナタの方へ走る。

 構えないで突っ込んでくる。型はない。しかし、慣れている。

 牽制に風魔法。小さな烈風。胴狙いでいい。軽く避けられる。しかし、勢いは削いだ。十分。

 相手が振り始めた瞬間、大きく一歩間合いを詰める。寸詰まりになった相手の腹に、膝を合わせる。しかし相手は急停止、後ろへ跳んで避けた。

 慣れとる。

 だが、足は崩れた。

 そこへさらに一歩深く。シミターを薙ぐ。相手の構えは間に合わず、手首が浅く切れ、剣を落とす。

「終いじゃな」

 剣をくるりと逆手に持ち替えて、柄頭を鳩尾にめり込ませる。

「ぐ……」

 それで相手は倒れた。

 周りの状況を確認する。ダンが組み伏せていた荷運びは、いつの間にか泡を吹きながら胴の半ばまで地面に埋まっていた。フィンの魔法だろう。

 カナタはもう一人の見張りと鍔迫り合っていた。

 加勢をしようと踏み込むが、見張りはワシを横目で確認した瞬間、カナタの剣を弾き、肩をぶつけるようにして投げ飛ばした。

 そして、一瞬で木の陰に紛れる。

 夕刻の暗がりが増えた林の中で、追うのは難しそうだ。

「悪い、逃がした」

 カナタが脇腹の辺りを抑えながら、そう言う。

「仕方ないじゃろ。ただの雑魚ではなさそうじゃった」

「カナタ君、脇腹に怪我を?」

「いや、投げられた時に軽く打っただけだ」

「よかったです。みんな無事なのが大切です」

「お前強いなあ、イシドロ」

 ダンが、ワシの倒した荷運びと見張りを後ろ手に縛りながら言う。

「連れてきてよかっただろ?」

「なぜカナタが自慢げなんじゃ……」

 ワシは坊主頭を掻いた。

「んで、どうする? あいつ追うか?」

「厳しいじゃろ、地の利も向こうにある」

「そうですね。見張りもいなくなりましたし、まずは現場の確認をしてもいいでしょう」

 ちらりと倒した見張りの持っていた剣を見た。自分のシミターよりも短い刀身。坑道内ならこっちのほうが良いだろう。シミターを鞘にしまって、その剣を持つ。

 坑口へ足を進めながら、重心が柄に寄っていて作りが雑だと思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ