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風化の時
空に陽が昇った
光と熱気が私の姿を
少しずつ溶かしていく
空に月が昇った
光と冷気が私の姿を
少しずつ薄くしていく
冷たい雨が降った
雫と湿気が私の陰影を
少しずつ滲ませていく
荒れた風が吹いて
乾気と砂礫が私の想いを
少しずつ晒していく
真っ白な雪が降って
六花と凍気が私の輪郭を
少しずつ埋めていく
時間は過ぎ去り
年月は積み重り
季節は巡り廻って
時代は移り変わって
私の存在と意識の欠片は
私の生命と魂魄の残滓は
まだ世界にこびりつくように
残り続けて──
ひと掬いの
最後の存在が
強い強い光に晒されて
強い強い風に払われて
ようやく撒いて消えた
そう
『私』という思念と存在が
完全に消え去ること
時の果てに
風化することでしか
私は『約束』という呪縛から
解放されることができなかった
だから
これで
さようなら




