秘密
私は、シャフトと呼ばれる廊下の脇のスペースの中にいた。
何とか、壁に取りかかろうとするも、体が1ミリも動かなくなった。
この姿を見られたら、ヒロシさんに殺される。
そう思って、気付いたら私はこの中へと隠れていた。
スマホを見ると、時刻は10時。
後3時間で検査が始まる。
やらなきゃ、とは思う。
でも、まだ2面しか終わってない。
残りあと何面か、考えるのすら煩わしくなってきた頃、ギイ、と扉が軋む音がした。
(や、やばっ)
思わず身構える。
もうダメかと諦め、扉が開かれると、
「やっぱり、ここにいたか」
「……え?」
薄暗くてよく分からないけど、ヒロシさんじゃない。
そして、私はこの声に聞き覚えがある。
男にしてはかなり高い、どこから出ているのかよく分からないような声。
イルカだった。
「朝、助けてって声を聞いてさ。 クレセントヒルズってワードから、どうにかここまで来れた」
……そうだ。
私は朝、心の中で無意識に助けを求めてた。
クレセントヒルズってワードまで出したか覚えてないけど……
でもまさか、本当に助けが来るなんて。
私は、嬉しくてまた涙が出そうだったけど、イルカの前でそんな姿は見せられない。
「とにかく、交代だ。 さっき、ヒロシって人と話付けてきたから、適当な所で休んでろよ」
「……ありがとう」
「検査まで3時間。 残りは20階が2面で、19階が丸々8面だから、1面18分程度で終わらせなきゃならないのか……」
3時間を分に直すと180分。
残り10面で、単純計算で一面18分か。
ヒロシさんだって1面1時間はかかる。
さっきは30分で終わらせるって言ってたけど、さすがに18分は厳しいと思う。
「まあ、やれるだけやってみるけど。 あと、急にいなくなった件、後で話してもらうからな」
……やっぱり、そうだよね。
エリスマン亭でやらかした事は言い逃れできそうにない。
「分かったわ」
「おい、大丈夫か?」
「……うっ」
私は、目を覚ました。
ぼやけた視界の先に、イルカがいる。
……時刻は?
「今、13時だよ」
「え、検査は!?」
びっくりして飛び上がると、イルカが言った。
「午後の検査は中止だ。 上のフロアがあまりにも手直しが多くて、下はもっとヒドいだろうって、延期になった」
「延期……」
思わず、力が抜ける。
良かったのか分からないけど、とりあえず今すぐに壁を塗る必要は無さそうだ。
「それより、お前はこんな無茶苦茶な仕事、する必要ない。 あのヒロシってヤツ、とんでもない弱味、握られてたんだ」




