更なるリミット
昨日、どうにかやる気を出して8時間で2フロアを終えた。
正直、この時点で気力は殆ど残っていない。
それなのに、今度は8時から13時までの5時間で2フロアを終わらせなければならない。
絶対に無理だ!
「無理ですよっ、物理的に……」
「無理とか、関係あらへん。 やるしかないんや」
この人、頭おかしい。
狂ってなきゃ、今から2フロアを塗ろうなんて言えるハズが無い。
会社の為とか言ってるけど、これ以上は本当に過労死してしまう。
階段を上ってる訳でも無いのに、心臓がバクバク音を立てる。
(これ以上働いたら、死ぬ……)
もう丸一日以上働いてる。
「2倍のスピードで腕動かしたらええだけや」
(出来るわけないでしょ…… もう、逃げるしかない)
それでも、私はその場から逃げ出すことは出来なかった。
私の考えとは裏腹に、ヒロシさんに続いて階段を上る。
辛すぎて、涙がひたすら流れる。
誰か、助けて。
このままじゃ、本当に殺される。
誰か……
「走れっ、ダラダラしてたら終わらへんで!」
ヒロシさんの怒号が響く。
つい昨日まで、友情が芽生えつつあったと思ったのに、今はこの人に殺意すら覚える。
一旦31階に上がり、ペンキ缶を20階へと降ろす。
もう、やけくそだ。
周りから綺麗に塗ろうなんて気は今更起きない。
ざっざ、ざっざとローラーを転がす。
仕上がりなんてどうでもいい。
(クソッ、クソッ!)
すると、何かが私の体に向かって飛んできた。
それは、ローラーだった。
ヒロシさんがローラーを投げつけてきた。
「ふざけてんのか、てめぇっ!」
物凄い剣幕でこちらにやって来ると、胸ぐらを掴まれる。
「てめぇ、やる気あんのか? これで検査通ると思ってんのか!?」
正直、検査なんてどうでもいい。
しかし、口から出たのは謝罪の言葉だった。
「すみ、ません……」
「……くっそが、とっととやり直せや」
ヒロシさんが持ち場へと戻る。
確かに、急かされれば普段より苛立つのは分かる。
それでも、この人には何かある。
仕事を完遂しなければマズい何かがあるように、私には思えた。




