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作業開始

「ぜえ、ぜえ……」


 まさか、35階まで階段でやって来るとは思わなかった。

途中、5回くらい心が折れたけど……

プルプルした足のまま、ヒロシさんを追いかけると、大量のペンキの缶の置いてある一画へとやって来た。

ヒロシさんは相変わらず黙りで、私は痺れを切らして確認した。


「あの…… このフロアからですか?」


 チラ、とヒロシさんはこちらを一瞥し、吐き捨てるように答えた。


「……こっから下全部や」


 は、全部?

全部って、35フロア?

期日は1週間後。

どれくらいの仕事量なのか、全く検討付かないけど、終わる量なの?


「それって、一日でどれくらいまで塗れば終わるんですか?」

 

「知るか。 終わるまで帰れへんで」


 嘘でしょ……

私は、一気に絶望の淵にたたき落とされた気がした。








 それからは、黙々とペンキを塗るだけ。

ヒロシさんに指示された箇所をひたすら白で塗りつけていく。

建物内の、共用部と呼ばれる廊下の部分が私たちの担当で、下段を塗ったら脚立を使って届かない所を塗っていく。

ローラーが入らない細かい所はハケを使うんだけど、これがまた時間を取られる。

どうやら、このフロアは内装以外はほぼ完成しているみたいで、他の職人は見かけなかった。


(作業はやりやすいけど、終わらないよ……)


 3時間経過して、ようやく壁の一面が終了。

共用部は内側の壁、外側の壁とあり、合計8面ある。

今終わったのは、内側の壁だ。

12時になって、私はヒロシさんの様子を見に行った。


「あの、お昼は……」


 恐る恐る後ろ姿に聞くと、返事が返ってくる。


「……ああ、そんな時間か。 1時までには戻ってこいや」


「分かりました!」


 ふぅ……

とりあえず、お昼にありつけるわ。

この人のことだから、昼無しもあるかと思ったけど。

ウインドブレーカーを作業中の壁の前に脱ぎ捨てて、エレベーターのボタンを押す。

しばらくしてから、チン、と音を立ててかごがやって来ると、私はそれに乗り込んだ。








 

 昼に適当な店でランチを取ると、行列のエレベーターを待つ。

しかし、エレベーターの定員は10人程度の為か、全く進まない。


(やば、間に合わないかも)


 時刻は12:50分。

遅れたら何を言われるか分からない。

もーっ!

また35階まで登らなきゃならないの!?

待ちきれず、結局私は階段を駆け上がった。

 

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