クレセントヒルズ
翌日早朝。
私は、濱口社長に言われた通り、都内の現場にやって来た。
今日から塗装を手がけるビルの名前は、クレセント・ヒルズ。
高さ250メートル、75階建ての、完成すれば都内最大級の建物とのことだ。
その建物はガラス張りで、見上げる程高く、外から見ただけだと完成しているように見える。
しかし、白いバリケードの壁を潜ると、色々な作業着の職人たちが慌ただしく往来している。
その中で、一人の黒いウインドブレーカーを羽織った男が現れた。
「……」
「は、初めまして、立野エリです」
この人が、濱口社長の言ってた社員に違いない。
社長はこんな風に言っていた。
「ヒロシに会ったらビックリするかもなぁ。 でもまぁ、人は悪くないねんで」
痩せ細って、ひげ面。
同じペンキストリート兄さんとは違い、清潔感は無い。
不気味な眼光で、私は少し怖気がした。
「朝礼や、ぼさっとすんなや」
「あ、はいっ」
ヒロシさんの後について、地下へと進む。
地下は埃が立ちこめていて、まだまだ完成にはほど遠いいように感じる。
本当に、これで1週間後に完成なの?
道をクネクネ進むと、奥にロッカーの敷き詰められた部屋。
ヒロシさんがロッカーまで進み出て、中からベルトと黒いウインドブレーカーを取りだして、私によこした。
「はよ、つけろや」
「……」
黙って受け取ると、それらを身につける。
ベルトにはハケ、ローラーが差してあった。
(ちょっと熱いかもなぁ……)
ブレーカーは換気が悪く、熱が籠もる。
更に奥の広いスペースに移動すると、ザワザワザワザワと話声が響く。
ここが朝礼会場か。
人口密度がハンパない上に、殆どが男だ。
ヒロシさんにはぐれないように後に続くと、そのまま列に並んだ。
朝礼ではラジオ体操から始まり、次に現場監督による現場の説明。
その後、バラけて各班ごとにミーティング。
私たちは、そのまま階段へと向かった。
エレベーターもあるにはあるけど、大行列で乗れそうも無い。
それにしても、一体、何階に向かうのかしら?
ヒロシさんは全く口を開かないし、私は不安に駆られた。




