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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第二章:オーストラリア縦断編
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05-レーザーとビーム

 イスカは格納庫に向かった。

 が、そこにはすでに機体はなかった。


「あれ……ロナさん、キャバリアーどこに行ったんですか?」

「ああ、基地の整備ドックに移されたよ。そこでチェックと補修を行うんだ」

「へえ、ここでするんじゃないんですか?」

「移動中に行えるのはあくまで応急手当だから、本格的な修復を行うにはしっかりした設備がないといけないの。せっかくだから、一緒に行ってみる?」


 イスカは首を縦に振った。元来た道を戻り基地へ向かう。許可を取らなくてよかったのだろうか、と思いながらも引率がいるなら問題ないだろうと判断した。

 オリバセウスと基地を繋ぐ連絡通路を通って内部へ。その途中、艦の外壁部で作業を行う人々の姿を見た。誰もが皆、真剣な表情をしている。


「そりゃ、国連の命運が決するなんて脅かされたら必死にもなるだろうさ」


 ロナは苦笑しながら言った。

 彼らの態度とは温度差がある気がした。


「ロナさんは、そう思っていないってことですか?」

「実際に戦っているあなたにこんなことを言うのは失礼かもしれないけど、しょせんはバトルウェア一機と潜水艦一隻だからね。これが世界の命運を左右します、なんて言われても信じられないな。スペックが戦局を左右するはずはない」


 現実的な、ドライとも言える感想だ。


「そんな仕事に付き合わされるって、どういう気持ちなんですか?」

「私は仕事をするだけだよ。たとえそれがどれだけ馬鹿げたものだったとしても、ね。ああ、着いた着いた。さすがに広いね、基地のドックは」


 視界いっぱいに広がる格納庫の中には、多数のAAや戦闘機、戦車などが所狭しと置かれている。それ以上に多いのが作業場内を移動するためのカート類、それから牽引車だ。広い室内はあれがなければ移動もままならないだろう。


「これは……すごいな。想像していた以上の場所だ」

「そんなにすごいところなんですか、ここって」

「ああ、動く戦闘史博物館、って感じだな……」


 つまりそれは型落ち機が数だけ揃えているということか。イスカは急に不安になって来た。ロナは室内を見回し、感心したように首を振った。


「おお、(レーザー)(ディフェンス)(システム)搭載車か。消えたと思ったが……」

「レーザー……そういえば、レーザーとビームってどう違うんですか?」


 イスカにとってみれば同じ光を撃ち出す武器であり、違いがあるようには思えなかった。ロナはああ、と思い出したように話を始めた。


「そういえば、説明したことがなかったね。軍籍でも技術者でもないキミが混同してしまうのも無理はない。ただ、二つは根本からして違うものなんだ」

「根本からして、ですか。まったく別物ってことですね?」

「うん。レーザーは光学兵器……すなわち光を撃ち出して対象物を破壊する兵器だ。二十世紀中頃から研究が始まって、二十一世紀に実用化された。当初はミサイル防衛などに使われたんだけど、そこから急速に廃れていく」


 そう言ってロナは指を格納庫の方に向けた。


「複合硬化チタンの発明だ。熱に強く加工しやすく軽い金属の登場で、レーザーは威力不足になってしまったんだ。目視出来ず光速で飛来しようとも、破壊出来なきゃ意味がない。ミサイルの弾殻にもこれが使われるようになったから、当初のMD兵装としての用もなさなくなってしまった。つまりは骨董品さ」


 オーストラリア方面軍はそんな骨董品まで引っ張り出さなければいけない状況なのか、とイスカは今更ながらに自分が置かれている状況を理解した。


「対してビーム兵器は、見た目こそ色のついた光を撃ち出す兵器だが……」

「まったく違う、ってさっき言ってましたね」

「ああ、まったく違う。ビーム兵器は純粋なエ(・・・・・・・・・・)ネルギーを撃ち出す(・・・・・・・・・)


 純粋なエネルギー。

 それがどんなものか、まるで想像できなかった。


「例えばレーザー兵器ならジェネレーターが生み出した電力を光に変換し撃ち出す。だがビーム兵器は生み出されたエネルギーそのものを使う。だから変換ロスが存在しない。生み出したのと等しい力を相手に叩きつけることが出来るんだよ」


 圧倒的に威力が優れている、ということか。そうイスカは理解した。


「レーザーに比べると弾速が遅いというデメリットがあるし、純粋なエネルギーが大気と接触して熱や光に変換されることは避けられない。だからいまのところ射程も確保出来ない。でももし実用化されればその力は計り知れない……」

「実用化するための一環が、キャバリアーの腕に搭載されている……」

「ビームイレイザー。さっきも言ったように射程の問題があるビームを重力場に閉じ込め循環させることでエネルギーの99.9%を相手に叩き込む兵器。現状ではまともに使うことすら出来ないものだけど、データさえ集まれば……」


 ロナはそこで話を終わらせた。

 キャバリアーのところまで辿り着いたからだ。


「イレイザー、使うなって言ったよねあの時」

「あっ、はい。そういえば謝るタイミングがなかったので……」

「こっちとしてはデータが取れて万々歳だけど、気をつけてよね」


 ロナの注意はほとんど形式ばかりのものだった。本気で起こってはいないのだろう、とイスカは解釈した。機体は表面装甲を取り外され、人工筋肉がむき出しになっていた。リアルな人体模型を見ているようで何となく、気持ちが悪くなって来る。見ていると、キャバリアーの胸に一メートル大の球体があることに気付いた。


「あれ、何ですか?」

「あれが重力制御のコアユニットだ。コアユニットを両手足と頭部に組み込まれた制御ユニットで制御する……もっとも、私たちもあれがいったい何なのかってことはほとんど理解していないんだけどね……」

「……そんなんで動かせるんですか、あれ?」

「麻酔と同じさ。どうして作用するのかは分からないけど、こう使えばこうなるってことは分かっている。考えるよりも、まずは生き残ることを考えるべきさ」


 イスカも頷いた。

 自分がどんなものに乗っているのかに興味はなかった。


「あれ……隣にはゲゼルシャフトもあるんですね」

「オーストラリア軍が鹵獲したようだ。あれには自爆装置が搭載されているから、内部機構から何から何まで無事で残っているのは珍しいな」


 ゲゼルシャフトは国連軍のカラーである白にリペイントされており、両肩にはリボルビング機構を搭載した砲塔が積み込まれていた。砲戦型と言ったところか。機体の前ではアスタルが整備士から説明を受けていた。


「アスタルさん。あの人がゲゼルシャフトに乗るのか……?」


 アスタルはイスカたちに気付いて振り返り、話を中断して寄って来た。


「いいところに来た、イスカ。全体説明の手間が省ける」

「どうしたんですか、アスタルさん。何か進展があったんですか?」


 アスタルは首を縦に振った。

 オーストラリアに来てから何度目かの嬉しい知らせだ。


「我々はオーストラリアを離れ、アラビア半島へと向かう。そのための支援を彼らがしてくれることになった……我々を逃がすために、戦ってくれるのだ」

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