第八話 「一番の問題は、地球が飽きてしまっていることです」
市営グラウンドから学校へ帰る、バスの車中。
一番後ろの座席に俺とのぞみ、蒼生の三人が並んで座った。
聞きたいこと、言いたいことは山ほどある。
が、まず俺は今の正直な気持ちを蒼生に伝えることにした。
「蒼生、お前の言ってること、信じるしかなくなっちゃったな」
のぞみも神妙な顔をしてうなずいた。
なぜか蒼生も難しい顔をしていた。
「何から話せばいいんですかね」
蒼生はバス前方のフロントガラスの先を見ていた。
薄暗い国道には、車の赤いテールランプがつらなっている。
しばらくして、大きく息を吐き出すと、蒼生が話しを始めた。
「人間のうんこの色が、人類存続のための大事なポイントなんです」
はぁ。
戸惑う俺の顔を見て蒼生は頷き、この前の続きですけど、
と前置きした。
「人間が地球に生き残るには、地球が欲しがるうんこをする生命体になれば
いいんです」
蒼生はきっぱりと答えた。
地球が欲しがるうんこって…。
「そもそも、地球の大地の色は黄色ですよね。」
黄色?ちょっと待って…。
「いきなり上げ足を取るようで申し訳ないけど、黄色というより…
地球の大地の色は、茶色じゃないのか? 土色とも言うし」
「いえ、本来は黄色なんです」
蒼生は俺の過ちをたしなめるように、ぴしゃりと言った。
「人間のせいで地球は茶色い大地になったんです。
人間は食生活や生活習慣の変化によって、なかなか黄色いモノを
しなくなりました。
黄土色や、茶色、中には焦げ茶色に変色している人までいるというのが
実情です。
地球の立場で考えたら、そして人類の目的を考えたら、自分が排出する色に
無自覚でいられるなんて、正直ありえないと思うんですよね。
人間が救われるためには、まずかつての人間たちのようにバランスのとれた
食生活に戻し、地球の環境と、美化にふさわしい黄色いうんこをするしか
ないんです」
蒼生はまるで、どこかの健康番組のようなご神託を並べた。
あれっ、と不可解な声を出して、のぞみが質問した。
「でも蒼生ちゃん、人間がする、その…あの…量なんて少ないから、
地球はあまり影響を受けないんじゃないの?」
「いえいえ何を言っているんですか。
のぞみさんも昔、黄色い絵の具に、黒い絵の具を混ぜた事があるでしょう?
たった一滴でも黒を落とすと、黄色はものすごい濁色になりましたよね。
大地だってあれと同じことです。
少量でも汚れた色が混じれば、黄色い大地は濁ってしまうのです」
のぞみは納得したようにうなずいて感心していたが、
俺はもっと根本的な部分が気になっていた。
「人間が地球の欲しがるうんこをすればいいって言ったけどさ、
そもそも人間がする量なんて、少ないから地球は期待していないんだろ?」
「かと言って、しなくていいという訳ではありませんよ。
少量だったとしても常に必要とはしているのです。
まぁ地球にとってこの時代は、少ない食料で飢えをしのぐ断食期間のような
ものなんでしょうけどね…」
食料とか言うな、蒼生。
まあいい、そこは目をつぶるとしてもだよ。
「どうせ石油を取りつくしたら人間はお払い箱なんだろ。
少しくらい綺麗なモノを出した所で、
人類の運命は変わらないんじゃないのか?」
「もうこれだから、地球の人間は浅知恵だと言うんです」
蒼生に心底軽蔑するような目で蔑まされた。
「確かに人間が綺麗な黄色いうんこをするようになっても、
それで人類滅亡の危機が救える訳ではありません」
「やっぱりそうなんじゃないか」
のぞみも隣で肩を落とした。
結局どんなに綺麗な黄色いモノをしたって、量が少ないという現状は解決しない。
そういう事だよな、蒼生。
「いえ、一番の問題は、地球が黄色いうんこに飽きてしまっていることです」
はぁ?
呆れて口が開いてしまった俺の横で、のぞみが蒼生に確認した。
「黄色に飽きているってどういうことなの?」
「じゃあ代わりに赤や青のモノをすればいいってことなのか?」
「まぁ、結論から言えば、その通りです」
蒼生がうなずいた。
「できるわけないだろ!」
俺の激高した声の大きさに、バスの中ほどに座ったおばさんがビクッと反応した。
「いえいえ、赤や青は無理でも、『緑』なら地球の人間にも可能なのですよ」
「はぁ、どういうことだよ?」
緑って、それ人間じゃなくなっちゃうって事なんじゃないの?
何か薬とか飲むのか?
まさか人体実験とかしようと考えてるんじゃないだろうな?
「ねぇ蒼生ちゃん、なんで緑なら可能なの?」
興奮する俺に先回りして、のぞみが蒼生に続きを促す。
「そもそも、地球は何色になりたいか知っていますか?」
何色?
地球にそんな願望あるわけ?
俺は一旦、バスの背もたれに体を預けて脱力した。
蒼生の能力は認めるけど、いちいちくだらない。
なんだよ蒼生、その学校の先生のような余裕のある笑顔は。
何色になりたいかだって?知るわけねぇだろ。
蒼生、だいたいお前は地球と会話できるのかよ。
「青かな?」
のぞみが、蒼生の質問に答えた。
「だって宇宙から地球を撮影した写真を見ると、地球は青いでしょ?
それだけの理由なんだけど。
青と白がマーブル模様になっていて、すごくきれいだよね」
俺も怒りや疑問という感情をいったん抑えて、二人の会話に乗ることにした。
「まあ地表に住んでいる俺たちには見えないけど、確かに青くて綺麗だよな」
回答を得て満足げな蒼生は、ちょっとタメをつくって答えを引っ張ると…
「正解!」
と叫んだ。
クイズの司会者か、お前は。
以下、蒼生の解説。
「そもそも他の星に住む生物たちは、地球は地表も青いものだと思っていたん
ですよ。もちろん青く見える部分が海だという事は分かっていましたけど、
白い雲に覆われている大地も、きっと青いのだろうと勝手に想像を
膨らましていたんです。
地球は宇宙の憧れだったんですよ。
ところが、です。
地球を最初に偵察に来た、とある星の生命体は驚きました。
『地球は青くない』
地球の地表は茶色だった…というニュースは瞬く間に、
宇宙全体に広がりました。
そして、地球の評判はガタ落ちしたのです。
『地球は見栄っ張り』
『メイク上手な整形惑星』
『嘘で固められた46億年の人生・地球』
当時はそんな罵詈雑言がメディアを賑わせたそうです。
確かに地球は、宇宙に対して外面のいい部分だけを見せていました。
青く見える海の部分だけを強調し、茶色い土の部分は白い雲で覆い隠す…。
これでは、地球が美容整形の達人だと言われても仕方ないですよね。
この一件で地球はかなり落ち込み、深く傷ついたと言われています。
つまり地球の憧れは、きれいな青い肌になることなんですよ。
黄色いうんこしかできない人間なんて、実はとうの昔にお払い箱なんです」
「可哀そうに…」
なぜかのぞみは、地球の境遇に同乗していた。
ちょっ…ちょっと待ってよ。
色々突っ込みどころあるけどさ、
一体誰が、地球の気持ち聞いたんだよ。そこ変だろ?
これはちゃんと、蒼生に正面から疑問をぶつけなくてはなるまい。
「蒼生、俺たちは地球がそんなに自分の容姿にコンプレックスを持ってるなんて
知らなかったぞ。どうしてそんなこと、お前らに分かるんだよ」
「それはあなたたちが地球を思いやっていないからですよ」
はぁ?思いやり?
「そもそもあなたたちが、地表の上からしか地球をみていないのが
いけないのです。
皆さんは、地球が足の下にあると思っているでしょ?失礼ですよ。
地球に寄生しているのは、人間ですからね。
人間なんて地球の上にニョキニョキ生えている苔みたいなものですから。
地球の人間達は自分の立場をわきまえ、地球をちゃんと、一個人として
敬わないと。
ちなみに地球の気持ちを、誰がどうやって聞いたのかって話ですけど、
ずいぶん昔の事なので、私はよく知りません。
でもこれは、宇宙ではわりと有名な話ですよ」
宇宙では有名な話なのか…。
うーん、文明が発達すると、直接星と会話することが出来るのかな。
星間移動が出来るレベルの科学力なんだもんな…。
あんまり地球の常識で否定ばかりしていると、
宇宙から取り残された人間になってしまうかもしれないな。
俺の中にそんな危機感が芽生え始めていた。
俺は地球の常識に凝り固まった思考回路を解体し、自己意識改革を行って、
何とか宇宙最先端の文明に追い付き、それを取り入れたいと、
頭のCPUをフル稼働し始めていた。
だが、そんな発展途上な俺に構うことなく、
蒼生は、すでに様々な事象を受け入れているのぞみに、
地球の気持ちを代弁するような話を始めた。
「地球は早くブルーメイクをしたいんですよ。
ただその前に、地表のスキンケアは重要なんです。
人間の力を使って石油や天然ガスっていう吹き出物を処理したら、
すぐに人間を処分して、新しく青いうんこをする生命体を作り出したい
はずなんです」
なんだか蒼生の話に気が滅入って来た。
どっちにしろ、人類はおしまいって話なんだよな。
「ちょっと失望しちゃいましたか?」
誰のせいだよ。
「でも人間なんて、そんなものなんですよ」
さらに傷口に塩をぬられた。
「ただ、そんな地球の人類にも、救われる道は残されているんですよ」
俺とのぞみは、座席から身を乗り出して蒼生の顔をのぞいた。
「それは、緑色のうんこをする事です!」
それ、自慢げに胸を張って言うことか。
さっきもそんなこと言ってたけどさ。
はぁ? ベジタリアンになれってことなの?
「はぁ? 野菜を食べたら、緑色のうんこが出せるとでも思っているんですか?
それは、とんだ思い上がりですよ。
野菜を食べたくらいで、地球人のうんこは緑色になんかなりません。
もともと黄色いうんこを作る機能しか有していないんですから、地球の人は。
唐辛子やケチャップを食べても、真っ赤なうんこが出せないのと同じことです。
まぁちょっとは赤くなりますけど、えんじ色とか、赤茶色が良い所でしょう」
「あんまり人間をうんこ製造機みたいに言うな、蒼生」
「うんこ製造機ですよ。地球人は黄色いうんこを作るための工場なんです。
地球に安定した黄色いうんこを供給するための生産ラインなんですよ。
野菜を食べたって緑のうんこなんて、できないんです!」
なんかムカつくな…。
のぞみ、いちいち頷くなよ。まあ見方によっては、確かにそうなんだけどさ…。
まぁいいや。とりあえず人間が工場かどうかはさておき、話を続けよう。
「蒼生、さっき緑色のうんこなら地球の人間にも出来るっていったけど、
じゃあ緑色の…何? 着色剤とか、そういうのを一緒に食べろって事なの?」
「何言ってるんですか!
そんな不純物の混じったモノに地球が喜ぶとでも思ってるんですか?
全然、地球に優しくないですよ」
何でこんな事でキレられているのか、もう良く分からなくなってきた。
「じゃあ、どうするんだよ……。
もう降参するから教えてくれよ。どうしたら緑になるんだ?」
「何ですか降参って!えっ言うんですか? …えっえっ……私が?」
「何照れてるんだよ」
蒼生が急にバスの車内に目を泳がせ、そわそわし始めた。
「ええと、緑のうんこをするためにはですね…えっと、
あの、その…子供がですね…」
「子供?」
「そうです、いやその…」
「そういえば、子供が緑の便をすることってあるよね」
「のぞみさん、それは病気ですから」
蒼生は、のぞみに軽く突っ込むと、
「そうではなくて健康な緑のうんこをする子供を作るんです」
「緑のうんこをする子供?
やっぱりお前ら地球で人体実験とかしようとしてるのか?」
「ちがいます!もう…じゃあ言いますよ!!
私と地球人とで、緑色のうんこをする子供を作るんです!」
はあぁ。
あきれた…言葉が出ない…。
何言ってんだこの子…。緑色のう●こする子供作るって?
それにしても顔真っ赤だぞ。
「蒼生、子供を作るってのは、あれか?
遺伝子操作とかクローンとかで、そういう子供を作りだすってことなのか?」
「違いますよ。…これ以上私に言わせるつもりなんですか!!」
「えっ…」
「蒼生ちゃん、本当の意味での子作りってこと?」
動揺するのぞみに蒼生はコクリとうなずいた。
「私の秘密を明かしましたからね。…覚悟を決めてもらいますよ」
えっ覚悟って…。
「地球と人類の未来のために」
「おいおい!ちょっと待て。何言ってるんだ…」
衝撃的すぎて次の言葉が出てこない。いやこの話、色々おかしいだろ。
「あの、まず根本的に…だな。
なんで地球の人間と蒼生とで、緑色の。。。をする子供ができるんだ」
俺の言葉を聞くと、蒼生は前方の車窓を見ながら、ぼそりと言った。
「それは、私たち67C星の人間が、青いうんこをするからです」
絶句。
知りたくもないことを、うっかり勢いで知ってしまった。
「お前のって青いの?」
「蒼生ちゃん、それって本当」
「そうですよ、私たち67C星の人間は、青いうんこをするんです。
67C星は私たちのおかげできれいな青い星だったんですよ!」
何なんだよ、青い星に、青いうんこって…。
「見せませんよ!」
「見たくねえよ!」
まぁ、どんなものなのか、ちょっとは興味あるけど…。
それにしても、緑のアレをする子供を一緒に作るって…
何とか話を逸らさないと…。
「蒼生、それならお前が地球のあちこちに青いやつをして歩けばいいんじゃないの?
地球だって青くなりたいんだろ?
緑より、その方がずっと喜ぶじゃないか。」
「あたしが一人でするうんこの量なんて限られているじゃないですか。
人間が一生でするうんこの量って知ってますか?
約4.4トンしかないんですよ。
象1頭分の重さにしかなりませんよ!
私一人では限界があるんです。
私ももう16才ですから、このまま頑張っても、残りあと70年ですよ。
私だけでは、地球の色を変える事なんで出来ないんです。
だから地球人と交配して、緑色のうんこをする子供を作る必要が
あるんです!」
おいおい、ちょっと待てくれ…。
次々と不思議な話が出て来てビックリだわ。
「ちょっと質問していいか?
なんで地球の人間と蒼生が結婚したら、子供のうん●が緑に…いや何となく分かったわ…」
「そうです。黄色いうんこをする地球人と、青いうんこをする私で子供を作れば、
生まれてくる子供は、必然的に緑色のうんこをする子になるんです!」
「本当にそんな絵の具みたいなものなのか、生命の神秘は?
俺たちが知らないと思って、適当なこと言ってる?」
「いえ、これは生物学では、ごくあたり前の常識ですよ。
黄色い人類と青い人類が結ばれれば、
緑色のうんこをする子供が生まれるんです!
地球と67C星の人類の未来は、私たちに委ねられているんですよ!」
蒼生から熱い目線で見つめられた。
えっ…そういう事なの??
「蒼生、ちょっと待ってくれ…。
正直言って緑色のうん…をする子供って…創造できないし、それに…まだそんな重い使命を受け止めきれないよ…」
バスが学校前の停留所に着いた。
顔を蒼白にした蒼生が、小さく体を震わせて真っ先にバスを降りる。
「おい、蒼生待てよ」
どうやら傷つけてしまったらしい。
一人で先に歩き、校門をくぐろうとする蒼生をのぞみが走って追いかけた。
追い付いたのぞみの胸に、蒼生が顔を埋める。
俺が二人に追い付くと、
蒼生はのぞみの胸に顔を押し付けたまま嗚咽を漏らしていた。
「ごめんな、蒼生」
泣いている事に動揺して謝ったものの、
何をどう言ったらいいのか見当もつかない。
下校する生徒たちが、俺たち3人の様子を遠巻きに眺めながらすれ違った。
「この何日かで次々と色々なことが起きて、俺も頭の整理がつかないんだ…」
俺は今の気持ちを、蒼生に伝えた。
顔を伏せたままの蒼生は、小さな声で反応した。
「私にはもう生きる資格がありません」
「何言ってるんだよ!」
「そんなことないよ、蒼生ちゃん」
いいえ、と顔をあげた蒼生の目には、泣いていたとは思えない強い意志が漲っていた。
「私は、67C星の遺伝子存続という使命を受けて送られてきたんです。
それなのに子作りを拒まれてしまっては、私の存在意義なんてないじゃないですか!」
「そんなことない!蒼生ちゃんは生きてるだけで価値があるよ」
のぞみが蒼生を強く抱きしめた。
「それに、地球には他にもいい人いっぱいいるじゃん」
「私の秘密は、私がこの人の子供を産みたいと思った相手だけに、打ち明けることにしていたのに…」
「それが勇太なの?」
蒼生は恥ずかしそうにうなずいた。
「そうです。山吹君の色、形、量、すべてあの河原で確認しました。
合格です。
あなたならと思っていました」
「いや、ありがとうというか…」
あまりにストレートな告白に、何と答えていいのか戸惑った。
しかも、そんな理由?
あの河原で蒼生は、そんな視点で俺を見ていたのか。
「いやぁ…本当に人間の外見じゃなくて、中身で選ぶんだな」
俺の言葉にちょっと空気が和んだ。ホッとする。
「でも、蒼生がそんな壮大な運命を背負って生きているなんて知らなかったよ。
その…自分の星の人類を救うためなんだよな。ごめん知らなくて。
星の命運を背負って他の星にやってくるなんて、すごいな。
俺には想像もつかないよ」
何とか取り繕おうと饒舌すぎたかもしれないが、蒼生に感心したのは確かだった。
のぞみも、蒼生を腕の中で抱えたまま話しかけた。
「蒼生ちゃんは、何年かけて地球を緑色にしようと思ってるの?」
「そうですね、表面だけの仮塗装でも多分、100万年年以上はかかるかと」
「「そんなにかかるんだ!」」
思わず絶句した。
「壮大すぎるな、計画が。何世代先の人間で完成するんだよ」
「でも地球にとっては、たいした時間じゃないですよ。
だって人類を誕生させて、石油が採掘できるまで
400万年以上待ってるんですからね」
「うわぁ気が長いんだね、地球って」
すっかり感心しているのぞみ。だが俺はどうも素直に受け入れられない…。
「蒼生、地球ってそんなに悠長に、人間の成長を見守るものなのか?」
うっかりしていると、つい蒼生のペースにされてしまう。
気になる事には、ちゃんと確認しないと。
「とにかく、私一代ではどうにもならないんです。
子や孫の代に受け継ぎ、何世代にも渡ってうんこをし続けないとだめなんです。
青い色を望んでいる地球が、緑色で満足してくれるかは、正直分かりません。
でも地球は黄色いモノをする人間しか作れませんから、
緑でも十分喜んでくれるだろうと私たちは推測しているんです。
地球が緑色を受け入れてくれたら、私たちの星の遺伝子が生き続ける希望が生まれるんです」
蒼生の壮大な夢物語を聞きながら、俺たちは校門をくぐった。
二人は女子更衣室へ向かい、俺は教室でジャージから制服に着替える。
蒼生の話が正しいのかは別として、彼女のこれまでの行動には全て理由があった。
蒼生はただ自分が信じたことに従って行動しているのだ。
制服に着替えた俺たち三人は、駄菓子屋には寄らずに駅までの坂を下った。
その道中で蒼生に、気になっていたあの事について尋ねてみた。
「あの紅緒って子は何なんだ」
「あの子は別の星の子です」
「赤だって言ってたけど、もしかしてあの子は…」
「赤いうんこをするんです」
おいおい…。宇宙ってのは全部アレの色で人間をカテゴライズしているのかよ。
「でも、なかなか赤を受け入れてくれる星は少ないんですよ」
蒼生は、紅緒の境遇に同情しているようだった。
「あいつは蒼生の敵なのか?戦ってたけど」
「いえ、お互いの戦況を確認し合っただけです」
「蒼生ちゃん、やられちゃうんじゃないかって心配したよ」
「そんなことはありません」
のぞみの不安を蒼生が一笑した。
「勝者を選ぶのは地球です。
人間同士が戦ってお互い傷つけあっても仕方ないですから。
それは紅緒さんも分かっています。
最終的には、地球が全てを選択するんです」
「でも蒼生は、紅緒のことが好きじゃないんだろ?」
「『許せない』って言ってたよね」
「私たち青い人間と赤い人間たちの間に、歴史的な問題があることは確かです。
私もつい感情的になってしまいましたが、そんなことで取るべき行動を
誤ってはいけません。
お互い生きていく上で、手を取り合わない訳にはいかないので」
「ふうん、大人なんだね蒼生ちゃん」
のぞみが感心すると、蒼生はいえいえと手を横にふって謙遜してみせた。
そのしぐさの可愛さは、とてもさっきまで、う●こを熱弁していた少女とは
思えなかった。
だが。
俺たちの前に、宇宙人が次々と現れ始めたのは、とても重大な理由があったのだ。




