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超ドSな地球の陰謀  作者: 新井S蓋
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第九話 「地球に人工競技会は無いのか?」

翌日になると、校庭の温泉はすっかり干上がっていた。

それがあいつら宇宙人の力なのかどうか、は分からない。


放課後、練習前にグラウンドに出た蒼生は、顧問の柑子先生に昨日の件を謝った。

俺とのぞみが、地球の人間と上手くやっていくのなら謝った方がいいと忠告したのだ。


グラウンドに練習開始の円が出来ると、宣言通り、

ジャージを着た紅緒が、柑子先生に呼ばれてやって来た。


金髪美少女が学校指定のジャージを着ている姿は、一体何のコスプレなんだ?

という位の不思議な違和感があった。

彼女のきらびやかさと、紺色ジャージのダサさのアンバランスが妙に引き立つ。

紅緒を目にした男子部員たちの落ち着かない様子が、手に取るように分かった。

砂岡も目が泳いでいる。

校庭にいる他のクラブの男子の視線も全て独占していた。


「紅緒クランベリーだ。学年は一年。よろしく」


一年生とは思えない大柄(おおへい)な態度の自己紹介だったが、

紅緒は大きな拍手で迎えられた。

そして、陸上部員たちから失笑がこぼれた。

ハーフは非常識が許される、というルールがこの変人美少女にも適用され、

面白がられたのだ。


練習が始まると蒼生が紅緒の教育係を買って出た。

そして練習早々―――紅緒が根性なしであることが判明した。

というか、根本的にやる気がなかった。


最初のアップ走では、途中で疲れたと言って止めてしまう。

5本走る予定の100m流し走も、紅緒は一本だけ走ると見学していた。


柑子先生は、まあ初日だから仕方ないか、と笑いながら

紅緒の態度を大目に見てくれた。

紅緒は入部初日から、すっかり練習の蚊帳の外に置かれてしまった。

何で陸上部に入る必要があったんだ、と本当に疑問に思う。


5000m走の練習を終え、校舎の横にある水飲み場で俺が顔を洗っていると、

「おい」と背後から声をかけられた。

慌ててタオルで顔を拭き振り返ると、金髪の新入部員少女が一人で立っていた。


教育係を買って出た青い宇宙人は隣にいない。


「紅緒だけか」

「そうだ。蒼生は長い棒を持った女子と砂場の方に行ったからな」

蒼生はのぞみの棒高跳びの練習を手伝っているらしい。


紅緒は、大きく溜息をつくと、

「山吹、疲れるんだな、部活ってのは」

「よく言うよ、紅緒はずっとサボってたじゃないか」

「人聞きの悪い事を言うな。私は無駄はことはしたくないんだ」


そんな勝手なセリフを吐くと、紅緒は、俺にこんなことを聞いてきた。


「山吹、地球に人工競技会は無いのか」

「何だそれ、聞いたことないな」

なんとなく、中国か北朝鮮が国家行事として行う体育大会のようなものを想像した。


「人工競技会は、人間の排便を競い合う大会だよ。蒼生から聞いたことはないか」 

どういう下品な競技会なんだよ、それ。脱力するわ…。


周囲の視線を確認して、俺は小声でたしなめた。

「ちょっと声がでかい。排便とか女子が使う言葉じゃないからな」

この金髪宇宙人に、地球人の常識というものを教えてやらなくてはいけない。


「紅緒、そんな下品な大会は地球にないぞ。一体何なんだ、それ。

 もしかして…

 量や飛距離とかを競い合ったり?…っておい、ありえないだろ、そんなの!」

「飛距離って何だ?お前バカじゃねぇの?そんなもの競ってどうするんだよ」


紅緒はあきれ顔で俺を見下した。


「競い合うって、紅緒が言い出したんだろが!!」

「飛距離なんか比べてどうするんだよ、ははは、しょうがねぇなぁ。

 でも量は競い合うけどな」

「量は比べるのかよっ!」


どんな競技会なんだよ。お前らの頭の中ウジ湧いてるぞ。


「いや、向こうの世界ではかなり人気のある、国際競技会なんだぞ?」

「はぁ…」

「まあ地球からは誰も参加してないからな、知らないのも無理はないか」

そりゃそうだ。

そもそも地球の人間は、お前ら地球外生物の存在さえしらないしな。


紅緒いわく「人工競技会」というのは、

様々な星の人間達が、体内で作り出した「作品」の質や量を競い合う

大会なんだそうだ。


一体、そんな競技会が、

とこで、どんな会場で行われていて、

どんな選手が、どんな格好で参加して、

観客は、どこで観戦しているんだ…


そんな疑問は山のようにあるのだが、

聞いてしまうと、とても嫌な気分になりそうだったので、あえてそこはスルーした。


まぁそういう大会が宇宙にはあるんだそうだ。


何でもその競技会では、色、つや、量など20項目以上のポイントで

「人間が作り出した作品」を評価して、最も優れた逸品を生む人間を決めるらしい。


『人間はうんこを作るための機械』という考え方が一般的な彼らの世界では、

最も美しいうんこを作る人間こそが、最も優れた人間だということになるらしい。

人工競技会は人類の最高峰の大会に位置付けられているのだとか。

種目も赤色部門、青色部門、黄色部門など、各色別に最高の作品を選ぶのだという。


「星ごとの対抗戦になっていて、地球人のような黄色い排便の星の人類なら、

 黄色部門で一位になることを目指すんだ」

紅緒は目を爛々と輝かせて熱弁した。


なんでも人工アスリートたちは毎日の食生活には細心の注意を払い、

最高の色、つや、量が作り出せる食材を選び、

管理栄養士ともに栄養バランスを考えた食事を摂取して、

最高の排便が行えるように自らの健康管理を欠かさないのだという。


また肉体トレーニングも行っていて、常に胃・腸が最高の状態で稼働し、

良い作品が作れるようにコンディションを整えているんだとか。


人工競技会の最優秀作品を作り出したアスリートには、

惑星中に轟く大変な名誉が与えられるそうだ。


「崇高なる人工競技会に比べたら、陸上競技大会なんて何の価値もないな」

紅緒がまるでつまらないものを見るかのような言い方でグラウンドを眺めた。


「山吹、人間が走ったり跳んだり投げたりするだけだろ。

 誰が得するんだよ?地球が喜ぶ訳でもない。

 何かの役に立つわけでもない。ただ人間だけが自己満足してる大会じゃねぇか。

 そりゃ他の星にも流行らないよな。

 地表を貸してやってる地球だって、バカバカしくて(あき)れてるだろうと思うけどな」


紅緒の話は、とんでもない荒唐無稽なものだ。

一瞬、筋が通っているようにも思える、が、うっかり引き込まれてはいけない。

しかも、俺のような中学時代から陸上をやっている人間にしてみれば、

陸上競技を侮辱されているようで、ちょっと許しがたいものだった。


ただ「宇宙」という規模で言われてしまうとなかなか反論がしにくいので、

俺は自分の意見を胸の内に秘めて、紅緒の言葉にそのまま耳を傾けた。


「人工競技会の最優秀作品は、ほんとに品格があって、まさに芸術品なんだよな。

 あれは人間の英知の結晶とも言うべきものだな」


紅緒は神聖なものを憧憬(どうけい)するように、

人類が生み出す最高傑作の素晴らしさを力説した。


彼らはうんこと地球を、全ての価値の中心に置いて生きている。

それが分かると、彼らの考え方がだんだんと理解できるようになってくる。


走ったところで、人より早かったからといって、

それは人間社会において本質的に何の意味もない。

100m走の世界新記録はその選手の人生を変えるかもしれないが、

地球そのものを変えるわけではない。

他人よりも優れ、抜きんでた者が、称賛を浴びるのが地球という世界。


一方、美しいうんこを作り出し、星に寄与することに価値を認める紅緒や蒼生の世界。

どちらが素晴らしいとは一概には言えない、と思う。


と、そんな風に、それぞれの立場から、社会の価値を考えている自分に気づき、

驚いた。


「紅緒、人工競技会の素晴らしさは分かった。

 でもこの星では、あまりうんこのことを口に出して言わない方がいい。

 特に女の子は」

「あぁ、そうだったな」

うっかりしてた、という顔をして紅緒が照れ笑いした。

「これでもずいぶん、地球の常識をわきまえているつもりだったんだけどな」


紅緒の言葉に笑いながら、俺は周囲から視線が集まっていることに気づいた。

こんな新入り金髪少女との長話は、皆の関心を引いてしまう。


じゃあと別れを告げ、俺は紅緒から離れてトラックの中に戻った。

待ち構えていた砂岡が、俺の太ももにヒザ蹴りを見舞った。


この後、この金髪美少女の入部が、校内でちょっとした事件を引き起こす事になる。



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