第22話 「最終的に、誰のためですか?」
自宅に全員を引き連れて戻って来た姉は、
「ちょっと待ってて」
と言ってトイレに入り、その約3分後、
「来て来て!」
とリビングにいる俺たちに声をかけた。
うきうきとした顔で異星人3人がトイレに向かう。
俺とのぞみは、そんなモノを見たくなくてリビングのソファーで待機した。
「うわーきれいですね!」
「地球でもこんなに良い作品を作る人はいるんだな」
「惚れぼれしちゃうねー」
トイレから次々に上がる歓喜の声。
水を流す音が聞こえると、姉と3人がリビングに戻ってきた。
「山吹くんのお姉さんはすごいですね!」
「勇太よりも格段に素晴らしかったな」
「君も、こんな素敵なおねえさんに食事を作ってもらっているなんて幸せだな」
なるほど…俺の「作品」が高評価だったのは、姉の料理のおかげたったんだな。
それでも俺は、部活帰りにコンビニで買い食いしたりしているわけで…その純度は低い。
その点、姉は引きこもって毎食体にいいものばかり食べているわけだから、「作品」の質が上がるのは当然だった。汚染された社会から隔離された純粋培養だった。
異星人たちの称賛を浴びた姉は、
「これからもどんどん、作品のクオリティをあげていきたいな」
とすっかり自信を取り戻した様子で、自信に満ちた声をあげた。
「でも皆さんのものに比べたら、私のものなんて、まだまだだけどな…」
そんなふうに謙遜する姉を、三人は励ました。
新入部員を迎え入る先輩たちのように。
それにしても…
ここにいる三人の異星人は、宇宙の中でもかなりハイレベルのうん●の持ち主だそうだからな…。
そもそもスタートラインに立ったばかりの地球人とは、比べようがない。
それこそ雲泥の差がある。。。
姉だけの一世代で、どこまでクオリティをあげられるのか。
「山吹くん」
蒼生が、俺にお願いするように手を合わせながら言った。
「これもあの隕石の穴に入れて来てもらえませんか?」
俺は、中身の見えないタッパーにを3つ手渡された。
おそらく緑、白、黄色(姉)の作品がその中に詰められているのだろう。
俺は、物置で新しい釣竿と網、子供用プールを持ち出すと、川をくだり、隕石落下地点まで来てから、釣り竿でタッパーを投げ込んだ。
カコーンと、穴の底にタッパーが当たり、蓋が開いた感触を竿に感じる。
今度ばかりは、ちゃんとハサミを持って行ったことは言うまでもない。
家に戻ると、
姉、蒼生、紅緒、緑川、そしてのぞみの5人は、地球の食材で美しいうん●を作れるものは何かを、喧々諤々議論していた。
豆腐、白米、オートミール、様々な食材をリストアップしては、それらを使って実際に料理を作ってみて、それがおいしくできたかどうかの品評会していた。
さらに姉は、高校時代の教科書を持ち出し、どれが必要でどれが必要ないかという議論を持ち出した。
異星人3人の意見では、栄養学や保健体育が一番大切で、数学や物理、化学などは、それが得意な人が代表して研究を進めればよいのではないかと答えた。
歴史や古典は、調べればすぐ分かるのだから暗記するのは時間の無駄だと言い出した。
だが、そんな教科内容よりも。
試験で順位を競い合うことを三人は不思議がっていた。
こんなもので順番を付けても意味がないと盛り上がり、姉と意気投合していた。。
「こういう勉強を続けていって、文明を進化させていくことで、地球の人間は、一体何を成し遂げたいのだ?」
紅緒が不思議そうに言った。
何をって…。
「人間は常に進化を求めるているんじゃないのか?」
と姉が答えた。
「飛行機が飛べるようになったり、スマホが使えるようになったりしたのも、勉強して文明が進化したから世の中に出現したわけだし…」
そう答える姉に三人は、
「まあ自分の星の文明を発展させることはいいことですよ」
「便利になりますしね」
「では地球の人間は、文明の犠牲になるために生まれてきたことになるんですかね」
確かに、と姉がつぶやくが、三人は続けた。
「延々と文明を発展させるために生きているんですかね」
「人間ってどこまでできるのか、どこまでいけるのかの挑戦をしているの?」
「どこまでいけたら満足なんですかね」
「ゴールは無いんじゃないですか?」
「それこそ行けるところまで、延々と進む」
「やることなくなっちゃうから文明を続けているだけですよ」
「ヒマになっちゃうから?」
「それも一理あるかもしれないけど」
「戻るけど、文明を発展させ続けるのって、誰のためなんですかね
「ただの自己満足?」
「誰かにその成果を見せたいんですかね」
「人間はここまでやりましたよ!ってことを」
「未来の人間に?」
「未来の子供たちのために、ですよ」
「その未来の子供たちも、さらに未来の子供たちのために、見せたいんですか?」
「未来の子供たちにしてみたら、都合のいいごまかしに思えるかもね。大人が作った」
「私は、親が子供のためにって言うのうざかったもんな。
お前らも頑張らないといけないって。よけいなお世話だよ。
お前の将来のためにって。別に生んでくれなくてもよかったけど」
「ホントに未来のためにって、未来の誰のためにですかね?」
「最終的に、誰のためですか?」
「すっとバトンを渡し続けていますけど、それは最後に誰に渡したいものですか?」
「文化を継いだところで、恐竜みたいに絶滅しちゃったら、何も残らないですからね」
「そうか、志半ばで地球の人類が消滅しちゃう可能性もあるのか」
「宇宙旅行も達成できずに…」
「だとしたらなおさら、何のための文明のバトンなのでしょうか」
「今ここでバトンが途切れても、納得できる理由じゃないと空しいですね」
「人間とは全然違う、また新しい生命体が継ぐんじゃないですか?」
「人間の遺産を次いでくれるのでしょうか」
「人間より高等な生物なら、人間の遺産なんていらないですよね」
「空飛べる人間、だったりね」
「超能力使えたり」
「そうなったら、私たちは単に化石扱いですね」
「で、その新しく誕生した生命体もいつか絶滅する」
「それをずっと観察して楽しみとしているのは、やはり」
「やはり地球」
「すべては地球の手のひらの中」
「地球の地面の上、ですね」
つまり。
「生命の進化を最後まで享受できるのって地球だけなんですね」
「最後は地球。全て手に入れるのも地球」
「ってことか」
「だからお前ら人間は地球の掃除をしておけと」
「地球が望むことをしろ、と」
「でも、人間としての進化だって必要ですよ」
「人間の文明を進化させていって、最後のゴールは分からないんだぜ」
「そんなこと、考えた事も無いな」
「ゴールなんて、どうでもよくて…」
「文明を進化させないと、他の星の皆さんみたいな星間飛行ができるようにならないですよ」
「その文明は欲しいな」
「それができないのは悔しい」
「科学技術は、手に入れないと」
「そうなのです、進化のゴールがどうこう言う前に、我々地球の人間はまだまだ発展途上ですよ」
「まだまだ手に入れてないものがいっぱいあるのだな」
「それが欲しいから、とりあえず進化を続ける」
「悔しいから、追い付く」
「地球には進化のゴールが無い、と思っていたけど、こうやって何歩も先を歩いている人を見てしまうと、そうも言ってられない、ということかな」
「そうかもね。地球の人たちは、科学力を上げて、他の星との交流ができて、やっと生きる目的が何なのかを知るのかもね」
「でも、だからといって、うん●を崇めるとは限りませんよ」
「確かにその時になってみないと、その時代の地球人がどういう価値を見出すかは分からないな」
「戦国時代の人には、今の私たちの価値観なんて想像もつかない、という事と同じなのかもしれないですね」
それに
「何はともあれ前に進んで、より世の中を良くして、誰もが住みやすい、いい社会を作る、という事だって大切ですよ」
夜遅くまで彼女たちは語り明かしたが、週末の大会も近いし、終電があるうちに解散になった。
またここで集まろうと約束して。
そして2日後の土曜日。
県の陸上競技会が開催された




