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超ドSな地球の陰謀  作者: 新井S蓋
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第二話 「色が悪くなります」

そして翌日の放課後。


県央高校陸上部の一年生男子は、部室が狭くて使えないので、

教室で着替えることになっている。


俺は、Tシャツと短パンになって校庭に出ると、そこで信じがたい光景を

目のあたりにした。


昨日、河原で出会った、あの女の子がグラウンドにいるのだ。


色白でクリクリした目、ふんわりウェーブがかった栗色の髪、ほわほわした空気感。

多分、間違いない…。えっ同じ高校だったの、あの子?


しかも陸上部顧問に連れられ、陸上部の男女が作るミーティングの円の中に

加わろうとしている。


まさか、陸上部に入るとか?

1~3年生の男女で(かたど)られた円の一か所で、あの子が自己紹介した。


「今日から入部します、1年の蒼生(あおい)はるかです。よろしくお願いします」


ふわりと髪が揺れておじぎをすると、皆が大きな拍手で新入部員を歓迎した。

男子部員たちは蒼生さんの愛らしさに満面の笑顔だ。


どんな悪夢なんだこれ?

しかも蒼生さんとかいうあの子、チラチラこっち見てるし…。


何で入ったの、陸上部。

まさか、みんなに昨日のことをバラすつもりじゃないよな…。


準備運動が終わると円は崩れ、男女全部員がひとかたまりになって、

アップ走を始める。

面倒見の良いのぞみが新入部員の少女に近づき、一言二言話しかけていた。 


刈安かりやすのぞみ。

肩まで伸びた黒髪を輪ゴムで一つに束ね、日焼けした顔から笑顔弾ける

典型的なスポーツ少女。

同じ中学出身なのに、初めて会話をしたのは高校の合格発表日、という関係。

のぞみは中学時代、体操部だった。


高校で同じ陸上部になって以来、のぞみの方から、よく話しかけて来てくれる。


その、のぞみに…。


まさかお前、あのことを言うつもりじゃないよな。


俺の疑心暗鬼とネガティブな妄想が、ものすごい勢いで膨らんでいった。


おっと今、二人で笑ってたぞ。昨日の事話しているんじゃねぇのか。

あっ、のぞみが俺の方をチラ見したぞ。お前ら、俺をバカにしてるだろ!


疑っていたらキリが無い…。

あぁ、本当に疲れる…。


そうこうしているうちに、のぞみと蒼生さんは早速仲良くなって

アップ走を追えて並んで歩いている。

マズイ。もうバレるのは時間の問題かもしれない…。


俺は練習しながら二人の様子ばかりを気にしていた。

それにしても――。

一体何が目的なんだ、あの子?

そもそもアレをバラすことに意味があるのか?

ないよな…。


仮に「あの事件」をバラしたいのなら、わざわざ陸上部になんか入る必要ないし。

しかも7月っていうこんな中途半端な時期に…。

ハッキリ言うけど陸上部なんて疲れるだけで全然面白くないからね。

足の早いやつだけが楽しい場所だよ。


俺は、のぞみがグラウンドのあちこちに蒼生さんを連れて歩き回る姿を、

ハラハラしながら追っていた。


と突然、大きな発砲音がした。

トラックのゴールライン横に立つ陸上部顧問・柑子(かんこ)詩菜(しいな)先生が、

スターターピストルを俺に向けて撃ったのだ。


「山吹勇太君、なんで女子の方ばかり見てるんですか!」


ジャージ姿の女教師の右手に黒く光るmoltenの薬莢からは、白い煙が上がっていた。


26歳独身の女性体育教師・柑子先生は、150センチたらずの背丈と童顔で、

生徒とあまり変わらなく見える。

大学時代は有名な長距離ランナーだったらしい。


練習になると真剣(マジ)モードに豹変し、

その可愛らしさからは想像もつかないような声と銃声をグラウンドに響かせる。

練習中は常にスターターピストルを右手に携行し、俺たちの監視に当たっている。


たいていは銃口を生徒に向けて威嚇するにすぎないが、

たまに怒りが頂点に達すると、

moltenをぶっ放すのだ。


俺と並走する砂岡(同じ一年・長距離)がニヤけながらささやいた。


「おい山吹、新入部員の蒼生さんが気になるのか?」

「違うよ、別に見てねぇし」

「隠すなよ。バレバレだぞ」


あの娘を意識している事が、皆に気付かれていた。


その蒼生さんは、俺の方をちらちら見ているものの、話しかけてはこない。

のぞみの様子からすると、どうやらまだ言いふらしている事はないようだ。

今日陸上部入ったのは、たまたま偶然なのだろうか。

それにしてもタイミング良すぎるよな。


俺の事は覚えているのかな。

それにしても何であの河原にいたんだ?近くに住んでるのか、

同じ中学じゃないけど…。

そんなネガティブな思考をグルグルと続けているうちに

…ふとポジティブな解釈が思い浮かんだ。

昨日の女の子と蒼生さんは別人で、ただの他人の空似じゃないのか ―― と。


一筋の光明が差す。


俺が勝手に同じ子だと思い込んでいるだけではないのか?

本当に昨日の女の子?

俺もはっきりとあの子の顔覚えているわけじゃないし…。

昨日のあの子は制服を着ていなかったから、全然別の学校の子なのかもしれない…。


自分に都合のいい解釈がどんどん浮かび、肯定されていく。


でも声は似てたかな…いやそこまで覚えてないな…と堂々巡りを続けたりもする。


そもそも彼女の方こそ、昨日の俺と陸上部の俺が結びついているのか?

昨日の俺は制服で、今日はTシャツだし…。


きっと分からないでしょ、俺だってあの子の事うろ覚えなのに。

これっ…て俺の思い過ごしじゃないの。


万が一、蒼生さんがあの河原の女の子だったとしても、バラすとは限らないし。

もし暴露されたとしても、シラを切ればいいんじゃない?

何の「証拠」もないんだし…。


多分、この勝負勝てる…。大丈夫。


とは言え、しばらくはあの子に近寄らないようにするのが賢明だろう。


こうして俺の一人作戦会議は終了した。


練習を終え、教室で制服に着替えて、

高校の正門前にあるコンビニに一年男子部員達と立ち寄る。


すでに陸上部の先輩が、店のカウンター席を占拠してカップ焼きそばを食べていた。

店内は焼きそばソースの匂いに満ちて、空腹の高校生には刺激が強すぎる。


「先輩、美味そうなもん食べてますね!俺も今日は焼きそばにしようかな…」


砂岡が誘惑に負け、商品棚からカップ焼きそばを取り上げた。

他の1年生部員たちも次々に焼きそばを手に取り、レジでお金を払うと、

ポットからお湯を注いだ。


店の中にはカップ麺にお湯をかけた時特有の蒸したような匂いが立ち上り、

ソースの香りと混じり合う。

俺も今日は、焼きそばにしよう。


健康ヲタクの姉貴がいる我が家では、絶対カップ麺なんて許されない。

黙っていればバレないし、今日はいいよな。


自分に言い訳して棚の上のカップ焼きそばに手を伸ばすと、背後から

「ダメ」という声がした。

振り返ると、河原にいた女の子と同じ顔をした少女、蒼生さんが立っていた。


俺に向かって言ってるんだよな…。


胸が鼓動を打ち始める。


蒼生さんは俺の手の先にあるカップ焼きそばを見ながら、頭を小さく横に振っている。

これ、完全に俺を知っているっていう態度じゃん…。


やっぱり昨日のあの子だったんだ、と確信する。また俺の脳内システムが

異常をきたした。

店内には、のぞみや他の陸上部女子部員たちも入っていて菓子パンを物色していた。


でも、何なんだよ、この子。何がダメなの?

もう一度焼きそばに手を伸ばそうとすると、また「ダメ」と言う。


俺は彼女にだけ聞こえるような小さい声で確認した。


「な、なんだよ。何がダメなの」

「それ。カップ麺です」

「なんで」

「色が悪くなります」

「…」


やっぱりあの子だった。

昨日の女の子と全く同じ人格だ。


それにしても色が悪くなるって、何てマニアックなこと言い出すんだよ。

しかも、何で俺の体調管理までされないといけないの?


ただ…もう逃げることは無理そうだ…。


俺は遠回しに自分が抱えている疑問をぶつけてみる。


「俺のこと、知ってる?」

「昨日会ったじゃないですか」


そうなんだけどさ…。

これで人違い説、完全崩壊。


そしてさっきの彼女の発言の意味を、確認も込めてもう一度聞いてみる。


「色が悪くなるって、何のことだよ」

「うんこのことですよ」

「…」


はっきり言いましたよ、この娘。即答です。

しかもコンビニの店内で…。


他の人に聞こえてないよな、と周囲をうかがう。

大丈夫…かな。反応してる人いないし。声小さかったし。


改めてもう一度、まじまじと女の子の顔を見る。

やっぱりこの子、昨日のあの子なのかぁ……。


すっかり観念した。

これ以上しらばっくれるのも、ヤバそうだな。

堂々とうん●って言えちゃうみたいだし。


ここは逃げずに正面から、堂々と話し合おう。

でも、まずは空腹を癒したい。


「おなかが空いてるんだよ。食べちゃダメなのか」

「カップ麺じゃなかったらいいです」

「もう、何でそんなこと言われなくちゃいけないんだよ!」


と嘆いた俺の声が少し大きすぎた。


店内の何人かの目が、俺と蒼生さんの2ショットに集まる。


あれっ?いつの間にこの2人仲良くなってるんだ、という疑問が

彼らの表情から(うかが)える。


これマズイな。蒼生さんに逆らって事態を大きくすると面倒なことになりそうだ。

俺はカップ焼きそばをあきらめ、蒼生さんに指示を仰ぐことにした。


「じゃあ、何を食べたらいい?」


すると蒼生さんは店内をキョロキョロと見回して、

棚に置いてある食品を一つ一つ物色し始めた。

手に取っては食品成分表を探し、細かく確認している。


おい、どんだけ時間かかるんだよ。

もう空腹に耐えられなくなりそうだ。


きっと、体に良さそうなものならいいんだろ?


「なあ、あんまんだったらいいか?」

「あんまん?」


俺はレジの横にあるガラスケースを指差した。

この店は夏でも中華まんが稼働している。


蒼生さんはレジに向かうとケースの前でしゃがみ、

中華まんの敷き紙に書かれた文字を読もうと覗き込んだ。

その奇行に焦った俺は、早口で蒼生さんをアシストする。


「紙が白くて赤い印が付いてるのがあんまんだよ。

白い外の皮は小麦粉で中身はあんこ。小豆と砂糖ね。

カロリーはちょっと高いけど…」

「これなら、まあいいですよ。若干の添加物は気になりますけどね…」


お許しをいただいた。

残念ながら昨日もあんまんだったんだけど。


飲み物についてもうるさく言われ、蒼生さんが強く勧めたのが牛乳。


「これがいいです」


と指定されたのだが、

実は昨日、このコンビニでのぞみに、


「あんまんと牛乳の組み合わせは、おばあちゃんの知恵袋だよね」

とそそのかされ、

お腹をくだすという大失態を起こしている。


牛乳の提案を丁重にお断りし、

野菜ジュースという何とも微妙な飲み物があんまんのお供に選ばれた。


ちなみに蒼生さんは昨日の俺と同じ、あんまんと牛乳をチョイス。


店内が焼きそばソースの匂いで充満している中、

男女がお揃いであんまんを頬張るというのは、

ちょっと目立ちやすい光景だなと気になっていると、


「あれっ、お揃いじゃん。何、いきなりカップル誕生?」


俺たちを目ざとく見つけた砂岡が、明らかに嫉妬交じりで(はや)し立てた。


そりゃ格好の餌食(えじき)になるよな…。あっヤバい、のぞみにも見られた。


これ深い意味ないからね、と言い訳していると、

ジャムパンを持ったのぞみが、こちらに近づいて来た。


「あれっ蒼生ちゃんこんな所にいたんだ。

 陽太のお勧めは、あんまんと牛乳だったんだね!」


のぞみは、あんまんと牛乳という自分のお勧めコンビを、

蒼生さんが手にしている事に満足そうだった。


その蒼生さんは、のぞみの手に握られたジャムパンに関心を示していた。

おもむろにそれを自分の手に取ると、ジャムパンの袋の隅々まで眺めはじめた。


一瞬、あっけにとられたのぞみだったが、すぐに


「ジャムパンの方が良かった?」と笑って、蒼井さんに話しかけた。

「ちょっとあげようか」


そう言いかけたのぞみに、蒼生さんはジャムパンを返すと、


「悪くないチョイスです」

大きくうなずいて、笑顔を見せた。


「あんまんと牛乳」

蒼生が選択したこの組み合わせが、

この後、女子としてありえない事態を引き起こした。

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