第17話 「ヒトの三原色」
紅緒も含めた4人で河川敷のベンチに腰掛けて、俺はいくつもの疑問を一つずつ解き明かそうと思った。
「これからどうなるのかな?」
「分からないです」
淡々と答える蒼生。
「待つだけです」
「いや私は待たないよ。蒼生も本音はそうだろ」
紅緒が口を挟んた。
「紅緒、どういうこと?」
「私はあの隕石が落ちた場所に、うんこをするのさ」
胸を張って紅緒が堂々と宣言した。
「あそこにうんこをして、私の存在を地球に知らせて、新たな変化が起きる可能性にかけるんだ」
「でも、赤いうんこをしても意味はないでしょ」
「蒼生、お前は地球が青や緑のうんこを望んでいるって言いたいんだな」
紅緒は冷笑すると、
「確かに私の赤は、蒼生の青や、そこから生まれる緑にはかなわないさ。
でも…」
「でも?」
「白だったら、どうかな」
「白」
蒼生は愕然とした。
「そう、白は星が最も切望していると言われている色なんだろ。私はヒトの三原色理論を確かめてみたいのさ」
「ヒトの三原色?」
俺がまた新たに発せられたよく分からない言葉を聞き返すと、蒼生は説明を始めた。
「生まれてくる子供が作る色は、光の三原色のような法則を持つという理論です」
子供が作る色…うん○の色のことだよな。
「光の三原色は青、赤、緑で、これを三つ合わせると光は白になるんですが、この法則が、人類にもあてはまるという学説です」
「つまりだな…」
紅緒が横から口を出した。
「青と黄色から生まれた緑色の子供が、赤と青の人と交配すれば、白になるんだよ」
「そんなものは、机上の空論です!」
蒼生が大きく首を振った。
「ほとんど成功例がありませんし、まだちゃんと実証された学説ではありません」
「それを言うなら蒼生、地球は青くなりたいなんて誰が地球から聞いたんだ」
紅緒の指摘に、蒼生の動きが止まる。
「それこそお前たちの星の人間が盲信している宗教じゃないか。誰が地球と会話したんだよ。星間移動できるほど科学が発達した星の人間が、聖職者から聞いたとかって言い出すのか?」
紅緒の指摘に、蒼生が血相を変えて反論した。
「ヒトの三原色理論のなかでも白の法則だけは公式に実証されていないのはご存じですよね。あなたたち赤い人たちが盲目に信じているだけですよ」
互いに激しく主張をぶつけ合う二人。
だがその発言に、俺は妙な違和感を感じていた。
「ちょっと待って…。二人は今、科学じゃなくて宗教の話をしているのか?」
「科学と宗教には、密接な関係があるんですよ」
「いやいや蒼生、適当なことを言われては困るな」
紅緒は蒼生の発言に釘を差した。
「科学の発展と宗教や哲学の発達は必ずしも比例しないんだよ。地球だってそうじゃないか。蒼生の発言は科学と宗教が混在している。山吹、注意深く聞き分けた方がいい」
どういうことだ?
俺が理解できずにいると、紅緒は言葉を継いだ。
「人間は科学や物理の法則を見つけ出して、そこから様々なものを生み出すことは出来るんだ。もちろん他の星に行くことだって出来る。
でも、我々がなぜ生まれたのかは、私たちの星でもはっきりとは分からない。だから今でも多くの人達は大昔に作られた神話や宗教にすがって生きているんだ。私達はそれぞれの星に人間が生まれた理由があって、その星が必要に応じて人間を創り出したのだと思っている。我々人間が星に寄宿している生命体だということも自覚している。
ただ星が何を考え、何を求めているのかまでは正確に分からない。
人間の立場では、それは推測するしかない。
それが科学が発達しても、宗教や哲学がほとんど変わらない理由なんだ」
紅緒が話を終えるやいなや、間髪入れず蒼生は、
「紅緒さんが言っている、白いうんこの人が生まれるというのは迷信ですよ」
俺にそう訴えてきた。紅緒は
「蒼生が一人でいても、青い子供は生まれないよ」
そんな負け惜しみのようなことを言った。
「もちろん地球人と一つになって緑色の子供を宿す事は可能だろう。でもそれを地球が受け入れてくれる勝算はどのくらいあるんだい」
蒼生の表情が曇った。紅緒が目を細める。
「蒼生と私と地球の人間が一つになって、白い人類の可能性を探った方が、我々人類の未来のためになるんじゃないのか」
紅緒は口元をほころばせた。
「まあ別に今すぐじゃなくてもいいんだよ」
蒼生はそんな紅緒の言葉に耳を傾けることなく、訴えた。
「山吹君、残念ながら黄色い人間は近い将来、滅びゆく運命にあるんです。
信じられないかもしれませんが、これは受け入れなければならない事実です。
そして私もあと70年くらいしか生きられません。
地球が青い星を望んでも、70年ではどうにもならないはずです。
その生命の短さが理由で、地球が私を選ばない、という可能性もあると考えています。
それなら地球の人間と私がお互い手を組んで緑の子供を作り、その子孫が延々と生き続けてくれるのが一番いいと思いませんか」
「いずれにしても、この先どうなるかは誰にも分からないんだ。地球の選択に従うしかない」
「俺たちが今できることは、あの隕石が落ちた場所にうんこをして、その結果を待つことだ」
「でも…」
「なかなかあそこには踏み込めないよ。もう警察や消防者が来て、ロープを張っている。立ち入り禁止だ」
「馬鹿だな本当に人間たちは。こんな何万年かに一度のチャンスに、うんこをしない理由がどこにあるんだ。これは人類の未来をかけた絶好の機会なのに」
「それに、私と紅緒さん以外に、このタイミングを狙って他の星から来ている人がいないとも限りません。」
「こうしてはいられない」
蒼生と紅緒はいがみ合いをやめると、足早に隕石が落ちたあの木の方向に走り出した。
隕石が落ちた木の周りには、大勢の野次馬が集まり、警察がロープを張り巡らせて立ち入りできないようにしていた。放射性物質など宇宙の未知なる危険物質が含まれている可能性があるからだ。
「とても近づけないな…」
俺がつぶやくと、
「仕方ない…」
と紅緒がスカートをめくり、力づくで排便しようと歩みだした。
「紅緒!」
俺は紅緒の腕をつかみ、その行為を引き留めた。
「そんな恥ずかしていことはダメだ!」
「うるさい!いつまでもカッコつけてる場合じゃないぞ!もうここは強行突破しかないんだ。私は力づくでもあそこでうんこをするぞ!」
「紅緒さん、そんなことしたら、つかまっちゃいますよ!」
蒼生が説得して、紅緒の暴走を思いとどまらせた。
それから、蒼生と紅緒の二人は、どうやってあの隕石衝突地帯にう●こをするか、を喧々諤々話し始めた。
「警察に変装するか?」
「年齢的にバレます」
「あの場所にお母さんがいたんです!と訴えればいい」
「嘘つくのはダメですよ」
「仮にあの中に入れたとしても、いきなりパンツ脱いだら、捕まるから…」
「うーん」
「どこかほかの場所でうんこして、あそこに持って行くか?」
「ロープの中に入れないだろ」
「ロープの外から投げるのはどうでしょう?」
「でも届くかな…」
「おい!」
俺は憤った。
「二人はどんだけあそこで、うん…がしたいんだ!」
「そりゃしたいですよ」
「そのために地球に来たんだからな」
いやちょっと待て…。そんなに大事なことなのか、あそこでするのって…。
「教えてほしいんだが、あそこでう●こをすると、どんな効果というか変化というか、どんなことが起きるんだ?」
「すぐに何かが起きる、という事はないかもしれません」
蒼生が答えた。
「でも、地球が世界各地に温泉噴き出すほどに喜び、待ちわびていたことがやっと起きたのです。地球の意識は今、あの一点に集中しています。だからあそこに私のうんこをして、ここに私がいるという明確なアピールをしておきたいのです」
「お前ら地球の人間も、あそこにうんこしておいた方がいいぞ。地球が人類の取捨選択をするかもしれないからな」
紅緒が俺たち地球人にアドバイスした
「ただし…色の悪いうんこをした場合は逆効果だ。その人間は確実に淘汰されるだろう」
「えー」
ここまで沈黙していたとのぞみが絶句した。あれっ?のぞみも関心あったの?
「あの、私たち地球の人間…その黄色い人間でも、生き残れる可能性はあるんですか?」
「もちろんだ」
「もちろんですよ」
蒼生と紅緒が力強く肯定した。
「じゃあ…、私もします!」
のぞみも、このう●こ戦線への参戦を高らかに宣言した。うわーまじか。
「それにしても作戦が必要ですね…」
あの一帯に入ることは至難の業だ。明日になったら、マスコミや研究者なども集まって、いよいよ近づくのが難しくなるだろう。
できれば今般のうちに、あそこにうん●をしておきたい、そうだ。
「あの蛇みたいな植物は? 二人がグラウンドで球みたいなものを地面に投げつけた時に出てきましたよね?あれで隕石まで、その…うん…を届けるのはどうでしょう?」
のぞみが言いにくそうに提案した。
「いや、あんなものが出てきたら、地球は大パニックだ。ダメだ」
俺が却下すると、のぞみは、でもあの球は何だったんですか?と尋ねた。
「のぞみさん、あれは乾燥させてものです、私たちのうん…」
「わーわー!それ以上言うな蒼生!分かった!」
そうだったんだ…。あの時は暗くて色も何も分からなかったな…。
「なんだ、じゃああの球をそのまま投げれば?」
のぞみが明暗をひらめいたように提案した。
「でもロープから届くかな…」
「私たち女性では無理ですね。山吹さん投げてもらえますか?」
「いやー無理無理!」
乾燥した彼女たちのモノをつかんで投げるなんて絶対無理!
「まあそうですね」
蒼生はあっさり諦めてくれたようだ。
「できればフレッシュでいきたいんですよね」
はぁ?そっち?どんなこだわり?
そんな不毛としか思えない人類救出作戦を延々と続けていたが…。
俺はある作戦を思いついた。




