3話 赤髪の不良
「ふぁぁ〜、眠い」
早朝ということもあり、大きな欠伸をした俺が歩いているのは、昨日2回も通らされた学校への通学路だ。あの後、風呂を出た俺は月華から契約霊について教えて貰っていた。
大体の内容はこうだ。まず、契約霊は5つの科に別れている。その5つというのが神科、精霊科、悪魔科、天使科、特科なんだそうだ。そしてアシュの所属している神科は特科の次に魔力値が多いらしく、特科以外の全ての科の力を使えるんだそうだ。説明が下手な月華の代わりに要約すると2番目に強いってことだな。で、神科に唯一勝っている特科なんだが今のところ2体しかいないそうだ。あとはほかの3つの科の力関係はほぼ同じで能力の趣旨が違うだけなんだとか。ま、昨日話した話はこんな感じだ。
「リュウ君、朝っぱらからそんな眠そうだけど、夜更かしは体に悪いんだよ? 僕は見ての通り元気だしね!」
優しく訴えかけてくる俺の首くらいまでしか身長のない巫女服姿の小柄な少女。
「優しさを潰すようで悪いがお前はあの戦いから帰ってすぐ魔力の補給がどうのこうの言ってすぐに粒子になって俺のパーカーに溶け込んでただろ!」
俺はそこそこな声量でツッコミを入れる。
「ふふっ、やっぱり息ピッタリだねぇ、お笑いコンビになれそうだよ」
そんな的外れなことを言ってくる制服姿の少女。
「いやいや──」
「やっぱそー思うよね、月華ちゃん!」
またも即座に的確なツッコミをいれようとした俺の言葉をさえぎってヘドバンの如く頭を上下に振って頷きそんなことを言うアシュ。
べ、別に嬉しくなんかないんだから!
──と実際に言ったら流石にキモイので心の中で補足しておく。
因みに、巫女服なんてめっちゃ目立つ格好でヘドバンじみたことをしても反応するのが俺と月華しか居ないのは別にアシュが存在感が限りなく0に近い可哀想な子という訳ではなくて、
「でも、僕、契約霊だからみんなには見えないんだよね。実体化もできなくはないけどリュウ君に負担がかかっちゃうから.....」
という訳だ。
さっきまでのハイテンションとはかけ離れた小さな声で呟くようにそんなことを言ってくる。
「うぅ、夜宵君に似てよく出来た契約霊ね。大丈夫だよ、アシュちゃん! 私はちゃんと見てるから」
涙ぐむ仕草をしながら地味に、いや、かなり嬉しいことを言ってくれる月華。
夜宵君によく似てだって.....ぐふふ
「そーいえば、月華の契約霊はどこなんだ? まだ1度も見てないけど」
そんな下品な笑いを必死に押し殺しながら聞いてみる。
「あー、それはね。......あっ、学校着いたから後で話すよ」
周りを見渡し、そう言ってくる。
「そう、だな」
めっちゃ気になるけどそれが賢明な判断だろう。
一旦この話は中断することにした。
「なぁ、今日って何するんだろう?」
階段をのぼりながら俺はごく普通な問いを月華に投げつける。
「え? あ、えーと、多分係決めとかじゃないかな?」
「確かにそうか」
案外普通の会話って続かないもんだな。なんて思いつつ教室に向かっていく。すると、教室に入る直前に上級生と思わしき人物にガンを飛ばされる。服を着崩してる上に俺より身長が高く、髪を赤く染めてることもありめっちゃ怖ぇ。
逃げるように教室に入り席に着く。
すると、間もなくして担任が教室に入ってきてホームルームが始まる。その間に俺はオーバーヒートしそうな頭の中を整理してみることにする。因みに、月華の契約霊については予想はついている。恐らくはあの本を依り代としているんだろう。というのも1つ目の理由は物凄く大切そうにしていた事だ。契約霊の宿っている本ならそれは手放す訳には行かないんだろう。ましては狙われるほど強いのなら尚更だ。2つ目はあいつが寝ている間に少し見させてもらったんだが、表紙と背表紙はとても分厚く、いかにも魔法の書って感じだった。さらにいえば表紙と背表紙を繋ぐように鍵がかかっており開かないようになっていた。恐らく、顕現詠唱をするか魔力を流すことで開くようになるんだろう。
そんなことを考えているうちにホームルームはおわり、後ろから肩を叩かれ振り返る。
そう言えば、月華は結構抜けてる所があるもんだと思ったいたんだが、朝、俺が目覚ましをガン無視して寝てる所を起こしてくれたり、朝ご飯を作ってくれていたり、学校行く前、俺が準備をしてる間に食器洗いを済ませたりと、結構抜け目なくて今日の朝だけで既にかなり助かっている。
「ん? どうかしたか?」
考えていることを悟られまいと素っ気に返す俺に対し、
「今日、一緒に帰ろうね」
と、可愛らしい無邪気な笑みをうかべて言ってくる。
「おう、そうだな。道もまだ分からないだろうし、一緒に帰ろう」
そうだな。迷子になられても困るしな、うん。
ちょうどその時にチャイムが鳴る。
「じゃあ、授業始まるし、またな」
「うん」
ん? 今の会話リア充っぽくね?
前を向いた後でそんな浮かれたことを考えながら俺は眠りにつくのだった。
今日の授業という授業は無く、教科書が配られたり、係を決めたり部活の紹介があったりで5時間が終わり、放課となった。因みに殆どの係が男女1名ずつだったこともあり、俺と月華は書記になった。
俺はゆっくりと帰りの支度を済ませると、誰も居ない教室を後にし、月華の待つ玄関に早歩きで向かう。
「待たせたな」
「ううん、全然。さっきまで友達と話してたから大丈夫だよ」
「そうか、じゃあ行こうか」
俺達は帰るために歩き出すが、
「おーい! 龍討、昨日、明日は一緒に帰ろうと言っていたじゃないか」
あー、すっかり忘れてたわ。因みにこいつは確か.....今日こそは名前を覚えようと思ったのだがそれすら忘れてしまっていた。
「あー、すまんそうだったな。じゃあ一緒に帰るか」
多少月華対し罪悪感を抱きながらもこいつのメンタルの弱さが豆腐並なのは昨日のでよく分かっていたので泣く泣く承諾する。
「おっ、可愛い子つれてるね。君は龍討の彼女とかかな? 一緒に帰るってことはもしかして同居とかしてる感じなのかな?」
え? 何、ストーカーなの? 怖いんだけど。
しかもこいつの場合本当にしてそうで怖いんだけど。
「か、彼女ぉ!? そ、そん──」
「──な訳あるか! 友達だよ!」
テンパっている月華の言葉に割り込むように多少大きな声で否定する。
そんなやり取りをしながら校門を通り過ぎようとした時、
「おい、お前。止まれよ」
そんな厳つい声が聞こえてくる。
俺達は一斉に校門の方に目を向ける。そこには今朝校内であった赤髪の不良のような格好の男が立っていた。
「すみませんが今こいつのストーカー疑惑についての対処に追われていて手が話せません」
月華は少し怯えているし、俺も見るからにヤバそうなやつと話したくはないので逃げようとしているストーカー少年のI’mJAPANとか訳の分からんことが書いてあるTシャツの後ろ首の部分をつかみながら即答する。
いや、ほんとにI’mJAPANってなに? 絶対作った奴頭悪いだろ。ま、どーでもいいけど。
なんて思っていると、
「悪いな、お二方、俺は先にお暇させて貰うよ」
そう言うとTシャツを脱ぎ捨てて走って校門を出ていってしまった。
「お前が手を離せない理由は無くなったようだぞ?」
「はぁ、で? なんでしょうか?」
大きな溜息を着いた後、仕方ないので話を聞くことにする。
「ほう、自覚がないのかとぼけているのかは知らねぇが気に入らねぇなぁ」
怒りを隠さずそんなことを言ってくる。
「すみませんが何が言いたいのかさっぱり分かりませんね」
「そうか、じゃあお前がその膨大な魔力を隠さずに見せびらかしてるのはどうゆうつもりだ? それと、謎の書を持ってるってのはお前か?」
ヤバいまた頭が混乱してきた。
「魔力を見せびらかすって...それに謎の書ってなんの事ですか? 俺はそんな物.....」
「謎の書って私が持ってる本の事だ」
俺の隣で月華がボソッと呟く。
おいおい、マジかよ。またあの本が原因なのかよ。めっちゃ人気あんじゃねーか!
「クッ、ふざけたこと言いやがって、来いダークネス! 」
その声に反応し赤髪の不良の隣に黒い気のようなものが一旦人の形を作った後で地面に溶け、再び不良の手に2メートルくらいある黒を基調とした大剣の姿で現れる。
「くたばれぇぇ!」
不良はこちらに向かって走ってくると、地面を蹴って思いっきり跳び、頭上まで上げた大剣を俺目がけて振り下ろしてくる。
「顕現だ! 来いアシュレイ!」
俺は剣と化したアシュレイの両端を持ち、大剣が落ちてくるのを頭上で抑える。
それにしても重い。こんなの頭にくらってたら頭蓋骨が粉砕してたぞ。
「うぉりぁー!」
不良は1度大剣を後ろに引くと今度は振りかぶってから横に薙ぎ払うように攻撃してくる。
俺はアシュを地面に突き刺してその攻撃を防ぐ。
ガキンという金属どうしのぶつかり合う嫌な音がする。これ、アシュ折れないよな?
今度は斜めからの攻撃を俺は受けるが力の差があったことから思いっきり吹き飛ばされる。その衝撃で校舎の前まで戻ってきてしまった。人がいなくて良かった。
「終わりだァ!」
校舎正面の階段から跳びながら再び俺に向かって大剣を振るう。
俺は転がるようにその攻撃を避けると物凄い音がして地面がえぐれる。
「うわぁ、危なっ!」
「ケッ、避けられたか。ま、どの道これで終わりだ」
そういい、俺に大剣を向けてくる。
その時だった、地面が激しく揺れ俺達はバランスを崩す。
俺はすぐに体制を立て直すと足をかけ不良を倒し、首元に剣の切っ先を向ける。
「おい、止めろ! あいつは上物だ。こんな事をしてる場合じゃない!」
見ると階段の上にはチェック柄のスカートにミニワンピースを着た少女が立っている。
その少女が手を前に突き出すと3本の巨大な竜巻が現れる。
「おいおい、マジかよ」
「いや、だから早くどけって!」
下から怒鳴り声が聞こえる。
だが確かにそれはヤバそうだ。どいてやるか、やらないかを考えていると月華が小走りで俺のそばに来る。
「えいっ!」
目の前で合成され1本になった巨大な竜巻に月華が触れるとパァンというおとを立てて風は霧散する。そして次の瞬間、霧散したはずの風が月華の手に集まりそこから階段の上にいる少女に向かって真っ直ぐさっきと同じくらいの大きさの竜巻が伸びる。
「うわっ、なんだよこれ」
未だ俺の下で仰向けになっている不良も開いた口が塞がらない様子だった。
竜巻は30秒ほど吹き続け消えた時には少女ももう居なかった。
「はぁ、やめだやめ。戦う気が失せた。そこの子は普通の子だと思ってたのにそんな強かったなんて.....」
そういい、大の字になるように手を広げて戦意喪失した姿を見せる不良。
──だが、俺はそんなに甘くない。
「いや、何言ってんすか? いま明らかに有利なのは俺であって、あなたに戦いを終了させる権利はないんですよね」
俺は冷酷な口調で淡々とそう告げる。
「え? つまり.....どゆこと?」
「つまるところ、また攻めてこられても困るんで足を1本折らせてもらいますね」
笑いながらそう言うと
「嫌だ! 待ってくれ! もうお前らに危害は加えないからさ、な?」
なんて言う不良をガン無視し、横たわっている不良の右足を笑顔のままで躊躇無くアシュの嶺の部分で思い切りぶん殴るのだった。