演奏会
演奏を終え、僕は席を立ち、美鶴はヴァイオリンを抱え聴衆に向き直る。
そして合わせて一礼してピアノとヴァイオリンをカードに戻した瞬間、歓声が上がった。
その言葉は聞き取れないほどに大きく重なり合っていたが、決して非難するものではなく、むしろ称える声だという事が分かった。
村長は僕の手を取り、ちぎれんばかりに振っている。
その目からは涙をこぼしていたが、それは悲しみの物ではないと伝わってきた。
それから聴衆が落ち着きを取り戻し、解散するまでゆうに30分は要したが村長は僕たちのそばを離れなかった。
それから村長宅に連れて行かれた。
「ありがとう、老い先短いこの老いぼれでも素晴らしいものだと分かった。
冥途にいる妻にいい土産話ができたよ」
そういって涙を流していた。
恐らくこれが魂を揺さぶる、という楽器の効力なんだろう。
僕と美鶴のデュオを聞いただけでこれならオーケストラや美鶴の独走ならどうなってしまうのか少し怖いところだ。
「それでお前さんがたに尋ねたい、お前さんがたはいったい何者だ」
村長の雰囲気ががらりと変わった。
先ほどまでの剣呑な雰囲気から、獲物を狙う動物のような雰囲気に。
「駆け落ちした貴族です、野を越ええ山越え遠路はるばると」
「嘘はやめときなさい」
お決まりの言葉を並べている途中で村長に打ち切られた。
それから言葉が続かない。
「学生です、日本という国の東京という都市にある学校に通っていました。
なぜここにいるのか、あの楽器はなんなのか、ほとんど僕達にもわかりません」
「……嘘はついていない、けれど肝心なことは話していない」
このご老人は先ほどからなぜこうも鋭いのだろうか。
所謂年の功という者だろうか。
「そうだな、年をとればだれでも子供のウソくらいは分かる。
それが本気のウソかどうかも分かりますから村の者もあえて追及はせなんだ。
けれど私の立場ではそうもいかないので問いたださせてもらったがな」
「そうでしたか、ばれていたんですね」
「えぇそれはもうばっちりと
ただ雑貨屋のおやじは『あれは商人向きだ』と褒めていたが、吟遊詩人というのも悪くないのではないか? 」
商人に吟遊詩人か……儀入試人は資格がいらないなら今後の方針として頭の片隅にとどめておこう。
「それで、本題はなんですか。
まさかそれを問いただすだけではないでしょう」
「もちろん、お前さんがたもグリフォンの紋章を刻んだ鎧を見かけただろう? 」
グリフォン、言われて思考を巡らせたがそこまで詳しくは覚えていない。
けれどさっきの演奏の際、おそろいの鎧を着ていた人たちがいたのは覚えているし、それに紋章が刻んであったのも覚えている。
「恐らく今考えている者たちで間違いない。
彼らはこの村の西に有るセレナ王国の兵士でな、治安悪化を理由に派遣してもらったのだよ」
「……彼らが本国に僕らの事を報告すると」
「いや、既に報告済みだ。
セレナ王国は武芸のみならずあらゆる技術に精通した人物を集めている」
合点がいった、つまりセレナ王国は僕たちを招待したいのだろう。
けれどその後の事を考えるとお断りしたい気持ちもある。
「言っておくが逃げるのはあきらめたほうがいい。
セレナ王国は君たちを否が応でも招待するつもりだろうからな」
村長が少し言葉遣いを緩める。
罪悪感があるのか顔もしかめている。
「しょうがないか……最悪力技も考えておこう」
美鶴に小さく耳打ちする。
それに応じて美鶴もカバンの留め金をはずし、いつでも刀を抜けるように用意した。
僕の場合はカードを数枚、ポケットに仕込んでいるため特に準備は必要ない。
「それで、いつ招かれるんですかね」
少し声を低くする、合わせて言葉図解も崩すことで不機嫌ですよというアピールをして見せる。
「恐らく明日には迎えが来て、明後日には国につくだろう」
そうなるとここから馬か何かで丸一日はかかる距離という事か。
もしくは伝令に多少の時間がかかるのか。
どちらにせよ、腹はくくっておこう。




