村を見つけて
それからさらに3時間ほどかけて川を見つけた。
そこで一度昼食をとり、僕のカードや美鶴の刀を調べることにした。
まずわかったことは美鶴の刀は家宝の守り刀で間違いないようだ。
昔何度か振ったことがあるらしいが、感覚的に全く同一の物らしい。
僕には武器を振り回した経験がないから何とも言えない。
また僕のカードには大きく分けて2種類の物があった。
例えば今朝教室でやらかした【フラッシュ】等の魔法系カード。
描かれた生物や武器を召喚する召喚カード。
細かい分類では攻撃魔法や、回復魔法、防御魔法に区分されるものがあることが分かった。
召喚系にも一時召還と永続召喚の二種類があることが分かった。
文字通り、一度召喚したら召喚した生物が死ぬか、僕の意思で消すまで消えないのが永続召喚。
一定時間で消えてしまうのが一時召還だ。
他にも区分しにくいためその他扱いにしているカードも何種類かある。
また召喚は試した際に分かった事だが、基本的に召喚した生物は僕の言うことを聞くようだ。
最初は【ラット】という生物を召喚してみた。
カードにはHP:3 MP:0 筋力:1と書かれていたため、最も弱い召喚獣なのだろうと考え、美鶴に武器を構えてもらって召喚してみた。
するとその【ラット】は僕の命令を聞いたため、無害認定した。
なおその【ラット】は美鶴のデコピン一発で消えてしまった。
昼食後は夕暮れまで川を下って歩いた。
結局その日のうちに村か街を見つけることはできなかったため、野宿と相成った。
夕食も昼に続いて携帯食料と水だった。
普通なら見張りが必要なのだろうけど【シールド】と書かれた魔法系カードと、【ゴブリン】という召喚系カードを併用して美鶴と二人より添って眠った。
また焚火の代わりに【ファイアスライム】という常に燃えているスライムを召喚して代用した。
朝が来て二時間ほど歩いたころ、ついに村にたどり着いた。
やはりファンタジーにありきたりな、いかにも村といった見た目だったが僕も美鶴も気にすることなく村で情報を集めることにした。
「……おじさんこの皮袋の水筒はいくら? 」
商店で店番をしている中年男性に話しかける。
小さな村にありがちな排他的な雰囲気はなかったためある程度フランクな言葉遣いを気に掛ける。
「15シンだ」
シンというのはこの世界の貨幣なのだろう。
文字はわけのわからない記号だったがなぜか意味は理解できた。
「ふむ、ところでおじさん。
ここに金属製の丈夫な水筒があるんだがいくらかで買い取ってくれないかい? 」
例の宇宙空間が広がっているカバンから水筒を一つ取り出して店員のおじさんに診せる。
すると一瞬目を見開いてから「10シン」とだけ答えた。
「そうか、縁がなかったという事で」
「ちょっと待て! 」
水筒をそそくさとしまって帰ろうとする僕をおじさんが引き止める。
「最低200だ」
僕の言葉におじさんが言葉を詰まらせる。
先ほどから店の中を物色してわかったが金属製品は軒並み高い。
小さなカップが金属製なら120シンと明記されている。
「150でどうだ」
おじさんがしつこく引き留めてくるので無視して店から出ようとする。
「わかった200出す! 」
「俺は最低で200といったんだが?
別に他の店にいってっも構わないんだがな」
少し口調を荒くして見せる。
実際お金がないのは首がないのと同じだ、少しくらいごねても罰は当たらんだろう。
「……お前さんいい商売人になれるよ、くそったれ
300だ、これ以上は逆立ちしても出せねえ」
「いいだろう、交渉成立だ」
こうして僕は多少のお金を得ることができた。
もっともこの後すぐ、本当に多少のお金だったことを知る。
お金を手に入れてすぐ服屋に行って今着ている服を買い取ってもらった。
この時、美鶴と駆け落ちした貴族という事で店員をだまし、今着ている服を買い取ってもらう代わりに安い服を譲渡してもらった。
それから宿に向かい、一晩泊めてもらうことにした。
この宿代が素泊まり一泊100シンという金額だった。
これが安いのか高いのかわからないが、水筒一つで3日分と考えると金属製の水筒が高価なのだろう。
「それで、何度目の質問になるかわからないけど今後の予定は? 」
「さて、どうしたものかね」
多少明るい声を出してみたが気分は沈んだままだ。
何しろ当初の目的を完遂してしまったためやることがなくなってしまった。
それは今後の方針を新たに定めなければならないという事だが、そもそも方針を決めるといってもこの世界の常識を知らない以上何が命取りになるかわからない。
「美鶴はやりたいことない? 」
「お風呂入りたい」
その言葉を聞いて自分も美鶴も丸一日風呂に入っていないことを思い出した。
それに伴い体のあちこちがむずかゆくなる。
「今日は体を拭く程度で我慢しよう。
明日はどこかで風呂に入れないか聞いて、そのあと大きな町に行く方法とお金を稼ぐ方法を考えよう」
現状できることはないに等しい。
ならばせめて情報を集めてできることを増やす、それだけだ。
「ねえねえ春樹」
また少し考え込んでしまったが美鶴の声に我に返る。
彼女を見るとタオルとお湯の入った桶を持っている。
体を拭きたいから外に出てほしいという事なのだろう。
「終わったら外にいるから声をかけて」
そういった瞬間、美鶴に服をつかまれた。
「背中拭いて」
「断る」
こういったやり取りは日ごろから幾度となく繰り返していた。
幼馴染なだけあって一緒に風呂に入ったこともあるが、もう十年以上前の事だ。
さすがにこの年で裸の付き合いともなると意味が変わってくる。
「ぶー」
「ぶーたれるな、元の世界に帰れたら一緒に風呂に入ってやるから」
恋人、というと違和感があるが僕と美鶴の関係はそれに近い。
最初は親同士で「仲良くしましょうねー」と言っていただけだが、いつの間にか美鶴に好かれていた。
後々、高校生になってから美鶴は男子生徒からモテはじめ、その都度「春樹と付き合っている」と僕を断る理由にしていたため僕達は付き合っているという扱いになっている。
もっとも、僕は付き合っているという感覚はなかったが悪い気はしないし美鶴がいいのならという事でそういう関係になっている。
また美鶴からお誘いはよくあるが、デートとなると僕がリードする形になってしまう。
以前聞いてみたら僕と一緒にいられるだけで楽しいから計画が立てられないと言っていた。
また夜のお誘いもそれなりにあるが今の所キスまでの清い関係を続けている。
両親の目は言うまでもない、というかすでに孫の名前を考え始めている。
少し、元の世界に戻りたくないと思ったがそうもいっていられないだろう。




