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召喚術の支配者  作者: 人間失格
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食べ物の恨み 

'14年8月3日

本章を更新いたしました。

中途半端な更新大変失礼いたしました。

席について十分ほど経つと先ほどのバーテンダーが料理を運んできた。

そしておまけですと果実の絞り汁とゼリーらしき物が運ばれてくる。


まず僕が頼んだジャージ魚の塩焼きはヤマメのような魚の串焼きが三本、塩が焼かれて固まっている。

香りは普通の焼き魚だが、空腹には答える。

口の中でよだれが溢れそうになるのを飲み込む。


僕の向かいでは美鶴も同じ様子だ。

若鶏の卵蒸しはダチョウの卵の殻周りに彩が加えられていると言えばいいのだろうか。

見た目からはなんなのか全くわからないが、ジャージ魚の塩焼き以上に香りが強い。

卵と鳥とソースの香りが鼻孔をくすぐる。

よく見ると卵の殻に切れ込みが入れてある。


美鶴がその切込みに手をかけると蓋のように外れ、中からさらに強い香りが漂う。

軽く立ち上がって中を覗き込むとつやつやと光る卵が見える。

それを美鶴はスプーンですくうと、中には細かく刻んだ野菜と一口大の肉が入っているようだ。

それを口に運び、咀嚼して飲み込むと美鶴の表情がとろけた。


「おいしぃ……」


至福の表情、とはまさにこの事だろう。

量としてはだいぶ多いようだがひとかけらも残すまいという勢いで卵を口へ運んでいる。


僕もそれに倣って運ばれてきたジャージ魚の塩焼きを口に運ぶ。

串焼きとなっているため美鶴のようにスプーンなどは使わず手づかみだ。


「これはうまい」


思わず言葉にしてしまう。

多分僕は今目を見開いているだろう。

それほどにこの魚は美味しい。

まず普通に炭火で魚を焼くと脂が炭に落ちてしまう。

それを利用して香りづけを行う調理法もあるが、この方法では身がパサついてしまうことも多い。

かと言って油を残すような調理法ではベタついたりしてしまう。

けれどこの魚はその中間、程よい加減で焼かれている。

噛めばジュワッと溢れる魚の脂、けれどそれはくどすぎず淡白な身に十分な味わいを与えている。

二口、三口と手が止まらずすぐさま一本の魚を平らげてしまった。

それから二本目に手を伸ばす。

そして何も考えずにかぶりつく。

そこであることに気づいた。


まず客が増えているということ。

その客の内人組は遠目ではあるがこちらの様子を伺っていること。

そしてその視線からは何かしらの意図を感じてるということ。

最後に、美鶴が僕の法を見つめているということだ。


「一口食べる? 」


美鶴の眼前に今かぶりついたばかりの魚を差し出す。

その際テーブルに乗せた左手で最後の魚の串を摘んでおく。

その様子を見てか、美鶴は僕の魚に齧り付き、再び至福といった表情を浮かべる。

それど同時に卵蒸しの皿を掴んだのを見逃さない。


「春樹も一口どうぞ」


そう言って美鶴に差し出された卵蒸しを頂く。

パクリ、と口に含むとその香りの強さに驚かされた。

卵というのは調理によってここまで香りが強くなるものなのか、この香草は一体何なのか、この肉の味わいの深さはなんなのか。

とにかく言えるおは今までに味わったことのない甘さということだ。

驚きのあまり咀嚼することを忘れていたので歯を立てる。

茶碗蒸しやプリンのような食感かと思っていたが、もう少し硬い。

どちらかというとこんにゃくや寒天のような歯ごたえだ。

食感すら飽きさせない料理、一番人気は伊達ではないようだ。


この料理を食べた瞬間、異世界も素晴らしい、と思ってしまったのは悪いことではないだろう。

ただし、その感想はすぐに取り消すことになる。



「よう、仲睦まじい夫婦だなおい」


「独り身の俺たちに対するあてつけかい? 」


「迷惑料として奥さんを貸してもらおうか」


先ほど気になった客が僕たちに絡んできた。

美鶴に視線をやると、少し起こっているようだ。

昔から美鶴は何かを食べている最中に横槍を入れられる事を嫌っていた。

小学生の頃にはそれが原因でクラスの男子生徒を泣かせたこともあるほどで、それは今でも変わっていない。

それこそ食事の邪魔をする輩には刑罰を与えると言い出しかねないほどだ。


「おい無視してんじゃねぇよ」


絡んでいる客はその事に気づくはずもなく声を荒げる。

美鶴から視線を外して男たちを見る。

人数は3人。

顔が赤いのは怒っているからか、酒に酔っているからか、呼気から酒の香りがするので後者だろう。

格好は、3人とも僕達と同じ、こちらの世界ではありふれた服装をしている。

それぞれ腰からは片手剣、片手斧、メイスをぶら下げている。


先ほどのバーテンダーに視線を向けるが、笑顔で手を振られ、壁を指さした。

そこには【喧嘩は自己責任】とこの世界の文字で書かれていた。

客同士のいざこざに関わるつもりはないそうだ。


「おいっ! 」


先程から男が喚いていたが、ついに限界が来たようだ。

一人が腰からぶら下げていた剣テーブルを切りつけた。

剣の切れ味が良かったのか、テーブルが脆かったのかそのひと振りでテーブルが両断され、スープやドリンクの入っていた器が地面に転がる。

幸い中は既に飲み干しておりからだった。

また僕たちはあらかじめ料理を落とさないよう手で掴んでいた為そちらも無事だった。

けれど、剣を振るった男とは別の男が美鶴の料理を手で払う。

かしゃん、と小さな音を立てて卵蒸しが地面に叩きつけられた。

大きいとは言え所詮は卵、ある程度の衝撃を与えれば割れてしまう。

美鶴の持っていた卵もその例外ではなく殻と中身をぶちまけるに至った。


まずい、そう思い二本の魚の串を口にくわえて背負ったままだった両手剣を抜いて男たちの前に立つ。

それから直ぐにガギッという音とともに僕の両腕に衝撃が襲いかかった。

考えるまでもなく美鶴の攻撃だ。

それも音からして剣で切りつけようとしたのだろう。


「美鶴、落ち着いて」


僕の言葉に両手剣にかかっていた重圧が緩み、カランと音がする。

幅広の剣の向こう側を覗いてみると美鶴が剣を取り落とし、床に落ちた卵蒸しを涙目でかき集めて皿にのせていた。

少しそれを見守り、まだ口をつけていなかったジャージ魚の塩焼きを美鶴の前に差し出す。

美鶴は涙目のままそれに齧り付いて、僕も散らばった卵蒸しをかき集め、皿に盛り付けた。

それを美鶴が座っていた椅子の上に置いてバーテンダーに多めに金を渡した。


「騒がせた」


それだけ伝えて店を出る。

男たちは美鶴が切りつけたことにも、僕がそれから守るために動いたことにも気付けずぽかんとしていたが、店を出る直前には自分たちの状況を悟ってか顔を青くしていた。


それからしばらく美鶴は涙目だった。

けれど屋台でフルーツを串に刺したものを買ってあげるといつものニコニコとした笑顔に戻ってくれた。

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