競売会
宿に戻ると従業員が僕にはなしかけてきた。
どうやら武具店での話がすでに広まっているらしい。
どうして、と首を傾げていると従業員はニコリと笑って方に泊っている一羽の鳥を指差した。
あぁなるほど、伝書鳩ようなものなのだろう。
これで広範囲に情報をばらまいたわけだ。
そうなると商品を多めに用意しといたほうがいいかもしれない、すぐさま部屋で準備をする。
まず扉を召喚、腹を出して寝ている美鶴に布団をかけてやり、必要そうな物を近くに落ちていた普通のカバンに放り込む。
次にコピーのカードを使用する。
このカードだけはコピーできなかったため一日五回までの制限が地味にきつい。
最後に、それらを種類別に分けて商品を入れている大き目のカバンに移して完成だ。
「これで準備完了」
そうして美鶴を起こし、宿に戻ると同時に部屋のドアが叩かれた。
あわてて召喚していた扉を消す。
「お客様、準備の方が整いましたのでよろしくお願いします」
その言葉に従い、階下に向かう。
その途中で美鶴には事の顛末を伝えておいた。
人前に出る、という事に対しておびえているのか僕の服の裾をつまんで離さない。
まぁ今回はこのままでもいいか。
ロビーに行くと、従業員の計らいで食堂に案内された。
「皆様お集まりいただきありがとうございます」
僕の言葉に食堂にいたお客さんが僕を見つめる。
ここにいる大半の人はこれから何が起こるのか知っているらしく、懐から硬貨の入った袋を次々取り出している。
「私は商人のハルキともうします、こちらは妻のミツル。
少々内気な者でしてご容赦ください。
では長々と講釈を垂れるのはこの辺りにしまして、早速商売の話に移らせていただきます。
まず今回はお集まりいただいた皆様のために、競売方式での販売とさせていただきます。
ルールは単純、この商品ならこれだけ出していいというお金を提示していただきます。
他の方の額を見て、増やしても構いません。
時間は無制限です。
では最初の商品! 」
最初に出したのは中華包丁。
あちらこちらから鉈か、つまらんなどの声がする。
「これは料理用の鉈でして使い方次第ではこれ一本でなんでもさばけます。
この大きさですので肉を切るのにも野菜を切るのにも、それどころか骨すら簡単に切ってしまいます」
僕の説明に女性陣がピクリと反応する。
「この一本で異性に料理をふるまえば、その家庭的な一面に相手もいちころ、かもしれません
また奥さんへのプレゼントにも喜ばれるでしょう。
さぁ、最低額は100シンから」
先ほど武具店で見たナイフがこのくらいの値段だったのでそこから始めた。
すると女性中心に110!130!と声が聞こえ、200という声が聞こえたところで誰も値段を上げる者はいなくなった。
「200シンでいいですか、では200シンといった方前へどうぞ」
僕がそういうと小柄な女性が前へ出てきた。
そのことで僕が緊張する。
他の人と比べてきている服が綺麗だ。
髪もサラサラで手が荒れている様子もない。
おそらく、貴族だろう。
「では200シン、確かにお支払いしました」
「たしかに、ではこちらの包丁はあなたの物です。
ただし、使いこなすには練習が必要ですので頑張ってください」
「ありがとう」
貴族らしき女性は包丁を持って席に戻る。
「さあお次はこちら!
男性の皆さん必見!
春が東の国から直々に仕入れた、画家の描いた一冊の本!
その内容は女性には秘密、独り身男性の夜のお供にどうぞ」
そう言宇土近くの男性たちが身を乗り出してきたのでパラりと本をめくって中を見せる。
その瞬間、男性陣は前へ出てきた。
「最低落札額、200からでいかがでしょう」
その言葉に男性陣のセリ落としが始まった。
200から始まったそれはあっという間に500まで膨れ上がり、最後は二人だけになってしまった。
その二人も身なりがいいことから貴族のようだ。
少しまずい、このままではすべて貴族に買われてしまう。
収入にはなるが一般人には手が出せないと思われると商売にならない。
「800だ! 」
「800、これ以上の方はいらっしゃいますか。
ではいないようですのでそちらの男性800で落札です
おめでとうございます」
そして男性も前へ出てきてお金と本を交換した。
その際、貴族らしき男性に握手を求められたのは、なんだったのだろうか。
しかし、そろそろ一般のお客様にも何か買ってもらいたい。
「では三つ目の商品!
こちらは、貴族様向けとそうでない方々のための二通りがあります」
そう行って取り出したのは酒だ。
まず貴族向けには見た目がきれいなウィスキーやワインの洋酒。
一般の方向けの物は見た目だけは地味な自家製梅酒だ。
「貴族様向けは500から。
他の皆様向けの物は50からスタートです」
その言葉に全員が立ち上がり、最終的に洋酒は1500で。
梅酒は300で売れていった。
それからカバンに中身を一つ一つ、時には一般客向けで。
時には貴族向けで売った結果、最後の一つになってしまった。
「それでは、こちらが最後の一つです」
最後に取り出したのは人形だ。
最後に出てきたのがこれか、と客は落胆を隠せないようだ。
「本日はお付き合いいただきありがとうございました。
このたび最後にこの人形を出させていただいたのにはわけがあります。
この人形は私の友人から託されたものです。
その友人には妻がいました、仮にサクラ嬢とさせていただきましょう。
サクラ嬢と彼は長らく子供に恵まれませんでした。
しかし、ある日彼らの間に子供が生まれました。
その子供はすくすくと育ち、そして大人になりました。
彼の家庭は裕福ではありませんでしたが、いつも笑顔が絶えない家庭でした。
その家庭で、サクラ嬢がもらった者は親の愛と知識と一つの人形でした。
そのサクラ嬢から私はあることをお願いされました。
私は手先が器用だから人形を作りたい、だから布と針と糸を売ってください、と。
本来であればお断りするところでしたが、彼女の熱意に負け私はそれらを格安で彼女に譲りました。
そして、彼女は完成した人形を渡しに差出しこういいました。
『私が作った人形です、これを買ってください。お父さんとお母さんのために私もお金を稼ぎたいんです』と。
私は何も言わずにお金を払いました。
そして、彼女はそのお金で私からまた布と糸を、前よりも多く買いました。
それからサクラ嬢はいくつもの人形を作り続けました。
この人形は彼女が作った一つです。
とここまでは作り話です
値段は布と糸の代金と作り話の代金で5シンから。」
お客さんが全員性大にずっこける。
何人か作り話かよ! 感動を返せ! と口々に叫んでいるがその表情は明るい。
みんなそれなりに楽しんでくれたようだ。
「けれど、この人形はお子様や妹さんがいらっしゃる方に買っていただきたいというのが本音です。
子供と親は愛情がなければいけない、そんな世迷言を言うつもりはありませんが親が子を思うことは悪いことではありませんからね」
僕の言葉に、最初に包丁を買った女性貴族が手を挙げる。
「6シンで」
その言葉にみな1シンずつ吊り上げていく。
「では17シンで落札、おめでとうございます」
結局、最初に手を挙げた女性貴族が落札した。
そして女性貴族がにっこり笑って僕の手を取った。
「素晴らしいお話と時間をありがとう」
そういって宿を出て行った。
その手には包丁や人形が握られている。
その後ろを燕尾服の人物がついていく。
護衛件使用人といったところだろう。
それにぞろぞろと他の人も続いて出ていく。
みな大なり小なり何かしらの商品を持っている。
宿の従業員ですら梅酒を小脇に抱えているほどだ。
なんにせよ商人として初の仕事は無事終わったようだ。




