武具店
結局魔法店では果物を買っただけだった。
使い方も何もただ食べるだけで魔力の基礎地が高くなるものだそうだが、1個1000シンするためなかなか出回らないそうだ。
実際食べてからステータスを確認したら、僕の魔力の数値が増えていた。
「味は微妙だな」
渋いリンゴのような味わいだったためお世辞にもうまいとは言えない。
これは普通に売っても売れないだろう。
といつの間にか商人しそうになっていたがあくまでこれは偽装。
そこを忘れないようにしないといけない。
「お、ここ入ってみよう」
次に目をつけたのは武具屋。
異世界ときたら武器は定番だろう。
「らっしゃい」
店員がぶっきらぼうに僕を迎える。
それを無視して適当な棚にかかった剣や鎧を眺めて、それから店員に尋ねる。
「こいつよりもいい武器は置いていないか」
街に入る際持っていた両手剣を店員に差し出す。
それを受け取ろうとした店員が、僕が手を放した瞬間その剣を取り落してしまった。
床にぶつかる瞬間、派手な音を立てるだろうと覚悟を決めたが、その期待は裏切られた。
スッと音を立てず刃が根元まで床板に突き刺さってしまった。
それを店員は引き抜こうとしたがどうしても持ち上がらないらしい。
「兄ちゃんなんだいこいつは」
そういう店員の横に立ち、剣を引き抜くと片手で持ちあがる程度の重量だ。
何をそんなに苦労しているのだろうか。
「兄ちゃんどんな筋肉してんだい」
そういわれて自分の腕を見るが、それほど大した筋肉ではない。
ついでにおなかに手を当ててみてもぷよぷよとした感触が手に伝わってくる。
「まぁいい、その重量でその切れ味。
そんな名剣を超える商品はうちにはねえよ」
武具屋の従業員、口ぶりから考えると店主かもしれないが彼の言葉を信じるなら僕の持っている剣は相当な業物なのだろう。
けれど、これは少しまずいかもしれない。
実はこの剣、僕の持っている武具召喚系のカードの中では最弱の剣だ。
けれどこの店にはこれ以上の商品はないという。
それはつまり、この剣を使うとかなり目立ってしまう可能性があるという事だ。
これは美鶴にも言えることで、彼女に渡した剣は僕の物よりランクが高い。
親心ならぬ恋人心で渡したものだがそんな高価な物を持たせたら、刀を持たせているよりも危ないかもしれな。
「じゃあこの店で一番いい武器はどのくらいするんだい」
「10,000シン、俺の店じゃあそれが限界だ」
「ならこの剣は」
「その百倍だ、それだけの剣ならドワーフの国の首都にでもいかんと売っていない」
ドワーフ、ファンタジーではお約束の亜人だ。
空想上のお話によく登場している、有名どころでは北欧神話の闇のエルフや、白雪姫の七人の小人がこれに当たる。
その特徴は男女ともに背が低く、男は立派なひげを蓄えているという事。
そして力が強くすぐれた鍛冶彫金技術を有しているというところか。
「なら、この店の最高級の剣を……そうだな。
両手剣一本と片手剣を二本売ってほしい」
「……そんな良い剣を持っているのに何でうちの剣なんかを買うんだ。
こういっちゃなんだがそいつに比べたらこの店にある物なんざなまくらだぞ」
「こいつの価値に気付く人間がいたらトラブルの種になるからね、普段はしまっておくなりしておこうと思うんだ。
俺の妻も同じようなもの持ってるからその代用品をな」
「なるほどな……まぁ確かにそういう連中がいないことはないからな」
あぁ、やっぱりガラの悪い人はいるんだな。
下手に厄介ごとに巻き込まれる前に今日は宿に帰るか。
とはいえまだ日は高いからあと一件くらい回れるか。
「ならこいつを持って行きな。
うちの最高傑作の両手剣と、片手剣の中ではいい出来だった二本。
代金は合わせて2万5千だ」
「買った、ほれ丁度だ」
差し出された剣三本を一本ずつ確認してカバンに入れた袋から金貨を25枚渡す。
それを店員が数え終わるのを待って、店を出た。
後ろからまた来いよという声が聞こえてくる。
つぎはどうするか。
そういえば異世界のお約束の討伐請負人はどうなっているのだろうか。
ふと思い出して今しがた出たばかりの店に入る。
「また来いとは言ったがはええよ」
「すまんすまん、聞き忘れたことがあってな」
「なんじゃい」
「この辺りは野生動物とか魔獣の討伐とかどうしてんだ」
魔獣、名義上そう呼ぶが本当の呼び名はわからない。
「あーそれなら騎士団か討伐者だな」
「詳しく教えてくれ」
僕の言葉に店員がいぶかしげに眉をしかめるが、僕がこの辺りの人間ではないと気付いてか教えてくれた。
「まず騎士団はお前さんも街の門の所で見たはずだ」
門にいた兵士、あれは騎士だったらしい。
騎士というのは規律が厳しいというイメージがあるが、エロ本でうろたえていたのを見るとあながち間違いではないようだ。
「それから討伐者というのは魔獣の討伐を専門に請け負う集団だな。
この町にも斡旋所があるが、よほどの才能がなければ登録はできねえ。
まず試験が難しくてな、ある程度の勘定と言語ができねえと無理だ。
さらに人柄も選ぶため面接があるし、それなりに戦えなければ意味がねえから実技試験もある」
「そんなに厳しいのか」
「あぁ、その試験の時点で毎年数人死んでるほどだ」
毎年死人の出る試験、日本だったら大問題だがこちらの世界にその価値観を持ち込むのはお門違いだろう。
「その関門を潜り抜けた先でも待っているのは厳しい実力社会だ。
実力のないやつはまともな仕事を与えられず、たまに来る大きな仕事では実力が足りず最悪命を落とす。
正確な数は分からねえが毎年300人は死んでいるそうだ」
「300人、ずいぶんな人数がなくなっているんだな」
「そうだな、ついでに言えば騎士団のが人気は高い。
あっちは入ってしまえば安定した生活だ。
戦争でも起こらない限り、もしくは強大な魔獣の討伐でもしない限りな」
「ならなぜ討伐者なんて仕事があるんだ」
騎士団が安定しているならばみなそちらに流れてしまうはずだ。
けれど討伐者に毎年300人以上の補充があるというのはどういう事だろう。
「騎士団はほとんど貴族だ。
数少ない平民は相当な実力者だがな。
あとは貴族の紹介だ。
対して討伐者はほとんどが平民の出だが貴族もいる。
ただし貴族は三男とかが普通だ。
理由としては一攫千金が狙えてうまくいけば騎士団からのスカウトなんかもある」
「死にやすいがうまくいけば多額の金や安定した生活が手に入るわけだ」
「そうだ、それぞれに需要がある。
だから共存関係といった方がいいな」
「なるほどね、いろいろ助かったありがとう。
これはお礼だ」
そういってカバンの中から酒を取り出す。
それを見て一瞬口元が緩んだのを見逃さなかった。
「ありがてえ、そういや商人だったな。
他に何を売っているんだ」
「みるかい? 」
「おう、ぜひとも見せてもらいてえな。
そんな立派な剣を持ってる商人様の商品、是非見せていただきたいもんだ」
店員がにやにやと僕に視線を向ける。
これは嫌味や意趣返しではなく純粋に気になっているらしい。
「じゃあ今夜にでも熊の荒野って宿にきな。
宿屋の旦那が許せばあそこで今夜限りの商店を開いてやってもいい」
「そいつは楽しみだ。
あそこの旦那は俺から頼んでやるから頼むぞ」
いつの間にか商人として仕事を手に入れてしまった。
なんかだんだんこの方面で行く事に抵抗を感じなくなってしまった。
最初はただのいいわけのつもりだったんだがな……。




