街にたどり着いて
僕たちは街が見えると地面に降りて、徒歩で進むことにした。
その際に服はこちらの世界の物に着替え、村長からもらったお金を二人で分けておく。
また僕は武器召喚系のカードで作って武骨な両手剣を、美鶴は刀ではなく片刃の片手剣を2本腰からつるしている。
美鶴はカードの効果は使えないが、僕が召喚した武器は難なく使うことができる。
こちらの世界の常識にはまだまだ疎いが、こういった装備はあったほうがいいだろう。
もし問題なら消してしまえばいいだけだ。
そうこう準備をしながら歩き続けると1時間ほどで街にたどり着いた。
街は周囲をぐるりと壁に囲われているが、その壁は決して高いものではない。
せいぜい4mといったところだろう。
「お前たち、なにをしている」
壁を眺めていると唐突に後ろから声をかけられた。
あわてて振り返ると声の主は鎧を着ている、恐らく兵士なのだろう。
鎧の胸部、腹部、盾、剣と探してようやく目当ての紋章を見つけた。
これがグリフォンならば適当に言い訳して逃げようかとも考えていたが、刻まれていたのは簡略化されたドラゴンの紋章だった。
「商人見習いです」
あらかじめ用意していた返事を返す。
この返事はこのような事態に備えていたもので、ほかにもいくつかバリエーションがある。
「商人……? 」
兵士がいぶかしげに僕達を見つめる。
たしかに軽装なのでそう疑うのも無理はないだろう。
「親から『商人たる者自ら商品を仕入れるべし』といわれて、多少の金銭と適当な装備を持たされて家を追い出されましたから。
商人というよりは商人見習いです。
まだまだ売り物もな少ないので」
売り物に関してはさっきまで僕達が来ていた洋服や、コピーで持ち出した包丁や鍋、それと祖父のコレクションだった酒を数本持っている。
これらは全て普通のカバン入れて持ち歩いていた。
あと父のタバコや、父秘蔵の本もコピーして商品として用意してある。
また母のお気に入りの絵やアクセサリーもコピーして商品に加える予定だ。
「商品を見せてもらってもいいか」
「どうぞ」
そういってカバンを渡す。
少し大きいリュックだった為か兵士はよろめきながらもそれを受け取った。
「これは……ずいぶん上等な商品だな」
「よければおひとついかがですか」
「……賄賂は重罪だぞ」
「違いますよ、商人がなにより欲しいのは信用です。
貴方が僕達の商品を使ってください。
もし気に入ったら今度はお客さんとして買いに来てください。
不要なものがあれば買取もしていますんで」
これもあらかじめ考えていた答えだ。
ただこの答えには説得力があったらしく、兵士は納得してくれたようだ。
「では……これは何か教えてくれるか? 」
父の秘蔵の本を手に取り兵士が僕に尋ねてくる。
やはり男の心をくすぐるのはそれか。
「父の秘蔵コレクションです。
独り身の男性にはお勧めの逸品ですよ。
中身を確認しますか? 」
僕の言葉に兵士はピクリとも動かない。
それから数秒、動きを止めて本をめくり、あわてて閉じた。
「ここここここ」
「こけこっこー? 」
「ちがっこれはなんだ! 」
「父の秘蔵本です」
先ほどから話が進まない。
ただのエロ本相手に何を戸惑っているのだろうか。
「……もっとまともな本はないのか」
「まともな……といいますと」
「子供向けの、文字の勉強用の物とかは」
子供の勉強用、そういうものもあるのか。
ただ僕はそういうものは持っていないからな……。
「あいにく、今はまだ仕入れていませんね。
今回僕が持っているのは父や祖父の物をちょろまかして来た物ですから」
その言葉に兵士は茫然と言ったようにこちらを見据える。
「いやなに、今まで手伝いをしてきた分の給料変わりです。
母からも許可はもらってますから窃盗ではないですよ」
「……商人というのはたくましいものだな。
今回はこの……酒でも貰おうか」
兵士がウィスキーの瓶を手に取る。
瓶には大した装飾もされていないが、なかなかの逸品だったはずだ。
「どうも、では入っても? 」
「いや、一応ここに名前を書いて身分証を提示してくれ」
身分証、それをどうしようか考えた挙句僕たちは学生証を差し出すことにしていた。
何か言われたら地元の身分証という嘘をつくことにしていた。
顔写真も入っているし嘘はついていない。
「この辺りでは見かけない身分証だな。
さっきの本も内容はともかく素晴らしい絵だった。
どこの出身だ? 」
「東京という街の出身です。
日本という国の城下町です」
これもあらかじめ考えていた答えだ。
シミュレーション通りに事が進んでいることが少し怖い。
「この文字は君たちの国特有の物か。
ではここに名前を……かけるか? 」
「残念ながら数字以外はかけません。
代筆をお願いしてもいいですか」
「構わない、これは何と読むんだ? 」
「ハルキ・サクラダです」
僕が答える。
村で村長と話していた時に貴族以外は苗字がないと聞いていたがあえて苗字を名乗る。
「貴族だったか、失礼した」
「元貴族ですよ。
僕の国では苗字は全員持っていて、貴族は苗字と名前の間に貴族を示す言葉を入れているんです」
所謂ミドルネームというものだ。
とはいえこれは嘘なので表情の変化や声色に気を付ける。
「珍しい制度だな、そちらの御嬢さんは」
「あ、えっと、ミツル・サミダレと言いますはい」
「僕の婚約者です」
美鶴も予定通り偽名を名乗る。
婚約者というのはあながちウソではないが、美鶴は人見知りしてしまっているのだろう、声が上ずっている。
「美人だが……商人になれるのか? 」
「要特訓ってやつですね」
「では身分証は返す、それとこのカードを持っていなさい。
街からでる際に名前を伝えて返却するように」
そういって兵士は僕達に身分証と、銀色のカードを渡してくれた。




