戦闘と撤退と
「これは……」
案内された先にあったには飛行船だった。
僕としてはこちらの世界にこんな物があったことに驚いたのだが、使者はそれを別の驚きととらえたらしく、にやにやと視線を向けてきた。
「我がセレナ王国の誇る飛行艇です。
雄大な姿に有用性、安全性全てを兼ね備えた最高の船です」
使者は自慢げにべらべらと語っているが、この世界は化学より魔法が発展した、典型的な異世界といってもいい。
その世界でこれほどの物が作れるならば、それは確かにすごい事なのだろう。
けれど。
「戦場ではいい的だな」
飛行船は基本的にゆっくりとしか飛べない為、戦場では使えない。
実際僕が体験したわけではないが、以前何かの本にそう書かれていた。
これが最近の対空兵器の前に現れても、文字通りの的にしかならないだろう。
それは魔法があるこの世界でも同じだ。
遠距離を高火力で焼き払えるこの世界において、こんなものを飛ばしても的にしかならない。
弓や投石器しかないのならともかくだ。
事実その通りだったのか使者の笑顔が引きつっている。
「それにこれだけのサイズだ、どうしても目立ってしまう。
お忍びや、秘密の会合では使えない。
何より、この飛空艇は国家機密として扱うべきでしょう。
先ほどの口ぶりからするとこの国固有の物らしいですからね。
その見た目からどのように飛ばしているのか、どのようにエネルギーを循環させているのかを公開してしまっているようなものです」
「ぐ……ぬぐ……」
僕の言葉すべてが図星だったのか、使者の先ほどまでの勝ち誇ったような笑みは消え、今では憤怒と焦燥の入り混じった表情をぼくに向けている。
「挙句の果てに見知らぬ者をその中に招き入れるとは。
情報の漏えいに気を使っていないか、はたまた乗った者は情報を漏らすことができなくなるか」
最後の言葉に使者がビクリと肩を震わせた。
ビンゴだ。
恐らくこの船に乗った瞬間何かしらの精神操作を受けるか、飲食物に何かを混ぜる魂胆だったのだろう。
「なんのことでしょうか……」
僕が呟いてから返答までの時間が長い、今どうするべきか必死に考えているのだろう。
けれどこちらもどうするか考えなければいけない。
ウェルカムドリンクやらは適当に捨ててしまえばいいが振舞われた食事はそうもいかないからだ。
手持ちのカードにそういうものがあればいいのだが、なかった場合を考えると今逃げてしまった方がいいかもしれない。
「私共が信用できないと? 」
使者が声のトーンを落とし、腰からぶら下げた剣に手をかける。
それをどうするか、そう考えた瞬間美鶴がカバンから刀を取り出した。
「む……」
使者はそれに合わせて剣を引き抜いたが、美鶴は鞘に入れたままだ。
また使者は美鶴が持っている刀を見た目から木刀と判断したのか、再びにやにやと勝ち誇ったような笑みを美鶴に向けた。
恐らく作戦を変更したのだろう。
僕も美鶴も捕まえる方向に。
その証拠に飛行船からぞろぞろと、グリフォンの紋章の入った鎧の兵士が現れる。
こちらは僕と美鶴、パラディンとガーディアンとサモナーの五人。
普通に考えれば僕たちに勝ち目はないだろう。
「今なら痛い思いはせずに済みますよ」
誰が聞いても悪党の言葉だが、あいにく聞いてやる義理はない。
「僕達を捕まえてどうするつもりですか? 」
「そうですね、まずあなたは戦場にでも放り出せばそれなりに戦ってくれそうなので兵士にでもしましょう。
そちらの御嬢さんは、私の愛人として迎え入れて差し上げましょう」
その言葉を聞いた瞬間、美鶴が動いた。
刀を鞘から抜き放ち、瞬きをする暇も与えず使者の持つ剣に切りかかった。
チュィンという小さな音を立てて根元から県が切れるのを、僕も使者も何も言えずに眺めていた。
僕もびっくりしたし、美鶴も少し戸惑っていたが使者の驚きはその非ではなかっただろう。
後から聞いた話だが美鶴は斬鉄くらい出来て当たり前と言っていたが、地球にいたころより簡単にできたそうだ。
「【パラディン】【ガーディアン】【ギガンテス】【アトラス】【ゴーレム】【キメラ】【キマイラ】」
身に着けていた召喚系のカードすべてを開放し、兵士との戦闘に備えた。
つもりだったのだが、アトラスを呼び出した辺りで兵士たちがへたり込んでしまった。
「【ユニコーン】」
最後に足代わりの馬を召喚する。
撤退戦の始まりだ。




