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飛空箒 航程7 〜羽田創司〜

 木々の隙間から見えたのは、簡素な陣地とうごめく大地。

 地面が、小刻みに揺れていた。

 

伏層擬体レイヤーミミック……っ!」


 レナさんが舌打ちと同時に弓を引く。

 俺含め、驚きのあまり立ちつくすしていた残りのメンバーにもスイッチが入る。

 放たれた矢が“地面”に突き刺さった直後、めくれ上がった腐葉土の下から肉のようなものが露出した。


 「デカいぞ……!」

 

 ガイさんが盾を構えて前に出る。

 前方、木々が拓けた空間にテントが3つ。あれが拠点だろう。

 夜目開きのおかげで輪郭がはっきり見える。風の流れ、木々と地面、それらがズレて波打つ場所――拠点の周囲、その地すべてが擬態した魔物の群れだった。


 「手前に二、奥に三、……一体こっちに来ます!」 

 「サエ、下がって!」

 「は、はいっ!」

 

 ぎこちない動きで槍を抱えたサエさんが後退する。

 

 「っ、来るぞ!」

 

 ガイさんが叫ぶと同時に、木々をなぎ倒しながら迫っていた地面が弾ける。

 腐葉土が舞い、擬態が剥がれる。露出した肉の塊がうねり、地面ごと喰らい込むように“口”が開く。


 「ぐっ、重い……!」


 ガイさんが盾で殴るように受け止める。

 その隙を逃さず、タロウさんが側面に移動。レナさんが第二射を放つ。

 銛と矢が“伏層擬体レイヤーミミック”に突き刺さる――が、浅い。

 

 俺も踏み込み、斧頭で殴りつける。だが、表面に付着した地面が衝撃を吸収。

 まずい、打撃は相性が悪い……!


 その時――


「おっそいんだよアンタらぁ!」


 怒鳴り声が飛び込んできた。

 木々の間を蹴り抜け、ガイさんより更に大柄な女性が大剣片手に突っ込んでくる。


「ガイ! 盾甘いって言ってんでしょ!」

「ティナ!」


 ガイさんの隣まで来た女性――ティナさんは、その場で身体を反転。振り向きざまに大剣を薙ぎ、露出した"肉"を叩き切った。


「“肉”を狙いな!弱ったら逃げようとして地表・・から剥がれる!そしたら"(コア)"だ!」

「了解!」


 受けから攻めへ、ガイさんの動きが変わる。

 その奥、簡易な拠点の中央で、半透明の殻のような障壁が二人の人物を包んでいる。


 「無理無理無理無理! 来てるってぇ!」

 「ちょっと! なんで置いてってんのよ!早く助けなさいよバカ!」


 中には金髪の若い男と、サエさん同様スーツスタイルの女性。武器や防具は身に着けていない。


 「『瞬壁符しゅんへきふ』か」

 

 これまたピンからキリまである魔道具だ。防護結界を張る使い捨ての魔道具で、用途に応じて使い分けられる。

 

 「高いやつだけど長くはもたないらしいわ」

 「スペックは?」

 「物・魔兼用、防御力重視、全環境適応型……って聞いてる」


 俺の問いに、隣にいたレナさんが即答する。

 後で聞いたところによると、ティナさん、ガイさん夫婦所有の魔道具らしく、緊急時には非戦闘員保護のために使用する事で事前に相談していたらしい。

 

 多分、迷宮内での緊急帰還時の時間稼ぎ用だろう。魔術やアイテムによる帰還は色々あるが、安全な方法はどれも莫大なコストと時間を必要とする。

 全環境適応型ならかなりハイスペックだが、確かに時間は短い。

 

 となると恐らく、鼻からもたせるつもりで使ってない。

 

 「もって3分。急いで手前の2体倒して2人を回収しないと」

 「ほっほ、理解が早くて助かるのう。若いのによく勉強しておる」


 後ろから、老人の声。

 振り返ればサエさんの後ろに杖付きの老人が立っていた。……マジか、全然気配感じなかったぞ。


「前の2つ、連携しておる。右は囮じゃ、左が本命」


 驚いて視線を向ける。

 最初の一体に隠れるように、左からもう一体が迫っていた。


「ガイさん、左だっ!」

「っ!……んのぉっ!!」


 ガイさんが一体目を押しのけ、勢いそのままに旋回。不意打ちで突撃してきた二体目も、ギリギリのところで盾が間に合った。


 「ははっ、ナイス馬鹿力!」


 のけ反る一体目。その腹と地面の間に、一瞬見えた輝く玉石――“擬体核ミミック・コア”にタロウさんの銛が吸い込まれる。


 「――――――――――――!!!」


 声にならない断末魔をあげ、一体目が陥落。 

 

 続く二体目は――

 

 「ウチの旦那に……何してくれとんじゃあっ!!!」


 森中に響く咆哮と共に、ティナさんが水平に構えた大剣をフルスイング。ガイさん以上の怪力で“擬体ミミック”の身体が持ち上がり――飛来した矢が、腹部の“コア”を貫いた。

 

 「愛されてるねー」


 タロウさんの言葉に耳まで真っ赤になりながらも、ガイさんは無表情のまま。タンクとして信頼できる表情筋だ。

 

 「行くぞ! 回収だ!」


 ティナさんが叫ぶ。


「そっちの変態、前衛だな!そっちの若いのは!?」

「初対面でひどくないこの人?」

「臨機応変です」


 走りながら情報共有。自己紹介は後回しだ。


 幸いにも変態ウェットスーツ含めて前衛の数は足りている。

 斧頭による打撃はほぼ効いてなかった。特殊効果付きの刃先は気安く使えない。

 ここは一旦支援に回るか。


 ポケットから『夜目開き』の目薬を取り出し、効能を説明しつつティナさんに投げる。


「助かるよ!ほら、アンタも使いな」

「うっ……」


 ティナさんがガイさんに目薬を手渡す。

 拠点ここに来るまでの道中、3人には一度目薬を渡した。

 レナさんは自前で『夜目開き』の魔道具を持っているらしく固辞。ガイさんとサエさんは材料コウモリを聞いて断固拒否……だがまあ、この状況で使わない訳にはいかないだろう。 


「……」

 

 無表情のまま顔を強張らせたガイさんが目薬をさす。

 

「ひぇぇ……」


 普段から鍛えている探索者集団の全力ダッシュに何とか食らいついているサエさんも、半泣きになりながら目薬を使用……何かごめん。


 「わしは見えとる」


 爺さんも自前の『夜目開き』があるようだ。

 ……というか凄いぞこの爺さん。漫画ならシュタタッと擬音がつきそうな軽い身のこなしで涼しい顔のままついてくる。絶対杖いらないだろ。


 

 戻ってきた目薬をリュックにしまいながら、何か使えそうなアイテムがないか探す――そういやこれがあったな。

 

 先頭を走る前衛組が結界に到着するのとほぼ同時。パキン、と乾いた音がした。結界が割れる音だ。


「私とガイで後ろに投げる!後衛は受け止めろ!」


 ティナさんが声を張り上げる。

 薄膜が砕けて光の粒が舞う中を、タロウさんが全力で駆け抜ける。

 ガイさんは金髪の大学生、ティナさんはスーツの女性を抱え、後方こちらへ向けて放り投げた。

 

「ひぃぃぃっ!」

「ちょっと!ふっざ――」


 俺とレナさんでそれぞれ受け止める。


「サエんとこまで退避! そこ突っ立ってると死ぬわよ!」

「もう無理ぃぃ……!」 

「何なのよもうっ……!」

 

 泣き言と文句を垂れながらも足を動かす二人。

 前方を見れば、既にタロウさん、ティナさんが一体目と接敵している。


 「二体目も来るぞ!」


 ガイさんの声。

 右方で戦う二人とは反対側で、地面が盛り上がる。


 「俺も前に出ます」

 「いける?その斧……何か扱いずらそうにしてたけど」

 

 よく見てるな。


 「秘策がありまして」

 「秘策……了解。バックアップはするから」

 「お願いします」


 頷き合い、前に出る。

 

 「ガイさん、あいつの上に飛び乗ります!盾で飛ばしてください」


 俺の呼びかけに目を見開いたガイさんが、一瞬こちらに振り向いた。

 

 「――了解」


 はじめて表情動いたな。

 

 ガイさんが“擬体ミミック”をシールドバッシュで殴り、隙を作って数歩後退。直後に俺が到着。大地を蹴ってジャンプし――2歩目を受け止めた盾が、俺の身体を空中へ押し上げる。

 

 「おおぉおっ」


 若干バランスを崩しつつも“擬体ミミック”の上に飛び乗ることに成功。

 リュックから取り出した秘策――8万円のスコップ・・・・・・・・にロープを括り付け、“擬体ミミック”に突き立てる。


 「よぉしっ、刺さる!」


 <土壌軟化>の効果により、“伏層擬体レイヤーミミック”が体に纏う硬い地面・・にもスコップが刺さった。

 刃先が短く”コア”はおろか肉体にすら届いていないが、想定内だ。


 斧頭でスコップの持ち手部分を叩く。

 登山で用いるアンカーのように、しっかり土に食い込んだのを確認し、括り付けたロープを使って飛び降りる。

 ズルルッっと俺の自重に引っ張られたスコップが土中をスベっていく。

 着地と同時にロープを引っ張れば――“擬体ミミック”が着込む土の鎧が剥げ落ちた。


 「ガイさん!」

 「――っ!」


 裸になった肉体へ、剣が叩き込まれる。


「―――――――――!!」


 堪らず逃げようともがく“擬体ミミック”。

 僅かにできた地面と腹の隙間に、不自然な軌道で矢が飛来――正確に”コア”を打ち抜いた。


 

 反対側を見れば、ティナさんがもう一体を土の鎧ごと真っ二つにしていた。

 とんでもないなあの人。


 「向こうも片付いたようだ」


 ガイさんの声に頷きで返す。

 さて、そうなると――


 「……来ますよ。でかいの」


 先程から、こちらの様子を窺うように森の奥から動かなかった最後の一体。

 ここまでに倒した四体とは明らかにサイズの違う、小山のように巨大な“擬体ミミック”が、地表を震わせていた。


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