第9話 神を斬る理由
サクヤの刃が、巨大な核に触れた。
瞬間。
光が爆発した。
ドォォォォォォン!!
森が揺れる。
黒い災気が嵐のように吹き荒れる。
サクヤの身体が宙に弾き飛ばされた。
リョウが叫ぶ。
「サクヤ!!」
だが。
爆発は止まらない。
神の胸の光が、さらに膨れ上がる。
ドクン。
ドクン。
まるで巨大な心臓のように脈打つ。
リョウの顔が青ざめる。
「……だめだ」
「核が暴走してる」
神祀庁の男も初めて本気で焦っていた。
「この規模は……」
彼が計算するように呟く。
「半径数十キロ」
リョウが怒鳴る。
「街が消える!!」
神の身体が裂ける。
災気が空へ噴き上がる。
空が黒く染まる。
森の木々が次々と折れていく。
その中心で。
サクヤが立ち上がった。
口から血が流れている。
だが。
刀はまだ握っていた。
リョウが叫ぶ。
「もう無理だ!」
サクヤは核を見上げる。
巨大な光。
まるで太陽のようだった。
彼女は静かに言った。
「……まだ斬れる」
リョウが頭を抱える。
「なんでそうなるんだよ!」
サクヤは答えた。
「神だからだ」
「だから斬る」
そして。
刀を構える。
リョウが叫ぶ。
「核が大きすぎる!」
サクヤは言った。
「関係ない」
そして。
地面を蹴った。
爆風の中を走る。
神の胸へ。
再び跳ぶ。
空中で刀を振り上げる。
「――斬る」
一閃。
ザン!!
巨大な光に亀裂が入る。
だが。
壊れない。
むしろ光がさらに膨らむ。
リョウの声が震える。
「だめだ!」
「もう爆発する!」
その瞬間。
頭の奥で声が響いた。
祈り。
絶望。
悲鳴。
世界中の感情。
災気の流れ。
リョウの目が大きく開く。
見えた。
世界。
祠。
神。
そして。
この核。
それは災気の塊。
だが同時に――
命令を待っている存在だった。
リョウは叫んだ。
「サクヤ!!」
サクヤが振り向く。
「何だ」
リョウは叫ぶ。
「俺が止める!」
サクヤの目が細くなる。
「できるのか」
「わからない!」
リョウは神を見た。
巨大な核。
心臓のような光。
胸の奥が震える。
頭の奥で、何かが思い出される。
自分は誰だったのか。
何をしていたのか。
世界の神。
祠。
災気。
それを管理する存在。
それが――
中枢神。
リョウは手を伸ばした。
そして。
叫んだ。
「停止しろ!!」
世界が静止した。
爆発しかけていた光が。
ピタリと止まる。
サクヤの目が大きくなる。
神祀庁の男も息を呑んだ。
「……命令権」
巨大な核が、ゆっくりと暗くなっていく。
嵐のような災気も弱まる。
森が静かになった。
リョウは膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
全身が震えている。
「……止まった」
サクヤは核を見上げた。
そして静かに言った。
「今なら」
刀を握る。
「斬れる」
リョウが叫ぶ。
「やれ!」
サクヤが跳ぶ。
最後の一撃。
刀が振り下ろされる。
「――斬る」
ズバン!!
核が真っ二つになった。
次の瞬間。
巨大な神の身体が崩れた。
黒い災気が空へ消えていく。
ドォォォン……
森に静寂が戻った。
倒れた木々。
砕けた地面。
その中心で。
サクヤが着地する。
リョウはその場に座り込んだ。
「……終わった?」
サクヤが頷く。
「終わりだ」
少しの沈黙。
そして。
後ろから拍手が聞こえた。
神祀庁の男だった。
「素晴らしい」
リョウが睨む。
「……まだいたのか」
男は笑った。
「もちろんだ」
そして言う。
「中枢神の力」
「そして神喰らいの剣」
「両方確認できた」
リョウが怒る。
「実験だったのか!」
男は答えた。
「当然だ」
サクヤが一歩前に出る。
「次は」
「お前を斬る」
男は首を振った。
「今日は退く」
森の奥を見る。
「だが」
リョウを指差す。
「君は必ず回収する」
「中枢神は世界に必要だ」
そして静かに言った。
「神システムはもう限界だ」
リョウの胸がざわつく。
男は続ける。
「だから」
「我々は完成させる」
「巨大中枢神を」
風が吹く。
男の白い装束が揺れる。
彼は最後に言った。
「その材料は」
「世界中の神」
そして。
リョウを見る。
「そして君だ」
次の瞬間。
煙玉が弾けた。
白い煙が森を覆う。
視界が晴れた時には。
神祀庁の男は消えていた。
静寂。
リョウが深く息を吐く。
「……なんか」
「とんでもないこと聞いた気がする」
サクヤは刀を鞘に収めた。
カチン。
静かな音。
そして言った。
「つまり」
リョウが聞く。
「つまり?」
サクヤは森の奥を見る。
「神が足りないから」
「全部まとめて巨大な神を作る」
リョウが言う。
「うん」
サクヤは続けた。
「そして」
「お前を使う」
リョウは苦笑した。
「最悪だな」
サクヤは言った。
「だから」
「止める」
リョウが聞く。
「どうやって?」
サクヤは答えた。
「原因を斬る」
リョウは少し笑った。
「やっぱそれなんだな」
サクヤは森の外を見た。
遠くの街。
そしてその向こう。
世界。
「神堕ちが増えてる」
「理由がある」
リョウも空を見る。
黒い雲のような災気。
「うん」
サクヤが言う。
「探すぞ」
「神が壊れる理由」
リョウは立ち上がった。
そして頷いた。
「……旅だな」
こうして。
神喰らいサクヤと
元・中枢神リョウの旅が始まった。
神の終わりを探す旅が。




