第8話 止める者
森の空気が震えている。
巨大な神が二体。
黒い嵐のような身体を揺らしながら立っていた。
その影だけで、木々が折れていく。
リョウが思わず言った。
「……これ」
「街一個消えるぞ」
サクヤは二体の神を見上げていた。
そして小さく息を吐く。
「時間がない」
「だろうね!」
神祀庁の男が後ろで静かに言う。
「安心しろ」
「ここは街から離れている」
リョウが振り向く。
「そういう問題じゃない!」
男は微笑む。
「いや」
「実験としては理想的な環境だ」
その瞬間。
一体目の神が腕を振り上げた。
災気が渦を巻く。
ドォォォン!!
地面が爆発した。
サクヤが跳ぶ。
爆風を抜ける。
だが――
もう一体が横から腕を振るう。
ズォン!!
巨大な衝撃波。
サクヤは刀で受けた。
ガァン!!
衝撃で地面に叩きつけられる。
リョウが叫ぶ。
「サクヤ!」
サクヤはすぐ立ち上がった。
だが眉がわずかに動いている。
「……二体同時は」
「さすがに面倒だな」
リョウが言う。
「だから言ったろ!」
その時。
一体の神がリョウへ向いた。
闇の目。
ゆっくり腕が伸びる。
リョウの心臓が跳ねた。
「また俺!?」
サクヤが動こうとする。
だが。
もう一体が前に立ちふさがる。
ズゥン……
巨大な壁。
サクヤの動きが一瞬止まった。
神祀庁の男が観察するように言う。
「やはり」
「中枢神に反応している」
リョウは後ずさる。
「いやいやいや」
巨大な手が迫る。
逃げ場がない。
その瞬間。
頭の奥で何かが弾けた。
リョウの視界が一瞬白くなる。
そして。
口から言葉が漏れた。
「……止まれ」
その声は小さかった。
だが。
世界が止まった。
神の腕が。
空中で静止した。
リョウ自身が一番驚いていた。
「……え?」
サクヤの目が大きくなる。
神祀庁の男も初めて表情を変えた。
「止めた……?」
巨大な神が動かない。
まるで時間が凍ったように。
リョウは自分の手を見た。
「俺」
「何した?」
サクヤが叫ぶ。
「今だ!」
リョウが振り向く。
「え?」
サクヤはもう走っていた。
静止した神の腕を踏む。
肩へ。
そして胸へ。
嵐の中心。
そこにある小さな光。
サクヤが呟く。
「核」
刀を振り上げる。
「――斬る」
一閃。
ザン!!
光が砕けた。
次の瞬間。
巨大な神が崩れた。
ドォォォォォン!!
黒い嵐が吹き飛ぶ。
森の木々が大きく揺れる。
リョウはその場に座り込んだ。
「……できた」
だが。
次の瞬間。
ズォン!!
もう一体の神が動いた。
サクヤが振り向く。
「まだ一体」
だが。
リョウは苦しそうに言う。
「……無理」
サクヤが眉をひそめる。
「何?」
リョウは額に汗を浮かべている。
「今の」
「たぶん一回だけ」
神祀庁の男が小さく笑った。
「なるほど」
「神の命令権か」
リョウが睨む。
「お前」
男は言う。
「ますます価値が上がった」
そして。
静かに宣言した。
「中枢神リョウ」
「神祀庁は正式に君を回収する」
その瞬間。
森の奥の柱が大きく脈打った。
ドクン!!
残っていた神の身体が膨れ上がる。
リョウの顔が青くなる。
「……まずい」
サクヤが聞く。
「何が起きる」
リョウは震える声で言った。
「核」
「まだ残ってる」
サクヤの目が細くなる。
神の胸。
災気の中心。
そこに。
巨大な光が膨らんでいた。
リョウが叫ぶ。
「爆発する!」
神祀庁の男が驚く。
「何?」
リョウは叫んだ。
「災気の暴走だ!」
「これ街まで飛ぶ!!」
サクヤが刀を握る。
「核を斬ればいい」
リョウが叫ぶ。
「無理だ!」
「大きすぎる!」
神の胸の光は。
さっきの十倍以上だった。
森が震える。
空が黒く染まる。
神祀庁の男の顔色も変わった。
「……想定外だ」
リョウが怒鳴る。
「だから言っただろ!」
その時。
サクヤが前に出た。
リョウが叫ぶ。
「何する気だ!」
サクヤは答えた。
「斬る」
リョウが頭を抱える。
「だから!」
サクヤは続ける。
「一回じゃ無理でも」
刀を構える。
「何回も斬ればいい」
リョウは呆然とした。
「……バカだ」
サクヤは小さく笑った。
「知ってる」
そして。
巨大な神へ走り出した。
神の胸の光が膨れ上がる。
爆発まで――
あと数秒。
サクヤが跳ぶ。
刀が振り上がる。
「――斬る」
その瞬間。
神祀庁の男が初めて焦った声を出した。
「待て!」
だが。
遅かった。
サクヤの刃が――
巨大な核に触れた。




