第74話 選ぶという力
朝。
広場。
いつもより、人が多い。
ざわめきがある。
でも――
以前とは違う。
ただ集まっているんじゃない。
考えている。
一人の男が言う。
「俺は、こっちでやる」
別の女が言う。
「私は、協力所に行く」
その会話。
誰も止めない。
誰も否定しない。
ユナが小さく呟く。
「……選んでる」
リョウが頷く。
「ああ」
サクヤが言う。
「始まったな」
“選択”が、個人に戻った
これまで人は
押し付けられるか
流されるか
だった。
でも今は違う。
自分で決めている
その時。
一人の青年が、リョウに近づく。
「なあ」
少し迷いながら。
「どっちが正しいんだ?」
リョウは少し考える。
そして。
「どっちも間違ってない」
青年が戸惑う。
「え?」
リョウは続ける。
「ただ――」
一拍。
「代わりに、責任が来る」
その言葉。
重い。
青年はしばらく考えて、
言う。
「……じゃあ、俺」
拳を握る。
「こっちでやる」
リョウが頷く。
「いいね」
別の場所。
協力所。
神祀庁のシステムの前。
一人の女性が座る。
少し不安そうに。
でも――
決めている。
「……お願いします」
装置が起動する。
彼女の表情が、すっと楽になる。
小さく息を吐く。
「……これでいい」
こちらも“選択”
神祀庁の男がそれを見る。
「……興味深い」
人々が“自発的に”来ている。
強制ではない。
つまり――
このシステムもまた、
“選ばれている”
男が呟く。
「ならば問題ない」
だがその目は、
どこか鋭い。
再び広場。
リョウたちの側。
さっきの青年が、
少し苦しそうにしている。
ユナが気づく。
「大丈夫?」
青年は苦笑する。
「思ったより、重いな……」
リョウが言う。
「だろうな」
青年は頷く。
「でも」
少し息を整えて。
「なんか、ちゃんと“自分でやってる”感じがする」
ユナが微笑む。
「うん」
サクヤも言う。
「それが違いだ」
楽かどうかじゃない
“自分であるかどうか”
その時。
空気が揺れる。
ドクン……
全員が顔を上げる。
リョウが低く言う。
「……来るぞ」
神祀庁中枢。
“中心”。
あの存在。
その内部で、
変化が加速している。
今まで消されていた“意味”。
それが――
消えきらず、残り始めている。
そして。
混ざる。
絡む。
歪む。
男がモニターを見る。
「……想定外です」
初めての言葉。
中心の存在。
その表情が、わずかに動く。
閉じていた目が、
ゆっくりと――
開く。
“意味を持った神”が、目覚める
広場。
ユナが震える。
「これ……」
リョウが言う。
「……選ばされるぞ」
サクヤが続ける。
「ああ」
今度は人が選ぶんじゃない。
“神が、選ばせに来る”
戦いは次へ。
自由に選ぶか、
選ばされるか。
そして――
“完成しかけた神”が、意思を持つ。




