第72話 消えないもの
夕方。
広場。
いつものように、人が小さな“通り道”を作っている。
ゆっくりと、流す。
ゆっくりと、抜く。
順調――のはずだった。
一人の男が、首をかしげる。
「……あれ?」
リョウが振り向く。
「どうした」
男は手を見る。
「抜けたはずなのに……」
胸を押さえる。
「残ってる感じがする」
ユナが近づく。
「ちょっと、いい?」
男に触れる。
ドクン。
感じ取る。
そして――
ユナの顔が曇る。
「……ある」
リョウが目を細める。
「マジか」
同じ報告が、他でも上がる。
「軽くはなったけど、ゼロじゃない」
「なんか、芯みたいなのが残る」
サクヤが言う。
「共通しているな」
リョウが一人を呼ぶ。
「さっきの、もう一回流してみろ」
男がやる。
流れる。
抜ける。
でも――
やっぱり残る。
リョウが手をかざす。
ドクン。
深く干渉する。
そして、気づく。
「……これ、崩れねえ」
ユナが不安そうに。
「え……」
リョウはゆっくり言う。
「今までのは、“広げればバラける”やつだった」
「でもこれは違う」
サクヤが言う。
「構造を持っているか」
リョウが頷く。
「そう」
“意味を持った災気”
ただの負荷じゃない。
強い後悔
消えない怒り
深い絶望
そういう“形を持ったもの”は――
薄めても、残る
ユナが震える。
「これ……どうするの?」
リョウは答えられない。
今のやり方じゃ、足りない。
その時。
一人の女性が、ぽつりと言う。
「……これ、捨てたくない」
全員が見る。
女性は、ゆっくり言う。
「つらいけど」
「でも、これがあるから……」
言葉を探す。
「わたし、わたしでいられる気がする」
沈黙。
リョウの目が変わる。
「……なるほどな」
サクヤが見る。
リョウは言う。
「これ、“ゴミ”じゃねえ」
“その人の一部”だ
ユナが小さく言う。
「じゃあ……消しちゃダメ?」
リョウは頷く。
「多分な」
ここで、考え方が変わる。
ただの災気 → 流す
意味のある災気 → 扱いを変える
サクヤが言う。
「分けるか」
リョウが答える。
「選ぶ」
“流すもの”と“残すもの”を
ユナが不安そうに。
「そんなのできるの?」
リョウは少し笑う。
「やるしかねえな」
その時。
空気が揺れる。
遠くで。
ドクン……
あの感覚。
サクヤが言う。
「中心だ」
神祀庁の中枢。
“完成された神”。
そこにも――
変化が起きていた。
男がモニターを見る。
「……興味深い」
中心の存在。
その内部に――
“消えない何か”が、混じり始めている。
均一だったはずのものに、
わずかな“歪み”。
男が呟く。
「完全ではない、か」
リョウたちの問題と、
神祀庁の問題が――
同時に顕在化する。
リョウが空を見る。
「……次は」
ゆっくり言う。
「消すか、残すかじゃねえな」
サクヤが続ける。
「どう“変えるか”だ」
ユナも頷く。
「うん」
戦いは次へ。
“意味を持つ災気”をどう扱うか
そして――
“人であること”を残すかどうかの選択へ。




